|
鳴島
「まあ、当然と言えば当然ですよねぇ」 |
|
光一
「む、何がかね?」 |
|
鳴島
「今日のマスターの日記にある、
彼女さんの認識ですよう」 |
|
光一
「ああ…………
社会に出た際に、
男からのセクハラや犯罪に
とにかく気をつけろと言ったのに、
彼女が素直に頷いたことかね?」 |
|
鳴島
「それはもちろんですけどぉ……
それだけじゃなくてぇ……」 |
|
光一
「はて?
他に何かあったかね?」 |
|
鳴島
「そこが何より強調されていたのでは?」 |
|
光一
「ん?
他の何よりも強調されていた点?」 |
|
鳴島
「マスターが『男に気をつけろ……』
と言ったときに、彼女さんが頷いたのって、
『マスターがあまりにエッチなので、
男は全員そうだと知ったから、気をつけます!』
という受け取り方でしたよねぇ♪」 |
|
光一
「あ、あれはっ!?
あれは……私の彼女の誤解だ!!
認識の間違いだっ!!」 |
|
鳴島
「何を言ってるんですかぁ……
マスターが普段、あんまりにもエッチだから、
彼女さんの男に対する認識が、
そういうものに変わったってことですよねぇ?
だったら、マスターがエッチな点が、
最も強調されている点じゃないですかぁ」 |
|
光一
「それは、おかしい!
それは違うぞ!!」 |
|
鳴島
「では、どう違うんですかぁ?」 |
|
光一
「まず第一に、
健全な成人が性欲を持つのは、
これは生物学的構造に基づく、
自然の摂理だろう?」 |
|
鳴島
「まあ、それはそうかもしれませんねぇ?
で、それを根拠に、
『人間は全てエッチだ』
とでもおっしゃるつもりで?」 |
|
光一
「まあ、待ちたまえ。
そして、人間が他の動物と違うのは、
性欲をコントロールできる
理性を持っていることだ」 |
|
鳴島
「ふむふむ。
人間は理性を持った動物ゆえに、
自然の摂理から外れることも可能だと」 |
|
光一
「そうだ。それゆえにまた、
他の動物が生存のために性欲を持つのと違い、
快楽や愛のために、それを持つこともできる」 |
|
鳴島
「まあ、そうですねぇ。
…………で?」 |
|
光一
「それはつまり、
自分の快楽のためなら、
暴走する可能性もあるということだ」 |
|
鳴島
「性犯罪者とかがそうですかねぇ……」 |
|
光一
「そういうことになるな。
セクハラ・性犯罪はまさにその典型であろう。
こんなことは人間しか行わない」 |
|
鳴島
「確かに…………。
こんな不要なことで他人を苦しめて、
自分だけ良い思いをする……
そんなのは人間だけですねぇ」 |
|
光一
「しかしまた、
愛と快楽の混合する中で、
互いに性欲を解消することもあるだろう?」 |
|
鳴島
「うーん……確かに」 |
|
光一
「これが恋人や夫婦間での性欲のあり方だな。
この場合、互いの同意で行う性行為は、
別に犯罪でも何でもない。
その点で、犯罪者たちとは異なる」 |
|
鳴島
「まあ、そうですねぇ」 |
|
光一
「問題は、
『男に気をつけろ』
と、私が彼女に注意したケースと、
『光一さんはエッチ』
だと彼女が指摘した、私のケース。
この2つは、それゆえに異なるわけだ」 |
|
鳴島
「わかるような、わからないような……?」 |
|
光一
「つまり、私がエッチだという表現は、
『愛情ゆえの』『互いの合意』という点で、
すでに犯罪のそれとは異なる。
だが、『男に気をつけろ』という際のそれは、
完全に犯罪である。
この2つの違いを認識した上で、
『光一さんがエッチだから、
他の男性もそうなはずなので、
だから気をつけます……』
とくれば、すでに違いは明白ではないか?」 |
|
鳴島
「つまりぃ…………
『マスターの彼女へのエッチは犯罪ではない』
『他の男性からのそれは犯罪』
だから……彼女さんが、
『マスターがエッチ』という際のそれと、
『他の男性もだからエッチなんでしょうね』
という際のそれでは、
『エッチ』が含むニュアンスが違うと?」 |
|
光一
「そういうことだ!
それゆえに、彼女は私を下敷きに
男のあり方を考えつつも、
しかし、私と他の男を峻別しているゆえに、
私がエッチなのを強調しているように見えても、
実は重大なニュアンスとして捉えていない。
重大なのは『他の男の性欲』であって、
強調され問題化されているのは他の男なのだ」 |
|
鳴島
「あ、なるほど♪
よく、わかりました!
つまり、彼女さんの中ではマスターは特別なので、
強調しているようで強調していない。
そういうことですねぇ」 |
|
光一
「ふう……ようやく分かってくれたか」 |
|
鳴島
「そうですねぇ…………」 |
|
光一
「ん?
何か含みがあるような?」 |
|
鳴島
「だったら、最初から……
『彼女の中では、自分は恋人だから、
互いに愛情を持って付き合ってるので
エッチでもOKなんだ』
『他の男は一時の快楽のためだけに、
接近してくるから、危ないんだ』
と言えば済んだ話じゃないですかぁ」 |
|
光一
「あ…………」 |
|
鳴島
「わざわざここまで、
理論武装する意味はあったので?」 |
|
光一
「う…………」 |
|
鳴島
「簡潔に言える話なのに、
細かく言わなければならない……
そういう場合って大体、
自分がやましい場合ですよねぇ?」 |
|
光一
「うるさいうるさい!!」 |
|
鳴島
「彼女さんの言う『光一さんのエッチ!』
が…………
『いい加減にしてください!』
にならないよう、
ちゃんと加減したほうが良いですよう」 |
|
光一
「だ、黙れ黙れ!!
そ、そんなのは分かっている!」 |
|
鳴島
「別にマスターが悪い人なわけではないのに、
変に理屈臭いから、
悪い人みたいに見えるんですよねぇ。
墓穴を掘らないよう、注意してください♪」 |
|
光一
「ぬぅぅぅぅ…………
言われ放題だね……」 |
|
鳴島
「おや?
マスターと彼女さんのために言ってるんですけど。
ちゃんと人の忠告は聞いたほうが良いですよう」 |
|
光一
「分かっている!」 |
|
鳴島
「分かったなら、返事は『はい』です!」 |
|
光一
「ッ…………はい!!」 |