「 帝 国 主 義 の 時 代 」 論 評


1・第1章論評

 

 第1章の主な内容は、帝国主義の開幕と銘打っているように、1870年代のヨーロッパから論を進めている。ドイツが統一され、フランスの第三共和制が安定していく過程から、その後話は転じ、列強各国の特に大不況を経験した後、その中で形成された重工業や、その過剰生産を循環させるための植民地への侵略である。オスマン帝国などの改革も取り上げ、彼らが西欧諸国の侵略に抵抗しようとすることも書かれている。その抵抗のなかでも、特に進出の激しくなったアフリカについては多くが記載されている。ベルリン会議以降は、ヨーロッパ諸国が争ってアフリカへの侵略を始めたが、アフリカの諸民族がそれに抵抗した。しかし、結局は、武器に勝り、かつアフリカ侵入に対する抵抗には連携できたヨーロッパと、一部武器の輸入で成功を収めた闘争以外は、武器の貧弱さおよび、諸民族同士の連携不足が目立ってしまったアフリカは、その殆どが列強に侵略された。

 総括すると、第一章の主たる内容は、国内の産業の成長により、原料と製品の市場を求め、その侵略を始めていった過程と、それに対する抵抗と挫折が書かれている。

 この第一章には、バルカン半島の情勢も記されていた。それは、露土戦争後の調停により、ロシアの南下政策が一旦は阻止されたことがある。そして列強は、新たな分割地をヨーロッパの外へ求めた。自分なりの私見を述べるのだが、この時期のヨーロッパは、とにかく本格的に自分たち列強同士が戦争になるのを避けるため、しかし、国内の製品の市場、あるいは国家のナショナリズム的性格から(汎スラブやゲルマン)侵略を進めた。結果、ヨーロッパ内の分割が困難と分かると、外へ領土を求めた。しかし、それが結局は、その海外の分割が進んだ後には、その利害対立は避けられなくなり、いずれ戦争以外に活路を見いだせないことに何故気が付かなかったのか、あるいは何故国内の改革には乗り出さなかったのか(むろん国内の社会改革による抜本的な制度改革)、それが自分には理解しきれないことであり、本書にもその見解を見いだしたかったところである。

 

2・第2章論評

 第二章は、極東で日本が台頭し始め、ついにはロシアとの対立に至ったこと。東欧世界も、列強の資本投下などで体制は変わり、各地で民族独立の動きが出始めたこと、とりわけ、オーストリア・ハンガリー内での体制動揺が始まったこと、原料と製品の市場たる植民地に、列強は資本を投下し、利権を手に入れていく新しい方向に動いたこと(産業と銀行が結合する金融資本の登場)、植民地は列強の進出で、さらにその国力を低下させられたことなど、帝国主義が世界に浸透した結果、新たに表れた対立、情勢の変化、植民地の窮乏を書き出している。

 そして続いて、列強が国民を統合していくためのナショナリズムの形成。ロシアやオーストリア・ハンガリーなどの既存の体制に反発する民衆や民族の運動に、それに対抗する政府。さらに、そこへ社会主義者たちが、理論的に帝国主義への反発を始めたことが書かれていた。しかし、それは結局膨張し続ける列強を抑え切ることは出来ず、やがて第一次世界大戦へ至る。それは、次の章へとその話を委ねられている。

 この章は、帝国主義が世界の体制をどのように変えていったのか、そしてそのためにどのように列強は国内の政策を進めたのか、それに対する批判はどう生まれていったのかが、特に書かれている。

 この章を見てより実感させられるのは、列強はあまりに自分の領土拡大に腐心しすぎていること、そのためには、国民をナショナリズムの名の下に統合し、抵抗するものには弾圧を加えること、そしてやはり、国内の諸民族の動きにも弾圧を加え、抜本的に国内の改革を行い、列強同士の対立を避ける方向に動いていかないことである。事実、ロシアでの改革は、逆に反動体勢になってしまった。この章が、そうした点、特に列強に抑圧された人々に紙面の多くを割いたことは評価できる。

 

3・第3章論評

 

 第3章は、日本の朝鮮支配と抵抗。中国での革命と挫折。オスマン帝国の改革を見た後、バルカン半島とモロッコを巡る問題が、列強をより緊迫させたこと。バルカンの民族は当然といえると思うが、列強の線引き的な利害の調整には納得し得なかった、それゆえに、サラエヴォの事件は、それに反対する社会主義者の動きもあったけれど、開戦に至り、列強は戦争を始めてしまう。そして、第二インターに対し、戦争の中止を求める動きが、一部の社会主義者に生まれ、その一人であるレーニンは、ロシア革命により、ついに戦争からロシアを離脱させた。アメリカは、戦争に参加し、リーニンに対抗し、14ヵ条を出し、理論的にレーニンとも戦った。結局、ドイツは戦争に負け、戦勝国による体制が築かれていく。

 この章は、結局列強が利害を海外で調整仕切れなくなり、バルカン半島に戻ったけれども、もともと複雑な民族構成の半島を分割仕切れるはずもなく、戦争に至った。しかし、何度も述べるように、列強はその膨張を続けるのであれば、必ず改革によりシステムの変換を行なわなくてはならず、それなしにはいずれ利害の調整は不可能になり、戦争に至るのは必然であったと考える。結果、列強はこれ以上の分割が出来なくなると、バルカン半島での事件をきっかけに、これを再分割の機会にしようと考えた。

 もうひとつ着目したいのは、アメリカの参戦についての本書の記述である。私はこの記述には反発を感ぜざるをえない。というのは、アメリカは民主主義のために戦争に参加した、というアメリカが戦時に利用したスローガン(チャップリンの映画「公債」やその演説で使い古されたスローガン)をそのまま記載し、あたかも、アメリカが正義の国家というふうにも受け取りかねない記述だからだ。実際に参戦した理由は、その前ページにあるように(しかも、その表現は二行程度と控えめだが)英仏への利害によるところが大きい。にもかかわらず、アメリカの参戦理由を明記しなかったことは評価出来ない点である

 このシリーズは、写真や当時の新聞を多く掲載することで、非常に読みやすいものだ。テーマもまとめられているので、概説書としてはいいだろう。
 ただ、あくまで概説書であり、入門的な読み物とすべきであろう。


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