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鳴島
「マスター!!」 |
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光一
「ん? なんだい?
いつにも増して元気だね」 |
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鳴島
「その、なんというか。
ご愁傷様ですぅ!!」 |
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光一
「!!??
ご、ご愁傷様だと!!
まだ、全然大丈夫じゃないか!!
ほら、よく見たまえ!!」 |
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鳴島
「んぁ?」 |
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光一
「君は今、お気楽お気軽に
ご愁傷様なんて言ったが、
ほら、私の頭皮も毛髪も、
まだまだ元気じゃないか!!」 |
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鳴島
「んぁ〜?」 |
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光一
「確かにデコは広いが、
認めたくないものだが……
でも、これは小学校のときからそうで……
そうさ、小学校の頃は
『デコッパチ』呼ばわれされていた!」 |
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鳴島
「はぁ?」 |
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光一
「でも、あの頃私を
『デコッパチ』呼ばわりした連中は、
今ではすっかり後退し切って、
哀れな姿だよ。
それに引き換え私はね、
まったく後退もせず、相変わらず黒々と」 |
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鳴島
「あのぉ〜」 |
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光一
「いや、待ちたまえ。
確かに私のオデコは広いが、
それは昔からで後退していない!
そして、それはこれからも変わらない!!
そう。私の頭髪は死ぬまでフサフサ!
大丈夫、大丈夫なんだよ!!」 |
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鳴島
「マスター……?」 |
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光一
「確かに、
『養毛剤』は効くのだろうか?
費用対効果は?
大丈夫なうちに対策を?
いつまでも、あると思うな、金と髪!
考えた時期もある。でもだ、」 |
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鳴島
「人の話を聞きなさい!!」 |
グイッ!!
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光一
「うわぁぁぁ!!
な、何をするだー!!
か、か、髪を引っ張るな!!
万が一の事態が起きたらどうするんだね。
せ、責任を…………」 |
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鳴島
「人の話をちゃんと聞いてください。
じゃないと、
…………引っ張りますよ?」 |
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光一
「ヒイ!!
や、やめて……それだけは……
この世にはやってはいけないことが」 |
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鳴島
「だからぁ、
人の話をちゃんと聞いてください」 |
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光一
「わかりましたので、
私の頭髪から手を離してください」 |
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鳴島
「たく…………
何をいきなり動揺したんですか?
何か、変なスイッチでも押しましたぁ?」 |
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光一
「だだ、だって、
君、『ご愁傷様』って言ったろ?」 |
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鳴島
「あー、言いましたねぇ♪」 |
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光一
「ああ、やっぱりやっぱりやっぱり。
毎日見ている自分では気付かないけど、
日々の仕事のストレスは……
私の頭皮を確実に……ああ、
うあぁぁぁ、どうしたら…………」 |
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鳴島
「ちょ〜っと、マスター。
また変なスイッチ入ったんですかぁ?
戻ってきてくださ〜い」 |
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光一
「ああ、やはり私もいつかは、
死んだ母方のじっちゃんみたいに……
ツルツルになっちゃうのぉ?
いやぁぁぁぁ!!
いや、できることはあるハズ。
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃ……」 |
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鳴島
「話聞けっていってんだろ!!」 |
ぐい!!
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光一
「いやぁぁぁぁ!!
綾香さん、やめてやめて!!
後生だよ。おねがいだよぉお!
後退しているなんてウソでしょ?
ウソだといってよ、バーニィ!!」 |
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鳴島
「あー、めんどくせえ!!
まだ、何も言ってねえだろ!!」 |
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光一
「…………あれ?
そうだっけ?」 |
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鳴島
「そうですよぉ。
やっと、戻ってきましたかぁ?」 |
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光一
「ふぅ…………
いや、ご愁傷様なんてね。
この前、変なことを職場で言われたんで
思わずスイッチがね?」 |
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鳴島
「はぁ……髪ですかぁ?」 |
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光一
「うん。
父方の家系に行くのか?
母方の家系に逝くのか?
それによって、
私の今後の毛髪ライフが
天国か地獄なのよ…………」 |
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鳴島
「まぁ、
男の人には切実な悩みですかねぇ?」 |
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光一
「そうだよ。
私は死ぬ時はね、
死んだ父方のじっちゃんみたいに、
フサフサのロマンスグレーで
天国へ召されるという人生設計があるの」 |
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鳴島
「はぁ?」 |
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光一
「それにね、娘が生まれた後だよ。
その娘にさあ
『お父さん。最近薄くなったよね?』
なんて言われたら、ショックじゃないか!」 |
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鳴島
「まだ娘もいないというか、
彼女との間に子供もできていないのに、
変なトコだけ人生設計しているんですねぇ?」 |
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光一
「うるさいなあ…………
あ、そういえばさあ?」 |
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鳴島
「んぅ?
何ですかぁ?」 |
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光一
「……………………。
頭髪を生暖かい目で見ないでよ」 |
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鳴島
「そんな気にしすぎると、
かえってハゲますよぉ?
で、何か言いたいことがあったんじゃ?」 |
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光一
「ああ、そうそう。
さっきさ、君…………
『言ってんだろ』とかみたいに、
なんというか…………
レディースの姐さんみたいな
言葉遣いしていなかった?」 |
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鳴島
「えー?
マスターの聞き間違いじゃないですかぁ?
わたしぃ、ぜったいにぃ
そんな乱暴な言葉は使わないですぅ♪」 |
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光一
「綾香君…………
君ってもしかして……
昔はソッチ系の人だったとか……?
刃物の扱いも妙に慣れているし……
……えーっと、君の母校の電話番号は」 |
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鳴島
「…………引っ張られてえのか?(ぼそり)……」 |
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光一
「私の聞き間違いですよね。
うん。そうだそうだ」 |
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鳴島
「そうですよぉ♪」 |