【10年後】

※白金 将さんのブログ「白金家の座談会」の、姉萌え短編小説集「L sis」1作品目。
2012年7/25以降に、ブログ内にてアップしていく内容について、寄稿してもらいました。
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 ぼくのお姉ちゃんは、とっても頭がよくて、とってもかわいいです。
 よくお姉ちゃんにわからないもんだいを教えてもらっています。
「もう。ここは6×7で42でしょ?」
「わかんないよぉ」
「だから、ここはね……」
 お姉ちゃんから、いっつもいいにおいがしてきます。
 シャンプーをえらぶそうで、お姉ちゃんは決めた物しか使いません。
 べんきょうにしゅうちゅう出来なくて、こまります。
 それでもお姉ちゃんは、ぼくのべんきょうを教えようとしています。
「どうしてわからないの?」
「いいにおいするから」
「におい?」
 お姉ちゃんは、顔をすこしだけ赤くしました。
 その後に声を大きくしてべんきょうするように言います。
 ぼくは、そんなお姉ちゃんが大好きです。
 しょうらい、お姉ちゃんとけっこんすることがぼくのゆめです。

「……可愛いぃ」
「どこがわかんないんだ? 姉さん」
 俺が部屋に入った頃、姉さんはずっと昔のノートを見ていた。
 ノートには「いいじま あつし」という名前が。
 ……ってそれ俺のノートじゃねぇか!
「俺のノート見るなよ! しかもずっと昔の!」
「だってあっちゃん可愛いんだもーん」
 姉さんはこうである。
 俗に言う・天然 ・バカ ・可愛い がそろったキャラだ。
 最後のは置いといて、バカだからこうして俺が勉強を教えているわけだ。
「あっちゃんは部活帰りなの?」
「ああ。……あっちゃんって呼ぶな」
 姉さんはノートを広げながら俺にたずねた。
 俺はそれに答えた後、補足を付け加える。
 全く。姉さんもそろそろ俺の事を敦、と呼んで欲しいんだが。
「ここだよぉ。わからない所」
 姉さんは一緒に出した教科書のページを指差して言った。
 歴史(中学範囲)じゃないか。姉さん今高校3年生でしょ?
「で、どこがどうわからないんだ?」
「何で聖徳太子ってけんなんとか送ったの?」
 そこか。しかも、けんなんとかって。
 遣隋使だそこ。頼むから覚えておいてくれ。
「送ったのは遣隋使だ。理由は隋の進んだ文化を取り入れるため」
「物知りなんだね、あっちゃんって」
「高校生ならそれ位当たり前だ。それよりあっちゃんやめろ」
「やだよぉ」
 姉さんは頬を膨らませ、拗ねてしまった。
 その顔が可愛くて、俺は渋々さっきの発言を撤回せざるを得ない。
 結局、姉さんの勉強はあまり進まなかった。

「あっちゃん。どうして勉強進まないと思う?」
「俺に聞くか」
 姉さんは椅子に寄りかかりながら、ふひぃ、という声を出す。
 その後に、姉さんはこう言った。
「あっちゃんの匂いがいいから」
「匂い?」
 姉さんは俺の首筋に顔を近付け、そのままくんくんと匂いをかぎ始めた。
 何だか、恥ずかしいような、恥ずかしくないような。
 一瞬嬉しいと思ったことは内緒である。
「汗臭いだろぉ、俺の匂い」
「それがいいのぉ」
 否定的に言う俺とは対照的に、姉さんは明るい声で言い放った。
 下の父さんや母さんに聞こえたら、二人して何やってるんだと言われるぞ。
「この間なんか、お風呂に入っている間にシャツをもらったんだから」
「この変態姉が」
「変態ゆーなー」
 ぽかり、と俺は姉さんに殴られてしまった。
 だから姉さん、その殴り方は反則級に可愛いって、昨日も言ったよ。
「あっちゃんの汗、何だか他の人と違うんだ」
「……ならいいけど」
 俺の顔は少しだけ赤くなった。
 姉さんは微笑み、俺の両肩を掴んでニヤリと笑った。
「決めたよ」
「何をだ?」
「私、あっちゃんと結婚する!」
「はぁっ!?」
 い、いや、その、ね、姉さん。
 確かに言われて嬉しいんだけど、その、何なのこの緊張感の無さは。
 俺を見ている姉さんの目はキラキラと輝いていて、逃げられる気配もない。
「どういう事だよ、姉さん」
「あっちゃんの事が好きなの」
 あっという間に俺は、姉さんによって壁際へと追い詰められてしまった。
 姉さんの息が顔にかかるくらいの至近距離まで、姉さんは近づく。
 その時部屋の外から足音が聞こえて、俺と姉さんは飛び離れた。
 ドアが開く。
「何か叫んでたけど大丈夫?」
母さんだった。
 俺と姉さんは無言で首を振ると、母さんは気をつけてね、と言って去る。
 部屋のドアが閉まった時、姉さんは言った。
「ねぇねぇあっちゃん」
「何だ?」
「今日、一緒に寝ようよ」
「……分かったよ」
 姉さんには、いつになっても敵わないな。
 ニヤニヤした顔が何だか怖く見えるのは気のせいであって欲しいが。
 少し期待してるのは秘密である。

【10年後】

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