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鳴島
「マスター!
おっはようございますぅ♪」 |
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光一
「あ、あー……うん。
おはよう、綾香君」 |
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鳴島
「んんぅ?
何ですかぁ?
朝から歯切れが悪いですねぇ」 |
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光一
「いやー…………
一つ重大な問題として受け止めたことがあって、
その最も典型的な例が
最も近くにいたなと気づいてしまった」 |
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鳴島
「はぁ?
何のことですかぁ?」 |
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光一
「説明するよりも、
見てもらった方が分かりやすいか……
綾香君。
今日の私の日記見てくれたまえ」 |
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鳴島
「はぁ……別にいいですけどぉ?」 |
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光一
「……………………」 |
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鳴島
「うはぁ!?」 |
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光一
「……………………」 |
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鳴島
「これはまたぁ…………
部屋に突然入ってきた人に
『どうやって入ってきた?』
と質問したら、
『はいorいいえ』
しか返ってくる選択肢がない……」 |
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光一
「まあ、つまるところ……
全然会話が成立していないよな?」 |
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鳴島
「ですねぇ…………
大人がこういうコミュニケを提示するから
子供の言葉が乱れるんですかねぇ?」 |
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光一
「うむ。
『子供が悪くて言葉が乱れた……』
『最近の子供は言葉遣いがなってない』
などと言う人もいるが、
明らかにそうした言葉や社会を
提示してきた大人に責任があるだろう。
子供は周囲の状況から
言葉を学んでいるのだからな」 |
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鳴島
「言葉の乱れの原因、
その所在ってヤツですかねぇ?」 |
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光一
「うむ。
そして大人の中には、
『言葉の乱れは心の乱れ』
などと言う輩もいるが……
その集団を育て上げた
自分たちの責任は棚上げ……
そんな大人の心こそ乱れているだろう」 |
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鳴島
「それもそうですよねぇ。
大人が子供の成育に責任を持ってるのにぃ、
自分たちの責任は棚上げに、
子供たちに責任を転嫁してるんですからねぇ」 |
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光一
「そういう大人の意識こそ
まずは改革せねばならんだろうな」 |
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鳴島
「若者が電車内とかの公共の場でぇ、
携帯とか使ってうるさい……
なんて言う人もいるけどぉ…………
大人だってたくさんいますよねぇ、
そういう人たち」 |
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光一
「それでいて、
『最近の若い者は』
なんて言うのはお門違いだろうな。
まったく説得力がない。
だからって、若い人が
公共の場で騒ぐのを弁護するわけでは、
もちろんないけどな」 |
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鳴島
「あれ、そういえばぁ?」 |
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光一
「何かね?」 |
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鳴島
「さっきマスターはぁ、
『重大な問題と受け止めたことがあった』
『典型例が近くにいた』
とおっしゃってましたけどぉ……」 |
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光一
「言っていたね」 |
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鳴島
「それはどういう……?」 |
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光一
「この文脈からすれば、
私が重大な問題と受け止めたのは、
『言葉の乱れ』だな」 |
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鳴島
「まぁ、そうですねぇ」 |
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光一
「それで君と言葉を交わして、
近くに典型例がいた……
と言ったらそれは……
もう言わなくても分かるものだろ?」 |
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鳴島
「失敬なぁ!
それじゃあまるで、
私の言葉遣いが乱れている……
て言ってるみたいじゃないですかぁ!」 |
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光一
「いやいや、
『まるで』とか『みたい』じゃなくて、
まさに『君の言葉は乱れている』
と言っているつもりだが?」 |
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鳴島
「私のどこをどう取ってぇ、
そんな結論が出たんですかぁ!!」 |
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光一
「ほら、また使った!!」 |
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鳴島
「んぅ?」 |
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光一
「気づかないかね?
自分の言葉遣いに?」 |
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鳴島
「全然ですぅ!!」 |
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光一
「やれやれ……でははっきり言ってやろう。
君の言葉遣いは
『〜ですぅ』『〜ですかぁ』
みたいに、間延び口調だろ?
一般的な社会人は
そんなしゃべり方は絶対しない」 |
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鳴島
「んむぅ…………」 |
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光一
「そんな間延び口調では、
会議や商談、接待の場では
相手に不快なイメージを与えるではないか。
物事をもっと、はっきり断定的に
きっちり言うことが綺麗な言葉遣いだ。
それが大人のしゃべり方だろう?」 |
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鳴島
「うぅ〜…………
それはそうかもぉ…………」 |
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光一
「故に、私は典型例が近くにいる……
と言ったのだよ。
ウチも喫茶店である以上、
やはり間延び口調はマズイだろ?
接客業だしな」 |
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鳴島
「あぅ〜…………
善処しますぅ……」 |
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光一
「全然善処できていないのだが……」 |
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鳴島
「そ、そんなこと急に言われてもぉ……」 |
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光一
「直せないかね?」 |
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鳴島
「そりゃそうですよぉ!
私、ずっとこういうしゃべり方だったんですからぁ」 |
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光一
「言葉遣いは染み付くと容易には直らない。
やはり、小さいときからの言葉遣いに、
周囲の人間がきっちり注意しなくてはならん。
そういう教訓だね、これは」 |
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鳴島
「ですねぇ…………」 |
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光一
「ほら、また間延び口調だよ?」 |
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鳴島
「だからぁ、急には直りませんよぉ!!
マスターのイジワル!!」 |