|
鳴島
「お、マスター」 |
|
光一
「うむ。おはよう」 |
|
鳴島
「やーい、
ヘタレーヘタレー!!」 |
|
光一
「挨拶もせずに、
いきなり何だね、君は?」 |
|
鳴島
「えぇ?
マスターってヘタレですよねぇ?」 |
|
光一
「だから、
どこからそんな意見が出てくるのかね!」 |
|
鳴島
「だって…………
あれだけお見苦しいことをされて……
何をいまさらって感じですよぉ?」 |
|
光一
「何を言うかね!!
私は注射が怖いわけじゃない!」 |
|
鳴島
「あれだけ看護師さんに散々言っておいて
いまさら何を言われますかぁ?
見苦しいことこの上ないですよぉ」 |
|
光一
「いや、私は見苦しいとか怖いではなく、
物事に慎重な性格ゆえに、
『注射って大丈夫ですか?』
『3分間注射跡押さえろと言いますが、
それは時計で測るべきですか?』」 |
|
鳴島
「……………………」 |
|
光一
「自分の健康に関わることだからこそ、
念には念を重ねて
色々聞いただけだ!!」 |
|
鳴島
「まあ、
なんでも物は言いようですねぇ」 |
|
光一
「何を言うかね!!
身体の中に、
注射針という異物を入れるんだよ?」 |
|
鳴島
「まぁ、そうですねぇ……」 |
|
光一
「異物を入れられれば
拒絶反応をするのが
人間の身体の機能ではないかね!」 |
|
鳴島
「その点はそうですけどねぇ」 |
|
光一
「であれば!!
注射針などという異物を入れられ、
それに拒絶反応を示さぬ身体は
どこかがおかしいではないか!!」 |
|
鳴島
「はぁ…………
マスター…………」 |
|
光一
「何か異論でも、綾香君?」 |
|
鳴島
「いや、なんでも…………」 |
|
光一
「では続けるが……
注射針を入れられ、
『あ、チクッってしました!!』
と看護師さんに言う私。
それは身体の拒絶反応なのだ!」 |
|
鳴島
「あー…………」 |
|
光一
「それ故に、
私が看護師さんに採血中
ずっと話しかけていたのは仕方ない!
私の反応は、人間として正常だ!」 |
|
鳴島
「あー…………
マスター?」 |
|
光一
「なにかね?」 |
|
鳴島
「いやー、
本当にお見苦しいですよぉ♪」 |
|
光一
「な、何を言うかね!!
先ほどまでの私の話を聞いていたのか?」 |
|
鳴島
「マスターの言いたいことの
理屈はわかりましたよぉ」 |
|
光一
「だろー?
注射針を身体に入れるなんて……
異物を入れるわけだからな。
痛いし怖くて当然なんだ!!」 |
|
鳴島
「でも、
マスターがヘタレというのも
しっかり再認識できましたぁ!」 |
|
光一
「だーかーらー!
私がヘタレなのではなく、
注射針という異物をだね……」 |
|
鳴島
「マスター、マスター?」 |
|
光一
「なに?」 |
|
鳴島
「自分の子供を連れて、
病院で予防接種とかさせますよねぇ?」 |
|
光一
「まあ、子供ができたらそうだね」 |
|
鳴島
「お子さんがぁ、
『パパー、注射怖いよー』
ってゴネたらどうしますぅ?」 |
|
光一
「『パパの子供なら、
注射なんて怖くないはずだぞ!』」 |
|
鳴島
「……………………」 |
|
光一
「何か言いたそうだね?」 |
|
鳴島
「いえ……別にぃ……」 |
|
光一
「注射はね、
健康を守るためにするんだからね。
子供にはしっかりしてもらわないと」 |
|
鳴島
「じゃあ、お子さんがぁ……
『パパー、痛いよー痛いよー』
て泣かれたらどうしますぅ?」 |
|
光一
「『パパの子なら泣かないはずだよ!
パパは注射怖くもなんともないぞ』」 |
|
鳴島
「……………………」 |
|
光一
「何かね?」 |
|
鳴島
「マスター…………」 |
|
光一
「ん?」 |
|
鳴島
「先ほどまでの自分の言動を
よーく読み返してきなさい!!」 |