俺には姉がいる。
名前は笹森琴美と言って、自慢できる存在だ。
小さい頃から俺の事を可愛がってくれた、俺の可愛い姉。
今日は、姉さんが引っ越してきた日について話そう。
それは春、何気ない日常の中突然起こった。
「雄途、久しぶり!」
マンションの部屋のドアが開き、俺の名前を呼びながら姉さんは入ってきた。
茶髪のやや長めの髪が白い上着に映え、彼女の明るさを表現する。
……というより姉さん、何故ここに!?
「姉さんどーしたんですか金はありませんよ」
「そこを何とかさぁ……じゃなくて、今日からここに住む事になったの」
「は?」
棒読みで聞いた問いには、驚愕の答えが返ってきた。
姉さんが、今日から、ここに住む、だと?
俺が家を出た後、姉さんは確か父さん、母さんと一緒だったと思うが。
「何故そうなったし」
「いやー、お父さんやお母さんに迷惑かけるのもだめかなって」
「俺の迷惑を考えた事は」
「ない」
「やっぱり」
姉さんが俺と一つ屋根の下で暮らす。
聞いただけで心拍数が上がり、体温が2℃くらい上昇してしまった。
一緒に暮らすということは、一緒に朝ごはんを食べたり、一緒にテレビを見たりとか……?
「どうしたの? 顔、真っ赤だよ?」
「何でもないわ」
その日の昼ごはんは、姉さんと一緒にファストフード店で食べる事になった。
「おすすめはあるの?」
「特濃チーズバーガーかな」
席を見つけ、姉さんと一緒に座った。
俺の向かいで姉さんは微笑み、コーラを口にする。
「ぁ……」
久しぶりに見た姉さんは、やはり綺麗になっていた。
茶髪が光で輝き、白い上着は姉さんの清楚さを出している。
少しだけ見える姉さんの生足は、上着に負けないくらい白く綺麗だった。
ぼーっとしている俺に、姉さんは心配そうにたずねる。
「何か様子おかしいよ? 風邪でもひいた?」
「……いや、別に」
俺のチーズバーガーを持つ手がなかなか動かない。
この気持ちは何と言うか、その、初恋に似ているような気がする。
相手が姉さんだという事は分かるのだが、まるでそうでないみたいだ。
「食べないなら私が食べるね」
全く動かない俺が持つチーズバーガーを、姉さんはぱくり。
まるい食べ跡を残しながら、姉さんは呆然とする俺に向かって微笑んだ。
「雄途の味がするね」
「そ、そうなのか?」
今、姉さん、俺の食いかけを思いきり食べていたような。
それって、その、間接キスと言うものではないのか?
姉さんの食べた後に俺が食べるって、何だか物凄く緊張する。
いや、緊張以前にもう、心臓が破裂しそうなんだが。マジで。
「食べないの? 私の食べかけはダメだった?」
「た、食べるわい」
俺は姉さんの食いかけチーズバーガーをぱくっと食べた。
普通のチーズバーガーよりも甘くて、何だかほんわかした味だ。
美味しい。1000円出しても良いくらい。
「雄途、ここのお金払ってくれる?」
「わかった」
「あれ、素直に払うなんて珍しいね。前までは頑なに断ってたのに」
「……たまには良いじゃねえか」
姉さんに払わせたくないのが本心だった。
喜ぶ顔が見たくて、俺はつい言っていたのだ。
夜は姉さんが手作りの料理を出してくれるらしい。
「何を作ってるんだ?」
「ヒ・ミ・ツ」
エプロンに着替えた姉さんはフライパンを持ちながら言った。
茶色い服に、水色のエプロンがよく合っている。
見とれそうになる自分に喝を入れ、俺は我に帰る。
「……手伝うか?」
「大丈夫だよ。雄途に食べて欲しい料理は私が作るから」
その瞬間、俺の胸は何かに打たれたかのような衝撃を受けた。
な、何故だ。何故俺は姉さんの言葉でこんなに興奮するんだ。
腕まくりをした姉さんの腕は細く、その細さからは考えられないほどの色気を辺りに漂わせていた。
姉さんの身体からは甘い匂いがして、俺の脳を停止させる。
「雄途……どうしたの?」
姉さんはこっちを見て言った。
意識がパージしていた俺は我に帰り、俺のすぐ前にいる姉さんを見る。
姉さんの顔はすぐそこにあり、恐らく、真っ赤である俺の顔はバレバレだ。
「様子、昼から変だね。ひょっとして、私が来たから?」
「っ……」
息が詰まり、心臓の心拍数は跳ね上がり、手足はがくがくと震える。
立てなくなってその場に崩れた俺の顔を、姉さんはしゃがんで覗き込んだ。
胸の谷間がちらと見え、俺は顔を背けながら呼吸を整えようとする。
「……私で、興奮してるの?」
姉さんは俺の両肩に触れた。
姉さんの顔もほんのりと染まっていて、吐く息が荒くなっている。
そして視線がぶつかり、姉さんは力なく俺の方にもたれかかった。
俺を抱くように姉さんは倒れていて、胸が俺の胸板に当たる。
「姉さん……何で」
「おかしいの。何だか……変な気持ち」
姉さんの手が俺の肩、腕、手の甲。
滑るように移動して、俺の皮膚をくすぐっていく。
「……はぁ、……はぁ」
「姉さん……」
姉さんの息は俺の顔にかかり、鼻の先を湿らせた。
嘘だろ……どうして、姉さんが俺を?
俺の中でも訳が分からず、ただパニックになりながら姉さんを受け止める。
そして姉さんは、言った。
「キス、してもいいかな」 |