【戦場に吹く風】 - 第一章 -
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戦場に吹く風

陽ノ下光一

 海軍基地は炎上していた。夜中ではあったが、燃え盛る炎は、日中と何ら変わることのない光量で基地施設を照らしていた。

「……」

 エルトリア帝国上陸軍司令官の一人、帝国近衛兵団の方翼、フレイズ・イワキ長槍騎兵団総長は、無言で馬上から敵兵の屍の山を見つめていた。炎に照らし出される地面は、流血の海と化していた。

 イワキへ、一騎近付いてくる者がいた。濃紺色の甲冑を身に纏い、深紅色のマントを羽織り、右手には偃月刀を握っている。

 イワキは振り返り、その人物を認めると口を開いた。

「誰も降伏しなかったな……」

「……そうね」

 応えた人物の声は、若い女性のものであった。司令官のもう一人で、帝国近衛兵団のもう方翼、スミア・ウィンディ装甲魔術兵団総長である。

 イワキは、ウィンディの乗馬に目を落とした。血に染まった布袋が括り付けられている。ウィンディは、視線に気付いたのか、袋に視線を移すと、

「この基地の総大将と言っていたけど」

 ウィンディは、総大将の首級に大した喜びも感じないのか、事務的な口調で応えた。ウィンディは、視線をイワキの方へ戻すと、

「ここの確保はどうする? 予定通り?」

「ああ、もちろんだ。本国からの増援軍にやらせる。港湾施設は健在だから、輸送に問題はないはずだ」

 

 

 エルトリア帝国は、人口四百五十万、兵力六五万を誇る、大陸最強の軍事国家であった。農業・商業・造船・鉱業が盛んで、その経済力は他国の及ぶところではなかった。強大な陸海軍は他国を圧倒しており、十数ヵ国が属国として支配下に置かれていた。歴代皇帝は名君が続き、国力は増大し続け、支配下の国家も自治など満足の行く待遇をされたので、抵抗するよりは臣従し、自国の繁栄を図った。周辺国家も、帝国との同盟を望み、帝国を盟主とした緩い連合体ができあがっていた。

 帝国の支配下、影響下にある人口は二千万近くにも及んだ。大規模な戦争は起こらず、帝国の庇護下で各国は平和を享受していた。

 しかし、平和は突然崩された。現皇帝エルトリア・ルノウ三世は、領土的野心が強く、かつ戦争好きで、各国が自治を得て自由に内政をするのが気に入らなかった。帝国宰相ルチアノ・ブリュームは、帝国国民を文明人と呼び、外国人は野蛮人共であると公言して憚らなかった。

 支配者が変われば国も変わる。専制君主制国家ではなおさらであった。

 属国に対する自治権は奪い取り、反対する国家は力でねじ伏せた。潰された国家の兵士は奴隷とされるか処刑された。腕の立つ将軍は剣奴として、闘技場で皇帝の好きな、猛獣との闘いをさせられた。

 支配された国には、重税が敷かれ、支配国の国土は荒れていった。怨嗟の声が支配国に響いていた。それが爆発しないはずが無かった。

 支配国で反乱が相次いだ。帝国軍は東西奔走し反乱の鎮圧に努めたが、国政が変わらなければ、いくら鎮圧しても反乱が収まるわけがなかった。

 同盟国は帝国との同盟を解消し、連合体は消滅した。しかし、帝国の国力は巨大であった。反乱は徹底的に叩き潰され、支配国の人口は半減する有様であった。

 旧同盟国は、帝国の横暴ぶりを黙っていたが、その内の一国、名君メッセネ一世率いるイリリア王国は、反乱を支援することを決定し、旧同盟国に反エルトリア同盟を提唱し包囲網を築いた。旧同盟国も、いつ侵略されるかと怯えているよりは、連携して帝国と戦う道を選んだのである。      

 ところが、イリリア王国以外は戦争介入に消極的であった。帝国の軍事力を見せ付けられ、及び腰になっていたのである。物資援助など間接的な援助に、貿易停止等の経済封鎖は協力するが、軍事援助は戦争準備の整わないのを理由に行なわなかった。それでは、食料も木材や鉄等も自給できる帝国に大した打撃にはならない。

 一方帝国は、同盟国の足並みが揃わないのを好機と考え、対岸の大陸国家イリリア王国を叩けば、同盟は自然消滅すると睨み、イリリア王国へ宣戦し、遠征軍を派遣した。

 しかし、ここで宰相ブリュームは、

「イリリアは、対岸の山と森に囲まれた野蛮人の国家である。精鋭など派遣する必要もない」

 そう言って、大した兵力を派遣しなかった。それが悪かった。

 第一、二次遠征軍は、王国海軍に襲われ全滅。一兵も敵地へ足を踏み込めなかった。

 無敵と思っていた帝国軍が二回も破れたのである。鎮圧しかかっていた反乱軍は大いに盛り上がった。参戦を渋っていた同盟軍も参戦の気運が高まった。

 帝国軍は、もう負ける訳にはいかなかった。

 そのため、帝国海軍の全可動艦で以て制海権を握ることが決まった。陸軍も、最精鋭である、近衛兵団五万の全軍を主力として動員。予備兵力として、さらに二十万の兵力を用意した。

 ところが、反乱の規模が拡大したため、予備兵力が抽出され、十万弱にまで減少していた。

 しかし、嵐で王国海軍が半減していたため、帝国軍は王国艦隊を撃退、制海権を握ると、近衛兵団を上陸させた。

 艦隊の荷揚げに必要な海軍基地が上陸地点となり、三千しかいなかった守備隊は抵抗したものの、その抵抗は長続きしなかった。

 

 

 上陸から五日の間は、大した出来事は無かった。とはいえ、その日までに帝国近衛兵団は約百二十キロ進撃し、二つの城塞都市、三都市、六村落、四の砦を占領した。城塞都市と都市は人口一千人以上。違いは城壁の有無で、村落は一千人未満の集落を指す。その範囲に住んでいた住民は約二万八千人。五千人の捕虜を獲得し、本国へ後送していた。増援八千は占領地の守備に充てられた。さらに、補給部隊一千も到着していた。

 イリリア王国陸海軍は、正面切って戦うのを不利と考えたか、その活動は消極的なもので、反撃は散発的であり、大した妨害にはならなかった。

 イワキは、接収した富豪の邸宅で、押収した地図を難しい顔をして眺めていた。

 イワキは、濃紺色の甲冑とマントを着込み、鋭い何か猛禽類を思わせる目付きに、長い黒髪を後ろで束ねていて、一見無口そうに見え、その物腰には全く隙の伺えない長身の男である。

「難しい顔してるわね」

 そこへウィンディがやって来た。ウィンディは住民の宣撫にあたっていたのだ。二人は住民に対する掠奪や虐殺を禁止していた。帝国軍が各地でやっていることだが、それが帝国軍に対する反感になっていることを、二人共分かっていたのである。

 ウィンディは、童顔でショートヘアー、無表情。長身のイワキと比べると、頭一つ半程背が低かった。

「とんでもねえとこに攻め込んだな。ここから首都に向かうには……」

 イワキは地図を指でなぞりながら説明をし始めた。

「この都市の北にある山岳地帯を通るんだが、最短でも十の山を越えることになる。そして、一部の軍道を抜かすと、深い森林地帯だ。そして、西は川と峡谷……その先は高山だ。東は海だが断崖絶壁」

「西も東も進めないなら……北しかないわね」

「常識で考えたら……伏兵がいるさ」

 ウィンディは表情一つ変えずに、腕組みしている内の右手の人差し指で肩を叩きながら考えに耽った。

「撤退許可でも取る?」

「冗談か? 本国の石頭が聞いてくれると?」

 肩をすくめ、僅かに皮肉な笑みを浮かべるイワキに、ウィンディはまた表情を変えることなく、

「冗談よ」

「……まあ、ともかくだ。進撃する手を考えよう」

「提案なら……無いこともないわ」

 イワキ自身、考えはあった。だが、それは半日近く地図を見ていて閃いたものだった。まだ入手した地図を見てもいなかったウィンディに策があったことには驚かされた。ウィンディはそんな心情を知ってか知らずか、自分の策を話しだした。

「軍道に土塁を築きながら進撃するのよ。そうね、半日の行軍で一つ位かしら。周りの山岳から挟まれて土塁が取られないように、それぞれに、堀か障害物を巡らせてね。一つにつき増援軍を一千づつ配備する」

「万一、伏兵がいたらそこへ退却。土塁を使って敵の急追を防げば被害は小さくて済むし、俺達が包囲されても援軍が来て血路は開ける」

 イワキはそう続けて、ウィンディに視線を向けると、口の端に笑みを浮かべた。考えていたことは同じだったらしい。 

「……なら、資材を集めましょう。それまではここで部下に休養を取らせればいいし」

 

 

 夕方、ウィンディは部屋へ戻ってきた。もちろん自宅のではない。接収した富豪の邸宅の一室である。ウィンディはそこを寝室として利用していた。

 部屋へ戻ると甲冑を脱ぎ、麻布から作られた服にズボンという、いわゆる平民服といった出立ちで椅子に腰掛け、本を読んでいた。中身は『魔法剣士の戦術』である。

 甲冑を着込んでいる時は分からないが、かなりスタイルのいい美人であった。

 そこへ、ノックもせず、こちらも平民服を着たイワキが入ってきた。そして、部屋の隅にあった椅子を勝手に持ち出し、ウィンディとテーブルを挟んで向かいに座った。ウィンディは本を閉じ、私物用の木箱に戻すが、勝手に入ってきた行為に対して何も言わない。ウィンディが再び椅子に座ると、イワキが最初に口を開いた。

「しっかし、くだらねえよな。こんな遠征」

「……」

「全く……よりにもよって災難だぜ。さんざん周りに戦争仕掛けといて、ひでえことばかりしてきたから、今こうなってんじゃねえか」

「……」

「いつも戦争の度ごとに、神の意志だとかぬかしてよ。結局は他人の領土が欲しいだけなのによ」

「……」

 ウィンディは黙ってイワキを見ている。イワキの愚痴混じりの毒舌はさらに続いた。

「ついこの前までは国を南に広げて、今度は北の対岸だ。一体どこまで領土を拡大する気なのかね? 世界でも征服する気でいるのかね? 我が賢明な皇帝陛下は」

「……」

 誰かに聞かれたら身を破滅させそうな発言だが、ウィンディは表情を少しも変えずに話を聞いていた。

「どれだけの兵士に血を流させれば気が済むんだか」

「……」

 ウィンディは寡黙な人物であった。イワキも外見はそう見えるが、こちらは実際には饒舌家であった。

「今回は、騎兵団と魔剣士団の総長まで指名してきやがった。近衛兵団の両翼を出さなきゃなんないなんて……他にも兵団はいるだろうによ」

「……」

「そこまで予備兵力が減ってんなら、戦争なんて止めりゃあいいんだ」

「そうね」

 イワキの率直なまでの言葉にウィンディは頷いた。イワキが言っているのは単なる愚痴の類ではなかったのだ。正鵠を射ているものであった。

 イワキとウィンディは、重職にある身としてはかなり若かった。平均寿命五十代という時代でも、それぞれ二十五才と二十三才の若さで、近衛兵団の両翼を担う帝国最強精鋭の軍団総長に収まっているのは異例であった。また、それだけ両名が優秀であることの証左でもあった。

 それだけの若さで最強軍団の総長という地位に就いた二人は、当然のことながら、他の同僚や熟年の軍人からの嫉妬を買ってもいた。共に上層部で孤立していた二人は、若い者同士ということもあり、性格は正反対だが不思議と気が合った。

 

 

 二人が初めて会ったのは、二ヵ月程前のことだった。その時はちょうど、第二次遠征が失敗に終わり、第三次遠征に近衛兵団を出すのが決まった頃だった。

 前任の軍団総長が病死したため、新しく総長に任じられたのがウィンディであった。

 イワキが軍団編成等の作戦の打ち合せに、ウィンディの邸宅を訪れたのが、二人の出会いであった。

 ウィンディの自室は、本棚とグラスの入った棚、衣類棚、それに小さなテーブルと数個の椅子。ベットがあるだけの、よく言えば質素、悪く言えば何も無い殺風景な部屋であった。

 自室に通されたイワキを認めると、ウィンディは読んでいた本を棚に戻し、部屋の隅から椅子を出して掛けるように勧めた。

 テーブルに向かい合った二人は、軍事的なことについての会話を幾つか交わした。イワキは部屋を出る前に、床に置いておいた木箱を指すと、

「あ、それ宮廷の貯蔵庫から持ってきた酒だ。お祝いにやるよ」

 持ってきたというのは正しくない。正確には、無理矢理取ってきた、というのが正しい。

「……そう、ありがとう」

 ウィンディが余りに無表情で、事務的にしか話さないので、イワキは居づらい雰囲気を感じて、苦笑いを浮かべ、手を振りながら部屋を出ていった。

 

 その日の夜、イワキは首都の東外れにある丘で風に当たっていた。この丘で風に当たって星をみるのが好きだったのだ。仰向けになって夜空を見ると、空が自分を押し潰しそうな感覚にとらわれる。その感覚も好きだった。

「……誰かいるのか?」

 イワキは仰向けの態勢で星空を見上げたまま、微かに感じた気配の主にそう言った。その気配は何も答えず、近付いてくる。殺気は感じられないので、誰かが散歩でもしているのかと思ったが、何も応えが無いので聞き返す。

「散歩か?」

 気配は何も答えない。仰向けになっているイワキの間近くにまで歩を進めると、そこで止まった。仰向けで空を見上げているイワキの視界に、その人物が入った。

「よお、無口の嬢ちゃん」

「……」

 ウィンディは表情一つ変えず、イワキの脇に座り込んで、夜空を眺めだした。適当に短く切っただけの髪が、夜風になびいている。

「夜更けに嬢ちゃん一人で散歩とは、感心しねえな」

「……」

 イワキは意地の悪い笑みを浮かべた。ウィンディは膝を抱えて座り込んだまま、夜空を見上げている。

 よく見ると結構カワイイじゃねえか。などと、イワキはウィンディの横顔を見ながら思った。

「……散歩しないと」

「え?」

 イワキは、僅かに不純なことを考えていたせいか、一瞬ドキリとさせられた。

「……この星空が見れないの」

「……家で見りゃあイイじゃねえか」

 ウィンディは首を横に振り、自分も仰向けになると、

「部屋の中から、この感覚が味わえる?」

 ウィンディの横顔は、相変わらず無表情だったが、どことなく機嫌が良さそうにも見えた。

 イワキは吹いてきた風に、気持ち良さそうな笑みを浮かべ、

「味わえねえよな、これは」

「そう……感じるでしょう」

 ウィンディは、目をつぶって気持ち良さそうにしている。 

「……大空に吸い込まれそうって言うのかしら? こういう感覚は」

「なんだ、話せるじゃねえか」

「……余計なことは、話さないだけ」

「この会話は余計じゃねえの?」

 言った後で、イワキは皮肉に感じられたかなと思った。ウィンディは黙っている。そのまま数分間。目をつぶって、静かにしているので、もしかして寝てるのかとイワキが思いだした頃。

「……余計とは……思えなかったのかしら? よくは……分からない」

 イワキはその言葉を聞くと、なぜかは分からないが、満足気な笑みを浮かべた。

「余計じゃなかったんだよ」

 ウィンディは、そこで初めてイワキの方を向く。イワキはウィンディの方を見ていたから、目が合う。イワキはその瞬間、胸の鼓動が早くなったのを感じた。

「そうね、余計じゃなかった」

 

 

 イワキは、初対面の夜の出来事以来、ウィンディを気に入ったらしく、仕事以外でもよく会っていた。ウィンディも、無口ではあったが、イワキに好印象を持ったらしく、暇があれば、狩りや酒に付き合った。イワキが饒舌で、ウィンディが寡黙ということもあり、こうしてウィンディが愚痴を聞いているということもしばしばであった。

「ま、今更何を言っても始まらないわ。もう敵地にいるんだから」

「そうなんだけどよ……」

「誰かが暗殺でもしてくれたらね……。戦争も終わるわよ」

 誰をという言葉が抜けてはいるが、それが誰かぐらいはイワキにも分かる。帝国宰相と皇帝に決まっている。

 イワキは思わず笑みをこぼした。

「違いねえ。……にしてもイイ性格してるよ」

「……」

「ウィンディ。オレが首都の宮殿貯蔵庫から拝借してきた酒。持ってきてるか?」

「……」

 ウィンディはコクリと頷くと、自分の私物の入った数個の木箱に目線を向けた。その酒は、遠征に出る前日、宮殿貯蔵庫から取ってきたものである。もちろん無許可。

 イワキはそれを確認すると立ち上がったが、ウィンディはグラスの入った棚の方を指差すと、自分は私物入れの木箱に向かった。さすがに自分の私物をいじられるのは嫌らしい。 イワキは戸棚の方からグラスを二つ持ってきた。ウィンディは酒の入っているらしい木箱を開けると、そこから酒瓶を二本持ち出してきた。

「今夜は付き合ってもらうぜ」

 ウィンディは少々口の端をゆるめた。イワキは僅かに動揺したが……。

「そうね。一杯だけなら」

 

 ウィンディは頬を少し赤らめて、テーブルに突っ伏し、静かな寝息を立てていた。イワキは部屋のベットから毛布を持ってきて、背中に掛けてやった。

「……」

 イワキはまだ酒を飲んでいた。テーブルの上と下には一ダース程の酒瓶が開けられていた。

「あんまり強くねえのに、無理して飲むんだよな」    

 イワキはそう言い、グラスの中身を飲み干した。イワキは相当酒に強い。悪酔いもしない。逆に、ウィンディは酒にそれ程強くはない。しかし、飲んでも普段通り。無口・無表情。そして酔い潰れて寝てしまう。その寝顔は可愛いものであった。その顔を見やりつつ、イワキが酒を飲み続ける。これがいつものパターンであった。

 互いに独り者の男女が部屋で二人きりで酒を酌み交わす。そのような中でぐっすりと寝てしまえるまで飲めるのだから、イワキは相当に信頼されているのだろう。

 イワキはウィンディといると不思議な気分になる。愛想も何も無い女ではあったが。イワキは親友にその事を話したことがあったが、その時に、『それが健全な若い男の証だ。がっはっは!』などと笑われたものだ。

 イワキは窓の外に目を向けた。邸宅の塀の向こうに街の明かりが見える。夜ともあって繁華街が一際明るく見えた。夜の酒場は昼間の労働に疲れた職人達が押し寄せ、自分の腕や女房を自慢しあっている。

「……敵地とは思えねえな」

 イワキは正直な感想を呟いた。しばらく街の灯を眺めていると、ウィンディが何か言っているのが耳に入った。

「……」

 振り返ったが、ウィンディは寝息を立てていた。寝言だったらしい。何を言っていたのか興味を持ちつつ、また何か言わないだろうかと思い、イワキはグラスに酒を注いだ。


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