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鳴島
「あれー?
どこいったのかなぁ?」 |
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光一
「ん?
どうしたね、綾香君?」 |
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鳴島
「あ、マスター。
おはようございますぅ」 |
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光一
「おはよう」 |
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鳴島
「いやぁ…………
ちょっと物を無くしたみたいで……」 |
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光一
「ん?
何を無くしたの?」 |
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鳴島
「手袋なんですけどねぇ……
昨夜から無くて……」 |
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光一
「うーん…………
店のバックヤードではみていないな」 |
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鳴島
「どこに行っちゃったかなぁ……」 |
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光一
「まぁ、今日の帰りまで見つからないなら
店の備品を貸してあげるよ」 |
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鳴島
「お、それはラッキー♪」 |
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光一
「えっとね…………
確かこの辺にあったはず……」 |
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鳴島
「どんな手袋なんですかぁ?」 |
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光一
「えーっと…………
ああ、そっか……
今、仕込みで使っているから」 |
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鳴島
「え?
手袋で仕込み?」 |
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光一
「あー、あったあった。
これ、仕込が終わったらいいよ。
あげるから、帰りに使いなさい」 |
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鳴島
「ぇー……………………」 |
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光一
「何?
何であからさまにイヤそうな……」 |
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鳴島
「だってぇ…………
それ、私のイメージに合いませんよぉ」 |
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光一
「イメージって…………
夜帰るときに寒いのがイヤなんだろ?」 |
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鳴島
「そりゃそうですけどぉ……」 |
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光一
「別に夜帰るときに
いちいち見ている人なんていないだろ?」 |
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鳴島
「そうは言ったってぇ…………」 |
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光一
「何、何が不服かね?
人が備品貸してやるっていうのに」 |
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鳴島
「だってぇ…………」 |
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光一
「だって?」 |
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鳴島
「そもそも手袋じゃないというかぁ……」 |
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鳴島
「生ガキむくのに使っている
軍手じゃないですかぁ!」 |
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光一
「何を言うかね。
軍手だって、防寒対策にはなる」 |
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鳴島
「イヤですよぉ、そんなのぉ!」 |
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光一
「人の好意をそこまで!
いいか、これは田舎では
立派な手袋として流通しているんだ!」 |
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鳴島
「私、都会育ちだもん」 |
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光一
「あ、今ちょびっとバカにしたっぺ?
田舎をちょびっとバカにしたっぺ?」 |
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鳴島
「そもそもですよぉ、
カキの汁がびっちり染み渡った
そんな軍手はめたくないですぅ」 |
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光一
「閉店までには乾いているし、
ちゃんと洗うっての!」 |
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鳴島
「それでもヤだぁ!」 |
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光一
「あー、もうワガママだな!
じゃあ、ちょっと待ってろ」 |
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光一
「これで文句ないだろ?
新しいの出してやった。
持って行きたまえ」 |
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鳴島
「はぁ…………」 |
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光一
「なんだね!」 |
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鳴島
「だからぁ〜…………
何で軍手なんですかぁ!
これじゃあ、私の
乙女チックなイメージがガタガタですぅ。
マスターだって、
自分のイメージ大事にしてるでしょ。
私だって大事にしているんですぅ!」 |
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光一
「20をとうに過ぎて乙女も何も……」 |
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鳴島
「……………………」 |
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光一
「何かね?」 |
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鳴島
「マスター、
最初に出してくれた方を借りますねぇ♪」 |
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光一
「最初のって…………
これかね?」 |
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鳴島
「はいぃ♪」 |
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光一
「綾香君?」 |
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鳴島
「何ですかぁ?」 |
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光一
「君が手にしたそれはね、
カキをむくために使う
牡蠣むきナイフというものだよ?」 |
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鳴島
「ふーん?」 |
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光一
「あ、私は用事を思い出した!」 |
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鳴島
「……………………」 |
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光一
「つ、ついてこなくていいから!
じ、自分の仕事を…………
牡蠣むきナイフは置いてい……」 |