【雪空の下】
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首落ち花

陽ノ下光一

 

雪降る寒々とした庭に咲き誇る赤は、本当に趣き深いものです。

「なにゆえかやうなものを欲しがるか」

 あなたは目をおつぶりになり白い息をひとつ。

「冬の寂しさに。あなたさまはふたつ返事でしたわ」

「今では後悔しておるわ」

 苦々しい口調。寒いと申されて屋敷の奥へ戻られる背中。続くはわたしの衣擦れの音。残るは雪中の赤。

 試してみとうございました。女であるわたしは、いつも傍にはいられないから。

 坂東の男が忌み嫌うその花で。

 あなたの志も。この世界での契りの強さも。

 あの白き世界に、己を強く打ち出すその色に。

 不浄の色。だけど。

 首落つ様と流れる血に例えられる花。だけど。

 縁はそれすら超えるのだと。

 

 

 だからわたしは……。

 

 

 

「尼御前さま。本当によろしいので」

「かまいませぬ」

「しかし、あれは先代さまから」

「だからです」

 下僕はためらいながら、根元に当てた刃を引き始めました。

 花はそのたびに、ぽとり、とあはれに落ちます。

 志はとても深うございました。

 だから、所望を受けられたのですね。

 この木を削り杖を作ります。

 あなたのもとへ歩くために。

 笠にはこの花を。

 わたしを見つけられるように。

赤不浄。よいではございませぬか。

もともとわたしは不浄の身なのですから。

これ以上、罪が増えようとかまいませぬ。

あなたがしてくれたように。

わたしも志にこたえたいから。

 

 

 だからわたしは……。


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