12/2(火)
イラクでの外交官射殺事件をどう捉えるべきか
時事問題の更新は約半年ぶりになります。
イラク戦争が始まる際に、私はそれに対して反対する意見を述べていましたが、その後も、武力行使反対を非難する政府官僚に関する、私のコメント<2003年4月4日掲載>で私は政府見解に対する批判意見を掲載しています。
そこで、政府がイラク戦争への関与を国益の観点で論じていることも述べました。
今回のイラクにおける外交官射殺事件は、政府のこれまでの見解に対するひとつの回答であると考えることができます。
これまで、中東地域においては日本人を狙ったテロというものは基本的には起こりませんでした。
要因はいくつか挙げられます。
@日本が中東地域を植民地化した経験がないこと
Aアメリカのような露骨な中東政策を採っていなかったこと(たとえばイランのモサデク政権を崩壊させるのにアメリカCIAはかなりの役割を演じています。その結果がパフレヴィー王政下の白色革命であり、その不満の表明としてのイラン革命・アメリカ大使館占拠事件)
おそらく上記の二点がとりわけ大きな要因でしょう。
しかし、これまでのアフガニスタン侵攻・イラク占領に日本が相当程度関与してきたのは周知のとおりです。
これは、それまで中東の人々にとっては中立的存在と感じられた日本への見方を大きく転回させるものになっていったことは疑問の余地もありません。
アラブ系の新聞を見た人からの話なのですが、日本の海上自衛隊の艦船がスエズ運河に現れたということを聞きました。
日本の海上自衛隊はインド洋での情報収集・補給作業に従事しているはずであり、もしこれが事実であるとすれば、日本政府は国民を欺いてまでイラク戦争に参加していたことになります。
もし、これが間違った情報であるとしても、アラブ系の新聞に日本の海上自衛隊の話が出てきたということ自体が大きな変化です。
というのも、日本がこれまで中東政策に関しては少なくとも「艦船・兵力」での関与というものは行っていなかったため、中東の人々にとっては日本というのは大して注目する存在ではなかったからです。
それが、ここ最近になって注目をされるようになっているということです。
これが意味するところは、これまでアメリカの後ろに隠れていたため見えにくかった日本の存在が、かなり中東の人々の意識化に入ってきたということであります。
そして、それが米軍との協力関係として見られているのは明らかであり、その場合、中東で民衆の敵意・懐疑にさらされているアメリカとの同盟者として日本が見られることを意味します。現に、日本がアメリカに協力するならばテロの対象になるといった「アルカイダ」の通告は、それらの状況を受けてのことでしょう(アルカイダという組織かどうかはマスコミの情報ですので不明ですが)
そこへ来て今回の外交官射殺事件です。
イラクにおいてこれまで米軍も相当程度の死傷者を出していますが、その被害が米軍と協力体制を採っているイギリス・スペイン・イタリア・韓国などにも及んでいることは周知のことと思います。
よく考えてみてください。
アメリカが中東での覇権を獲得したいがための今回の強引なイラク侵略・占領。これはイラクの国民のみならず、中東の人々にどういう影響を及ぼしているのでしょうか。
アメリカは最初は「大量破壊兵器発見のため」という大義名分を振りかざし、それが無理すぎるとわかると「民主化のため」というイデオロギーにすりかえていました。
つまり、アメリカにとって見ればイラクの人々の生活・文化は二の次ということが読みとれます。
それはブッシュ大統領の「これは十字軍なのだ」といったあの発言にも滲み出ています。
現に、今のイラク臨時政府の閣僚も反フセイン・親アメリカを基準としており、イラクの人々の支持を得ていないのは、その臨時政府の閣僚自体がテロの危険性から米軍の保護下にあることからも明白です。
テロの危険性からスペインは大使館を閉鎖し、韓国は兵士を基地の外に出すことを厳禁しているという有様です。
そういう状況下に自衛隊を送り込むメリットとはなんでしょうか。
現に外交官ですら狙われ、射殺されるという状況下で、明らかに武装をした数百名の兵士が送られてきた場合、イラクや中東の人々はこれをどう解釈するのでしょうか。
また、日本がこれほどイラク政策に肩入れするの何故でしょうか。
スペインが敢えてアメリカ寄りにするのは、イギリス同様にEU内での主導権を握るドイツ・フランスとの勢力関係から考えることができます。
韓国は北朝鮮と休戦状態、つまりはまだ戦争中であり、その脅威に正面から向かっている以上、アメリカに義理立てしているのは理解ができます。
つまり、日本だけはどうしてアメリカに義理立てするのか、それがわからないわけです。
自衛隊を送れば送ったで、多くの税金がそこへ投入されます。
すでに湾岸戦争以降に日本は米軍に対して10兆円以上の支出をしてきたわけです。
国民一人当たり十万円以上を払わされているわけです。
さらに、今回の外交官射殺事件が如実に示しているように、今度は自衛隊がそのターゲットになるでしょう。
しかし、さらに問題なのは、日本の民間人ですらその危険性にさらされることになるというものです。
自衛隊がもし、現地で襲撃を受けたならばどうなるでしょう。
米軍政策に従属する自衛隊は明らかなターゲットになることは、スペイン・イタリア・イギリス・韓国の例を見てもわかります。
襲撃を受ければ反撃することになるでしょう。
そうすれば今度は武装した日本人が中東の人々を殺害したことになります。
そうなれば、もうテロの連鎖は止めることができなくなります。
政府は「テロとの戦いは続けるのだ」と言っていますが、この場合、テロが「悪」でアメリカとその同盟者が「善」なのでしょうか?
テロとは合法的な訴えを退けられ続けた人が採らざるを得なくなった軍事的解決方法です。
では、彼らを抑圧しているのは誰なのでしょうか。
よく政府見解を聞くと、「これは悪で、こっちは善」という二元論に立っていることは読み取れると思いますが、人間社会は「善悪二元論」で決められるものではありません。
人間社会とは「白と黒」ではなく「灰色」の世界なのです。
つまり、「限りなく黒に近い灰色か白に近い灰色か」というのが実際のところです。
我々はテロという言葉で現地の人々の不満を覆い隠そうとする政府の二元論にも注意する必要があります。
日本は今こそアメリカの政策から距離を置くべきです。もっと別の方策を採らない限り、米軍に引きずられる形となり、中東地域では「侵略者の片棒」として記憶されることとなるでしょう。