【乃莉からなずな(ひだまりスケッチ:二次創作その5)】
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乃莉からなずな(ひだまりスケッチ二次創作5)

                                                      陽ノ下光一


「そうそう。変わっとるけど、面白い先輩達ばかりや」
 起動されたパソコンの向こう側には、400キロばかりの距離にいる、彼女の親友がいる。
「ひだまり荘に住んでる言うたら、周りから『えっ、あのひだまり荘』なんて言われてなー。先輩達に歓迎会やってもろた時、『美術科の変わり者が集う場所』なんて言われてなー。ウチ、別に変わり者でもないやんかー」
 ひだまり荘には、それまでインターネットなるものは引かれていなかったのだが、この年初めて開通した。103号室にこの春から住み始めた、彼女たっての願いによってだ。
「そやねー。3年生の先輩達は頼りになって、優しい人達だし、2年生の先輩達も良い人そうやね。変な先輩と、可愛い先輩って感じやな」
 インカム越しに通話をしている彼女は、時折関西人特有のイントネーションを交えながら、自らの近況を報告しているようだった。
 その時、部屋のインターホンが鳴った。
「乃莉ちゃん。ヒロさんが夕飯一緒にどうかだって」
「乃莉っぺも一緒に食べよー。なずな殿もいるよー」
 ドア越しに、先輩達の声が聞こえる。2階に住んでいる、ゆのと宮古のものだ。それぞれ、優しい雰囲気と、快活そうな感じで呼びかけてきた。
「あ、はい。今行きまーす」
 乃莉と呼ばれた女の子は、それに応えた。
「ミホ。先輩達に夕飯誘われたから、またなー」
 その後、今は遠くに住んでいる旧友と二言三言を交わして、乃莉は部屋を後にした。


 私立やまぶき高校は、美術科を有しており、全国各地から生徒が集まる人気高である。乃莉もまた芸術が好きな女の子であり、地元の友人達と離れる寂しさが無いわけではなかったが、遠く離れたこの高校を選択した。
 当然、片道400キロは通学可能な距離ではなく、彼女は1人、親元を離れて生活する身となった。
 高校の正門真向かいのアパートにちょうど空き室があるということで、通学にも都合が良いとそこを選択したのは、自然の成り行きでもあった。
 アパートは全6室で、既に2年3年の先輩達がそれぞれ2名ずつ生活しており、彼女ともう1人の1年生で全室が埋まった状況だ。
 入学式前、先輩達が自分達1年生のために歓迎会を開いてくれたのだが、そこで知り合った先輩達に対して乃莉が抱いたおおよそのイメージは以下の通りである。
 まず乃莉と同じ1階には3年生達が生活している。
「お夕飯、みんなで食べた方が楽しいわよ」
 とは、101号室のヒロ。彼女は穏やかで面倒見のいいお姉さん的存在だった。
「乃莉、まだこっちの生活には慣れてないよね? 何かあったらいつでも相談しにきなよ」
 とは、102号室の沙英だ。高校生ながらプロの小説家。長身スレンダーで理知的な頼れる父親のような雰囲気の美少女。この最上級生2人の関係は、互いが支えあう夫婦のようにみえなくもなかった。彼女達は、ひだまり荘の大黒柱というか、家族的雰囲気の象徴とも言えそうだ。
 2階には2年生達が生活している。まず、201号室のゆの。
「乃莉ちゃんは、パソコンとか使えてすごいね♪ 私、パソコンとか使った事ないよー」
 彼女は何事にも一生懸命だが、少し空回り気味。ただ素直で可愛らしい雰囲気の先輩だ。
「乃莉スケさん、この古いカーテン頂く事は出来ますか? うちの部屋、カーテンなくってー」
「一年間どうしてたんですかっ!」
 乃莉をこう驚かせたのは、202号室の宮古だ。
 まさに、「あのひだまり荘」と言われるゆえんの代表格。グラビアアイドルのようなスタイルを持ちながら、自らの服装には無関心で、性格は天真爛漫。女子が一年間も外から丸見えの生活を放置していた事が、その性格を物語っているようだ。ムードメーカーというか、トラブルメーカーといった感じ。彼女達は、3年生の2人とはまた違う形で、互いをパートナーとして自然体に支えあっているようだった。
 同じく2階には203号室に、なずなという同学年の女の子がいるのだが、内気な性格なのか、自己主張の強い他のメンバーに比べると、静かな感じだ。また、自分も含めた全員が美術科所属なのだが、彼女はひだまり荘初となる普通科の生徒だった。
 なずなの最初の印象は、あまりにネガティブに過ぎたものだった。それはもちろん、乃莉がなずなをネガティブと認識したわけではなく、なずな自身が自らをそう表現していたというものだ。
 入学式当日、自分や先輩達の前で、半泣きになりながら、なずなは自分を卑下するようだった。それは、元々地元に住んでいるのだが、父の単身赴任に伴って母親もついていってしまい、1人残された自分は、高校から近くて安心だという事で、このアパートに住むようになったというもので、
「私も何も出来ないのに……料理だって出来ないし、お掃除も苦手だし、絵も下手っぴだし、特技も趣味も無いし……」
 内気なだけではなく、自信を持てない性格なのか、言う内にそのまま泣き出しそうな雰囲気になっていた。ストレートで思った事がすぐ口に出てしまう乃莉は、膝をついて落ち込んでしまった、なずなを叩いて励ましたものだ。
「あー、もう。何ウジウジしてんの!」
「ふえっ?」
「なずなにも、ちゃんと良いとこあるよ!」
「の……乃莉ちゃん……」
 と、そこまで励ますのは良かったのだが、乃莉の長所と短所は表裏一体のもので、正直だが、どうにも一言多いのだった。
「まだあんま知らないけどさ!」
「うっ!」
 そう直接的に言われて、またもなずなは半泣き状態になってしまったのだが、確かに顔を合わせて半月も経たない内では、互いの長所短所など全部知りうる事は出来ないだろう。それをあえて口に出す必要もないはずなのだが。


 高校生活においても、他の先輩達はそれぞれクラスまで同じなので、一緒の時間と空間を濃密に共有しているようだが、乃莉となずなは所属している科が異なるため、校内で顔を合わせる事はそれほど多くない。
 乃莉も自分のクラスでの人間関係の形成に努めていた。時折校内で、男子がなずなに手を貸している様子が散見され、その雰囲気からは、なずなもクラスメートとそれなりに良好な関係を築いているようであった。
 ただ、ひだまり荘における生活では、上級生達が乃莉やなずなと一緒の食卓を囲んだり、買い物に誘ってくれるケースが多かった。
 そのためか、あるいは同学年という事、小さなアパートという事もあるのだろう。上級生を交えない場合でも、2人で時間を共有する事が少しずつ増えていった。それは思い出してみても、乃莉からか、あるいはなずなからか、どちらから先にそうするようになったのかは分からないが、
「そっかぁ、こうやって解けばいいんだあ……」
 普通科と美術科ではカリキュラムが違うものの、それでも主要科目の勉強内容は重なる。同学年でもあるので、互いに勉強しあう事もある。
「普通科のコの方が勉強できると思ってたよ」
 ある日などは、なずなに対して乃莉が勉強を見てあげていた事もある。美術に特化した自分よりも、何で普通科のコの方が分からないのかと、思わず苦笑せざるを得なかった。
「絵も勉強もできて、乃莉ちゃんは本当すごいね」
 純粋な好感のみの笑顔を向けられて、思わず乃莉は顔を赤くして照れてしまったものだ。
「そんなことないけど……ま、私にわかりそうなとこなら、いつでも教えるし……」
「本当? ありがとう〜♪」
 なずなはどことなく危なっかしくて、ついつい手を貸したくなってしまう雰囲気を持っていた。内気であまり自己主張をしないのだが、それがかえって周囲に人を集めずにいられない人間なのだ。
 しかもそれでいて、向けてくる視線や笑顔は空色のように透き通っていて、交流を続けている内に、思わず近くに置いておきたくなってしまうのだ。乃莉もそう感じずにはいられなかった。それに、事ある毎に頼られるのも、悪い気はしない。
 また、何でも自己主張してしまう乃莉には、なずなの控えめな態度が可愛らしく映ってしまうのも事実だった。
「……ねー、そいや、なずなはウチに何しに来たの?」
 ある休日に、なずなが部屋に来たのだが、その直後に先輩である、ゆのと宮古がやって来て、彼女達とネットをしたり、CGを描いていて、なずなの事を放置してしまった事があった。
「ううん、私の用はもういいの♪」
 丸半日もの間放っておかれたにも関わらず、なずなは笑顔だが、放置してしまった乃莉としては、さすがに気まずい。
「なずな来てすぐ、ゆのさんたち来たからスルーしちゃってたよ……何、何?」
 問いかけると、なずなは嬉しそうだった。
「もう用事終わったの♪ 乃莉ちゃんと一緒にお昼食べたかっただけだから♪」
 お昼……というのは、ネットで遊んでいる最中、宮古がお腹が空いたというので、ピザを注文して分け合って食べた事だ。
「なーずーな〜!」
 乃莉は思わず、なずなの肩をつかんで揺さぶりながら声をあげてしまった。
「ふぇぇぇ? ごめんなさいい〜」
 なずなの口から謝罪の言葉が漏れたが、心の中で全力で謝っていたのは乃莉の方であった。
 結果論的になずなが乃莉と過ごしたい時間が過ごせただけであって、乃莉がなずなを気遣ってそうなったわけではない。さすがに自己主張の弱いなずなに対したとはいえ、乃莉の方が罪悪感を感じずにはいられなかった。
 乃莉はストレートな性格で、一言多く思った事を口にしてしまう。おまけに、性格もちょっと意固地かつ偏屈なところがある。例えば可愛い物好きなのだが、それをおくびにも出そうとしないところもそうだ。
「乃莉ちゃんの部屋、さっぱりしててキレイだね〜」
 と、先輩のゆのに言われた際には、
「そーですか? まあ、あんまり無駄なものは置かないですねー」
 と応えたものの、クローゼットの扉がかすかに開いていたため、隠していたペットロボットを見つけられてしまった。
「わぁ〜、ファーボーだ〜♪ まだしゃべる? しゃべる?」
 こうして先輩にはしゃがれた時は慌ててしまったものだ。
「うわっ! いやあの、可愛いとか全然思ってないですよっ!」
 後日、なずなの頼みで、ラムールという羊のぬいぐるみをUFOキャッチャーで取ってあげた時などは、
「乃莉ちゃん、ありがとう〜! ラムール可愛いね」
 と、ぬいぐるみを押しつけながら抱きつかれた。この際も、慌てて否定したものだ。
「ちょっ……だから私はラムール好きじゃないってばー!」
 ただし、表情が赤くなっていたのは自覚があり、その点、自分は素直でないなと思うのだ。
 乃莉自身の長所は、ストレートな物言いで、物怖じせずに自分の考えた通りに行動できる事だろう。
 しかし、素直でない部分があり、心で思っている事と言葉に出すことが必ずしも一致しない、少し頑固なところがある。
 なずなという女の子は、ストレートに物言いされると、思わず涙ぐんでしまったり、弱気に過ぎる部分がある。
けれども、なずなと一緒にいると、混じりっ気の無い笑顔と声で、思わずこちらも素直にさせられてしまうのだ。
「乃莉ちゃん、おしゃべりしよ〜♪」
 人懐っこく部屋に尋ねて来てくれる彼女を、乃莉はいつしか心地よい存在に思えるようになってきた。この子の前では、気取る必要も無く、疲れないで何でも話せるのだ。なずなは相手の話をよく聞くし、その内容を否定しない。
 関西からはるばる都内まで出てきた自分が、異郷での生活に不安を感じないはずはないが、常にそれは押し殺している。さっぱりした性格の中で、内面に隠している部分である。
「わぁ〜、乃莉ちゃんの絵、素敵だねー♪」
「そ、そう。そうかなー」
「うん、そうだよー。写メ撮っていいかなー?」
「いいけど、どうするの?」
「うん。乃莉ちゃんからのコール画面に設定させてもらいたいの」
「えっ、ちょっと……恥ずかしいよ」
「こんなに綺麗な絵なのに?」
「う、ま、まあ、いいけどさ」
 こうして、なずなの携帯画像フォルダに、親友である乃莉の絵が追加された。
 なずなと時間を共有していると、風景も習慣も全てが違うこの場所に、不安をほとんど感じないのだ。彼女は人の気持ちを和やかにさせる何かを持っていて、それは本人の自覚は無いが、優れた資質だろう。
「乃莉ちゃん」
「何?」
「また絵描いたら、写メ撮らせてね♪」
「ま、まあ……私なんかの絵でよかったらいいけどさ」
「うん、ありがと〜」
 こうして乃莉は、入学した春の内には、この内気な女の子に半ば支えられている自分がいる事に気がつくのであった。
「先輩達もこんな感じだったのかな?」
「何が?」
「あ、いや、何でもない。何でもない」
 各学年の先輩達が互いを支え合っているように見えるのだが、自分達も外から見たらそう映るのかもしれない。そう思って、思わず口に出してしまったのを、なずなに聞かれて、慌てて何でもないふりをする乃莉だった。
 なずなはそれ以上問いかけをせず、またあの笑顔を浮かべて乃莉の心をつかんでしまうのだった。

【完】

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