私は、その日も大学へと向かっていた。

なぜかって?

それは講義を受けに行くためだった。


何の変哲もなく、

何の変化もない大学生活。


それももはや四年目を迎えようとしていた。






変化は突然訪れた。


大学の正門をいつものようにくぐる。

そこには、

それまでなかった異物が立っていた。



なんだコイツは!?


私は思わず声に出していた。

こんな「異物」はこれまでいなかったはずだ。


それが突然現れたのだ。

2003年2月の寒空の下、


ソイツは褌一丁で現れた。



???「なんだ貴様は?」

光一「うわ、しゃべった!!」


ソイツは唐突に、本当に唐突に声を出した。



光一「貴様こそ誰だ!!

先に名乗るのが常識だろう?」



チャキ



???「もう一度言ってみろ」

ソイツは私に槍を向けてきた。



危険だ、危険すぎる。

なんだって、こんな意味不明なヤツが大学構内にいるんだ?

ここは2003年の日本じゃないのか?


それとも、

私は紀元前のギリシアにでもタイムスリップしたのか?

まさか……



???「なにをブツブツ言っておる」

光一「非武装の人間に武器を突きつけて脅すのか?」




ソイツはしばらく黙って私を見ていた。

さすがの私も冷や汗が流れるのを止められはしなかった。



???「ははは、これは面白い小僧だ

なかなか肝が据わっているではないか」


ソイツは唐突に笑い出した。


???「なるほど、

確かに私から名乗るべきだな」

光一「覇者……違うか?」

覇者「ほう、よくわかったな?」

ソイツは幾分か驚いているようだった。


私は黙っていた。


名前入りだろうが……




覇者「まあ、いい。

では、貴様の名前も聞かせてもらおうではないか」

光一「光一という。この大学の学生だ」

覇者「ふむ、そのようだな」


光一「それ以前に、貴様に尋ねたい」

覇者「なんだ?」

光一「貴様は、

いつ、

どこから、

なんのために、

この大学にやってきたんだ?」

覇者「ふむ」

覇者は、空いている左手であごひげをしごきながら、何かを考えているようだった。



覇者「私は貴様が生まれる以前からいたとだけは言っておこう」

光一「馬鹿なことをいうな。

先日まで貴様のような『異物』はいなかった」

覇者「『異物』か、これはまた面白い。

『異物』というが、私からすれば、貴様ら全員が『異物』だ」

光一「私は言葉遊びがしたいわけではない」

覇者「まあいい、質問には応えてやる」



覇者は、この大学に来た経緯を、話し始めた。

すでに講義は始まっていたが、そんなのはどうでもよかった。



覇者が言うには、いつ・どこからというのは、「世界の理」が違うと言われた。

言っても貴様には理解できないということだろう。




なんのために、というのも明確には答えてくれなかった。

覇者「守るべきものがいる。ただ、それだけだ」

光一「守るべきもの?」

覇者「そうだ」

覇者はそれ以上教えるつもりはないようだった。





光一「というか、貴様に一言いいたい」

覇者「なんだ?」

光一「私は歴史学をやっている」

覇者「それがどうした?」

光一「学生が学ぶべくやって来る大学で

『覇者』はマズイ!!

と、それだけは言いたい」

覇者「なぜだ?」





光一「『覇者』ってのはな、




武力で天下を統一した人物なんだよ




今の世界で最もなってはいけない人物なんだ!!」


覇者「それは気づかなんだ。


では、貴様はどうするべきと考える?」


光一「そうだなあ」



私もそうまで言ったが、覇者は自分の名前にアイデンティティを持っているのだろう。

大学にいるのには余りにもナンセンスな名前であるが……





光一「とりあえず、宮田とでも名乗っておけ」

覇者「なんだ、その弱弱しそうな名前は?」

光一「この大学の学長だよ」

覇者「私はそのような地位に甘んじる漢ではない!!」


ジャキ


光一「槍を向けるな!! そのうちに銃刀法違反で……



おい」

覇者「なんだ?」

光一「法律は人間以外にも適用できるのか?」





これが、

あの寒空の下で私と覇者が交わした最初の会話である。



結局、

ヤツの頑強な抵抗のため、私はしぶしぶヤツを「覇者」と呼ぶことにした。


まさか、この時代錯誤のヘンタイが、

後に大きな事件に関わってくるとは、このときの私には予想もできなかった。


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