【真夏のオアシスドリーム】 - 第五章 -
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 これほど目まぐるしく変わる夏も珍しいだろう。八月の一週目には幸せそのものだったのに、二週目には、完全に二人と疎遠になってしまった。

 旭は自宅に行っても会ってくれなかった。耕介に至っては自宅にすらいなかったが。

 旭に告白していたら、それも耕介が俺に気持ちを打ち明けたときに、ヤツに正直に言っていたら、こんな風にはなってなかっただろうか。

 耕介をフったって事は、俺のことが好きだったんだよな。多分……。

 俺が悪い。なんだかんだと勝手に考えては、周囲を振り回して、三人の関係を壊したんだからな。

 その日も『三日月園』に行った。それで、また優ちゃんに怒られた。

 俺だってなんとかしたいんだが、他の二人と会えない以上、どうしようもないじゃないか。

 『三日月園』にいるのも憂鬱で、いつもより早く夕方には帰宅しようとした。

 門を出ると、そこには黒いレザージャケットを着込んだ男が立っていた。

「耕介」

 俺が思わず立ち止まると、ヘルメットを投げつけてきた。

「ツラ貸せよ」

 そう言って、傍らのバイクに乗り、早くしろとこちらを向かずに、手で合図してくる。

 俺が後ろに乗ると、耕介は安全速度などといったものを無視して、バイクを走らせた。

「どこに行くつもりだ?」

 俺の問いに答えず、耕介はひたすらバイクを走らせた。

 しばらくして、海岸沿いの道に出た。夕日が沈もうとしている海は、いつ見ても心を奪われかけた。

「まったく嫌になるよな」

 唐突に耕介がはき捨てた。

「いいか、バカ。俺はな、男を乗せて、海の夕日を見るなんていう趣味は持ち合わせてねえんだからな」

「俺だってねえよ」

「彼女を乗せるのが夢だったのに、どうして初めて乗せたのが男なのか」

「テメエが乗せたんだろうが。自問するな」

 俺だって好きで男の背中に掴まってるわけじゃねえ、そう言うと、ヤツはそりゃそうだ、そうじゃなきゃ友人なんてしてねえよ、と。

 友人? コイツまだそう……。

ヤツは、海岸線を走ってしばらくしたトコでバイクを止めた。そこは一軒の民宿の前だった。

「ここ、俺の今のバイト先。家の人が倒れたらしくてな、住み込みでしばらく働いてた」

 耕介はそう言って、その玄関口に張ってあるポスターを指して、

「知ってるか? この辺りはな、八月最終週の頭に花火大会やるんだよ」

 そういえば、聞いたことはあるな。俺は汐風市でも、南外れのほうに住んでるからなじみが薄いけど、市の一番北外れの地区では、そんなことをやるらしいな。

「ま、この辺りは俺の地元だからな。情報提供感謝しろよ」

「なんのことだ?」

 質問に返ってきたのは、ヤツの右ストレート。前のようには食らわず、手で受けた。パンチ自体、本気で撃ってきたものでもなかった。

「おいおい、お前らの仲がくっつく手前で滅茶苦茶になってんの、知らねえと思ってんの?」

 ヤツは汗で張り付いた髪を鬱陶しそうに掻き上げると、

「つーかよ、あれからお前らがどうなってるか気になったんだよ。ったく、俺も何やってるんだかな」

 ヤツは泣きたいのか笑いたいのかよくわからない、複雑な表情をしていた。

「あのなあ、俺だって、旭のこと好きなんだぜ。でもなあ、彼女が選んだの俺じゃあないわけだ。でも、まあ俺としちゃあムカつくけど、旭のために応援してやりたいわけだよ」

 ヤツが言ってることは、わかるようで全然まとまっていない。ただ、言いたいことはわかった。

「旭に思い切って久々に連絡してみれば、なんでこうなっちゃったんだろ、とか言いながら泣いてるし、……まあ、俺にも責任があったわけだがな。とにかくだ、三人がまた仲良くなれりゃあいいわけだ」

「そうだな」

 俺は、ため息混じりに頷いた。

「おいおい、何やる気なさそうにしてんだよ」

ヤツが憮然として言う。

「そうじゃねえよ。旭が会ってくれねえんだよ」

「だから、そうなってくれるようにするんだよ。バカか。ったく、俺がわざわざこの民宿に予約までいれてやってるんだぞ。花火大会の日に」

「それって」

 俺はさすがに驚いた。ヤツは例の軽薄そうな笑みを浮かべると、

「お前、今いやらしい想像しただろ?」

「ち、違っ」

「まあ、気持ちはわかる。俺も男だからな。それに、ここは泳げるから、水着も拝めるというスバラシイ場所だ。旭スタイルいいもんねえ」

「そんな想像してねえ!」

 俺はさすがに反論した。顔が熱い。おやーといいながら、耕介は肩をすくめて、

「さすがに、二人きりにするのは危険そうなので、俺も一緒に泊まるよ。残念だったな。第一、三人の仲をどうにかしねえと、問題解決にならねえだろうが」

 その通りだと頷いた。心中、少し残念でもあったが、それはまだ取らぬ狸のというか……。

「じゃ、連絡任せたぞ。後はお前しだいだ」

 耕介はスタンドを外しバイクに跨った。

「サンキュ」

 後部に跨るとき、自然とそう言っていた。


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