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光一
「うーん…………」 |
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鳴島
「マスター、おはようございますぅ♪」 |
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光一
「はい、おはよう。
あー、それにしても可哀想に」 |
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鳴島
「んぁ?
どうされましたぁ?
何か事件?」 |
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光一
「あー、いやね…………
伊藤園ってあるじゃない?」 |
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鳴島
「お茶関係の大メーカーですねぇ」 |
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光一
「あそこの缶ジュースとか買うとさ、
側面に『俳句大賞』の受賞作載ってるのよ」 |
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鳴島
「知ってますよぉ。
何だか、色々載っていますよねぇ」 |
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光一
「うん。それを見ててね…………
頑張って書いて投稿した作品が載って、
…………でも、可哀想に……」 |
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鳴島
「何故?
いやぁ……頑張って書いた作品が受賞して、
それで全国に出回るならば、
良いことじゃないですかぁ」 |
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光一
「いや、受賞とか大いに結構だよ。
でもねえ……お世辞にもあまり……
って作品を全国に出されるとさ、
それを見た私みたいな消費者に言われるでしょ?」 |
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鳴島
「あー…………
『こんなレベルでよく載ったな?』
とかですかぁ?」 |
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光一
「まあ、そういう作品に偶然出くわしてしまって。
ちょっと可哀想だなあと……ね」 |
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鳴島
「まぁ、せっかく載ったんですし、
あんまり言うのもどうかと……」 |
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光一
「そりゃそうなんだけどねえ。
あー、可哀想に…………
綾香ちゃん…………」 |
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鳴島
「って、はい!?」 |
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光一
「ん? 何?」 |
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鳴島
「いや…………マスター、今……
私の事、可哀想とか言いませんでしたぁ?」 |
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光一
「あ? 言ってないよ?」 |
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鳴島
「おかしいなあ……
聞き違いかなあ?」 |
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光一
「聞き違いでしょ?
さ、仕事仕事。
早くフロアーの掃除済ませてね」 |
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鳴島
「はーい♪」 |
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光一
「『校長室に入ってカメの世話をする』
…………これって俳句かねえ?」 |
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鳴島
「あー…………微妙」 |
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光一
「やっぱりそう思うよね?」 |
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鳴島
「まあ、俳句ですらないですもんね」 |
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光一
「うーん……これを受賞作として
全国に出された娘は、やっぱ可哀想だ」 |
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鳴島
「まぁ、そうかも…………」 |
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光一
「やっぱり、綾香ちゃんは可哀想だ」 |
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鳴島
「ふぇ!?」 |
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光一
「さっきから何?」 |
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鳴島
「やっぱり言ったじゃないですかぁ!
私の事、可哀想だって!!」 |
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光一
「は?」 |
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鳴島
「そりゃあ、私だって文才は微妙ですよ?
でも、頑張って書きました!!
それをこんなにヒドく言わなくたって……」 |
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光一
「おい? 綾香君?
何を言ってるのか、全然見えないのだが?」 |
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鳴島
「そりゃあ…………元レディースです。
私も中高生の頃は荒れてましたからぁ?
いっつも成績表には
エントツかアヒルさんしか無かったですよぉ?」 |
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光一
「……よく卒業できたな…………」 |
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鳴島
「確かに以前、伊藤園に投稿した
『味噌汁は 味噌以外のも 使うのか』
って落選しましたけどねぇ…………」 |
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光一
「うわぁ……色んな意味でひどい作品だ…………」 |
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鳴島
「…………霞ヶ浦に沈めるぞ?…………」 |
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光一
「素晴らしい才能なのに、惜しかったですね」 |
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鳴島
「だからといって、
本人を目の前にして『可哀想』なんて
……いくらなんでもヒドイですよぉ!」 |
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光一
「は!?
だから、綾香君を私が
可哀想だなんていつ言ったのさ!?」 |
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鳴島
「さっき言ったですよねぇ?
正直じゃない人キライです。
私がキライな人は、
今すぐにドラム缶に詰められて、
霞ヶ浦に沈められても文句は言えませんよぉ?
手賀沼でも印旛沼でも良いんですよぉ?」 |
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光一
「だーかーらー、
よーくこの缶のパッケージを見なさい!!
君と同じ『綾香』だけど、苗字と年齢が違うでしょ?」 |
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鳴島
「あ、ホントだ!?」 |
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光一
「だから、言い分けていたでしょうよ。
『綾香ちゃん』と『綾香君』って…………」 |
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鳴島
「それもそうですねぇ……いや、早とちりで。
しかし……この作品は全然俳句では。
これだったら、私の作品が採用されたって……
なんで、私のはボツになったのやら……」 |
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光一
「五十歩百歩だろうに…………」 |
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鳴島
「…………あ? 沈められてえのか?
マスター♪ 何か言いましたぁ?」 |