3/20(木)

出来事→アメリカによるイラク攻撃

特記→ブッシュ米大統領の演説


 どうも、光一です。

 私は歴史学をやっています。アメリカで一年半ほど前に同時多発テロが発生した時点で、アフガニスタンとイラクへの攻撃はすでに予想内のことでした。

 当然、歴史学を学ぶものとしては、アメリカの政策全般に対しての意見はあります。

 最初に書いておきます。私の態度は「戦争反対」です。これは、イラク攻撃という愚行がすでに現実のものとなったいまでも変わりません。

 以下に、ブッシュ大統領のアメリカ国民向けのメッセージを全文掲載します。そして、それに対するコメントを加えていきます

 特に注目する点は、太字にしてあります。

[イラク開戦] ブッシュ米大統領演説=全文

2003 年 3月 20日


 国民の皆さん、今この時間、米軍および連合軍は、イラクの人々を解放し、世界を重大な危機から守るため、イラク武装解除の軍事作戦の初期段階にある。

 私の命令により、連合軍は、サダム・フセイン(大統領)の戦争遂行能力をそぐため、重要な軍事施設の選択的な目標に対し攻撃を始めた。これから起こるであろう広範かつ共同軍事行動の開始の段階となる。

 35カ国以上の国が、艦船や航空基地の使用、情報活動や兵たん、戦闘部隊の展開などを援助するため、決定的な支援をしてくれている。この連合軍に参加するすべての国が、われわれの共通の防衛という名誉を共有し、その義務を引き受けるという選択を行った。

 中東地域で米国軍部隊に参加するすべての男性と女性に言う。混乱した世界の平和と、圧制を受けている者の希望は、いまやあなたたちの肩にかかっている。あなたたちは信頼に応えてくれるだろう。

 あなたたちが対決する敵は、あなたたちの技術と勇気を思い知ることになるだろう。諸君が解放する人々は、米軍の高潔で立派な精神の目撃者となるであろう。

 この戦いでは、米国の敵は、道徳の基準や戦争の取り決めに対して全く敬意を払わない者たちである。

 フセインは、イラク兵士とその武器を一般住民地区に配置し、罪もない男女、子どもたちを自身の軍隊の盾として使おうとしている。これは、イラク国民に対する(フセイン大統領の)最後の残虐行為となる。

 米国民、ならびに全世界の人々に理解してもらいたいことは、連合軍は全力をもって、罪のない市民に被害が及ばないよう努力しているということだ。

 カリフォルニア州と同等の面積の厳しい土地での軍事行動は長引き、予期している以上に困難なものになるおそれがある。イラク人民による自由で安定し統一した国家の構築を助ける仕事には、我々の継続した長期の関与が必要とされる。

 我々はイラクに入るにあたり、その国民と偉大な文明および人々が信ずる信仰を尊重する。我々は、脅威を取り除き、国家の運営をイラク国民の手に取り戻すことのみが目的であり、そのほかの野心は持っていない

 私は、我が軍のご家族の皆さんが兵士の安全かつすみやかな帰還を祈っていることを理解している。

 何百万人もの米国人が、あなたたちとともに、あなたの愛する人々の安全と罪のない人々の安全を祈っている。

 あなたたちの犠牲に対して、あなたたちは米国民から感謝と尊敬を集めるだろう。そして、任務を終え次第、われわれの部隊はすみやかに帰還するだろう。

 我が国は不本意ながらこの戦いに入ったが、我々の目的は確かだ。米国民と我々の友人、同盟国は、大量殺人兵器で平和を脅かす「ならず者政権」のいいなりに生きることはない

 我々は、こうした脅威に対し、後になって我々の町々で消防士や警察官、医師らが対処することがないように、陸軍、空軍、海軍、沿岸警備隊、海兵隊で対応する。

 今、戦いは始まった。戦いの期間を短くする唯一の方法は断固たる力の行使だ。私は、この戦いが中途半端な軍事行動ではなく、我々が勝利することのみを、皆さんに保証する。

 国民の皆さん。我が国と世界に対する危険は、克服されるだろう。我々はこの危険な時を耐えしのぎ、平和達成の仕事をやりぬく。我々は我々の自由を守る。他の人々に自由をもたらす。そして我々は勝利する。

 我が国と我が国を守るものたちすべてに、神のご加護がありますように。


 ※毎日新聞より抜粋


 で、以下に、私がこの演説に対するコメントを。コメントは、上記のうちで、私が太字にした部分に行います。


 @諸君が解放する人々

 これは、イラク国民を指して、ブッシュ大統領(以下、ブッシュ)は訴えている。しかし、よく考えてほしい。解放されるのは、本当にイラク国民なのか? アメリカは、中東戦略の行き詰まりを、イラン革命後はイラクとイスラエルに求め、フセイン大統領(以下、フセイン)はそれに応え続けているうちは、アメリカはその「圧政」とやらを見逃し続けた。しかし、フセインがそのコントロールに従わないと見るや、アメリカが打ち出したカテゴリーである。そして、アメリカは誰をどのような人々が、いつどのような状態を目指して「解放する」といったことは言及していない。解放されるのは、「国外でアメリカが支援している、親アメリカ派の財閥や政治組織」である。彼らがイラクの貧しい大衆を弾圧しても、アメリカはそれを無視するはずだ。その結果は、すでにアフガニスタンで見られている。アフガニスタンの政治家は、基本的にアメリカと利害を持っている。カルザイはアメリカの石油産業と深い関係を持った人物である。また、現在のアフガニスタンは一部の富裕層以外には支援など行っていない。麻薬や武器密輸で生計を立てている多くの民衆は、アメリカ軍によって住処を奪われ、今も多くが死に直面している。嘘だと思う人は、アフガニスタンの現状を調べられればいい。日本のメディアはあまり取り上げないが、外国のメディアや団体のページで調べればわかるはずだ。
 このような行為に手を貸すことは、貧富の差を拡大させ、多くの人々を憎悪の連鎖に駆り立てるだけである。


 Aこの戦いでは、米国の敵は、道徳の基準や戦争の取り決めに対して全く敬意を払わない者たちである。

 この解釈からすれば、現在アメリカ国内外で反戦活動をしている人々全てが敵だとも解釈できる。そして、「道徳の基準や戦争の取り決め」とは一体何をもって決められているのか? 道徳の基準とは、アメリカの道徳であり、悪はその利害に反する勢力の行動原理全般である。なぜなら、多くのパレスチナ人を虐殺し住処を追い出し続けたイスラエルは、イラク以上の虐殺を繰り返しているのに、非難されることはない。これがアメリカの道徳である。アメリカの道徳に敬意を払うということは、極端な話、「パレスチナ人は虐殺しても、アメリカ人が一人でも殺されることは許されない」=「イスラエルは正義であり、タリバンやイラクは悪である」となる。
 このような曖昧な基準は、常に都合よく解釈される政治の道具である。

 B罪のない市民に被害が及ばないよう努力しているということだ

 これは欺瞞です。
 なぜ、市民に被害が及ばないのでしょうか?
 イラクのライフラインを空爆すれば、イラクの病院は機能しなくなり、多くの患者が亡くなることでしょう。ミサイルが街に落下すれば数百名の市民が犠牲になるでしょう。戦争とはそういうもので、アフガニスタンでも十万人以上の市民が米軍の空爆で亡くなっています。
 市民に犠牲が出ないように努力すれば、必然的に戦争を回避せざるを得ない。その努力を放棄した以上、そのような美辞麗句で飾っても、この言葉は欺瞞として虚しく響くのみです。


 Cイラク人民による自由で安定し統一した国家の構築を助ける仕事には、我々の継続した長期の関与

 ここではっきりとアメリカの意図が述べられている。
 つまり、アメリカはイラクへ干渉したくて仕方がないのだ。なぜなら、イラン革命後の中東では、アメリカの石油戦略を支える国家は、イスラエル一カ国のみとなってしまい、その不安定さはアメリカにとっては頭痛の種であったからだ。だからこそ、フセインに援助をし、イラン・イラク戦争を引き起こさせたのだ。それに失敗した今では、とにかく世界で二番目の石油埋蔵量を誇るイラクは、是が非でもアメリカの傘下に置きたいのだ。イラクに親米政権ができるように長期の関与を続ける、あるいは援助をするとしてアメリカが新政権へ恩を売ることは、その中東戦略を補完させる意味合いが含まれる。
 そして、世界の要所を押さえたアメリカは、その権力を持ってより一層の世界戦略を進めるだろう。なによりも、中東一の軍事大国を傘下に治めれば、その影響力増大は無視しえなくなる。
 統一し安定した国家の構築とは、アメリカのための強力な政権作りである。


 D国家の運営をイラク国民の手に取り戻すことのみが目的であり、そのほかの野心は持っていない

 これは、運営をイラク国民へ戻すとする。つまり、フセイン追放後の統一選挙を指すのだろう。しかし、アフガニスタンでも見られるように、アメリカは事前に親米派閥を用意し、彼らに有効なメディア・選挙ノウハウを訓練している。その状態で選挙を行う。それだけではなく、その派閥へ選挙協力を行う。全面的な資金援助、相手グループへの妨害工作、こうして「統一選挙」が実施される。これは、地方の反フセイン派閥が政権の座に座るだけで、決して国民の手に国家の運営が取り戻されるわけではない。一番近くはアフガニスタンが好例だ。
 野心は露骨過ぎる。国連を無視してまで戦争に突入し、イラクの将来を他人であるアメリカ人が決めようとするのだから。


 E同盟国は、大量殺人兵器で平和を脅かす「ならず者政権」のいいなりに生きることはない

 これこそ、アメリカの欺瞞である。アメリカは、フセインに大量破壊兵器を提供した張本人である。これは、アフガニスタンで注目されたビン・ラーディンと同様である。
 しかも注目すべきことに、大量破壊兵器を世界でもっとも多く所有し、輸出している自分のことは棚に上げているのである。このことは、政府に従順な日本メディアは絶対に取り上げないし、タブーなのだ。
 そして、同じく大量破壊兵器を使用しているイスラエルは「同盟国」であるために、非難されない。日本政府もイスラエルに戦車などに使う精密機械を提供している。
 これは、矛盾どころの問題ではない。
 インドやパキスタンが核兵器を保有したとき、アメリカはどう対応したか? その後の国際情勢の変化とあわせて追ってみてもらいたい。イスラエルが核兵器を持っている(アメリカが提供)のは常識と化しているのに、それにアメリカはなんとコメントしてきたか、思い出してほしい。


 F不本意ながらこの戦いに入った

 明らかに嘘である。アメリカは最初から戦争を指向していた。国連への交渉をよく見てほしい。アメリカは戦争の許可を取り付けるために奔走していたではないか。その一方で戦争準備を進めてきた。戦争準備は昨年のうちに完成している。
 最初から戦争を目指していたのに、「不本意」なわけがない。「不本意」とすれば、アメリカ国内での反戦ムードと大統領不支持が徐々に増えてきたことであろう。これ以上の交渉を続けていると、アメリカは国内世論の関係で戦争への突入が困難になりかねない。それゆえ、「不本意」ながら「交渉を中途半端に打ち切った」のだろう。


 G我が国と世界に対する危険は、克服されるだろう

 これもまた、ありえないことだ。つまり、9/11テロから制限のない戦争に突入したアメリカは、戦争の先行きが見えなくなっていることに不安を覚えだしたアメリカ国民に対し、その不安を和らげるために言ったのだろう。
 しかし、アメリカが自らの手で世界を変えると明言し、国連を無視し、ユニラテラリズムに走った時点で、それはありえないことなのだ。
 アメリカは世界の人々の価値観を認めようとはしない。ブッシュは軍需産業と利害を持っているし、大統領側近には石油産業のオーナーもいる。その独善的な価値観の追求と、露骨な利益追求は、世界中の憎悪を煽って余りある。アメリカに対するテロは常に増幅されるだろう。だとすれば、それに対する戦争はいつまで続くのだろう。
 そして、テロと言ったが、注意したいのは、「国家の正規軍」が住民を虐殺するのは「戦争」で、「非正規軍」が虐殺・あるいは戦闘するのは「テロ」なのだ。
 テロ、とは基本的に貧困でアメリカなどの(日本含む)大国に搾取され続け、世界に訴えるすべのない人々の悲しすぎる訴えなのだ。この訴えをフィードバックし話し合える場ができるようになることが、テロを無くしていく方策となりえるはずだ。つまり、武力の行使と戦後の処理は「テロ根絶」どころか「テロの増大」になりかねない。
 今、世界は混乱の中へと突き進もうとしている。


 さて、以上が私のコメントです。他の指摘点などはいくらでもありますが、とりあえず、簡単に上記のものだけ掲載しました。

 もちろん、フセイン大統領が独裁者なのは事実ですし、国連決議の違反もしています。それに対する批判もあります。
 だからといって、戦争なのでしょうか? 戦争は人間にとって国家が公認した「最悪の殺人行為」です。なにがあっても許されません。
 人間にとって必要なのは、数秒で決断する戦争ではなく、交渉によって長時間かけても問題を解決していく忍耐力です。
 みなさんは、問題が発生したときに人を殴りますか? 殺しますか? いえ、話し合いをするでしょう。
 論が飛躍しているとお思いですか? そうではありません。なぜ、国家が殺人を公認し、個人の殺人はいかなる理由でも非公認なのでしょうか? そういうことです。
 殺人はいかなる理由でも正当化できません。


Current problemsへ戻る

TOPへ戻る