  | 
      光一 
       
      「いやー、恐ろしい出来事だったね」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「何がですかぁ?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「例えば綾香君。 
       
      君が食事をしている時にだね……」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「はい?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「食事の中に昆虫が混入していて、 
       
      それを知らない内に食べていたら……」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「ちょっと、止めてくださいよぉ!」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「なんで?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「想像するだけでも気持ち悪いじゃないですかぁ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「いや、だからそういう恐ろしい出来事が、 
       
      あったの、私の身に!!」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「えっ!?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「冬なのに蛾の大群が部屋を乱舞しててね」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「それだけでも、 
       
      その話の続き聞くのイヤなんですけどぉ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「何が原因かと考えていたら、 
       
      嫁さんが『米びつが原因かも』と言いだしてね」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「はあ?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「米びつの中をペンライトで照らしたら、 
       
      びっしり蛾の大群がいたんだよ」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「そんなお米食べてたんですか!?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「私はその時点まで知らなかったもの。 
       
      ただ、嫁さんは知ってたらしい」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「えっ…………」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「米をとぐたびに、蛾が浮いていたんだと」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「何で米びつの中に蛾の大群がいたんですか?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「…………米びつの中を全部外に出してみたら、 
       
      幼虫が米の海を泳ぎまわっていた……」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「……………………」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「つまり、私は知らない間に………… 
       
      蛾の幼虫を食べていた可能性が」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「ちょっと止めてくださいよぉ!! 
       
      想像したら………… 
       
      私までお米食べられなくなるでしょ!」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「…………帰ったら米びつの中、見てみます」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「おっかないよねえ………… 
       
      普段加工された食品を目にしている時は、 
       
      全然考えもしないんだけどさ」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「加工される前は、 
       
      蛾の幼虫が泳いでた………… 
       
      って、他の食物でもありそうですねぇ」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「…………私まで食欲を無くしそう」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「いやぁ、本当に恐ろしい体験だったよね」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「そもそも何でそんな事になったんですかね?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「さあ、全く分からん」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「米びつを使用している内に、 
       
      中で蛾が卵を産んで………… 
       
      どんどん増えていたんですかね?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「おお、思い出しただけで寒気がする」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「実際、幼虫とお米………… 
       
      間違えて食べてたんですかねえ?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「幼虫はみんな小さい物ばかりだったから、 
       
      米をとぐ時に除去しきれてなかったんじゃない。 
       
      多分、気づかずに食べてたんじゃないかと……」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「うわぁぁ、気持ち悪い!!」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「私に気持ち悪い言うな。 
       
      私の方が被害者なんだ…………」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「結局どうしたんですか?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「米びつの中身、全部外に出して…… 
       
      幼虫や蛾を除去して戻した」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「何十キロも米無駄にするのも、アレですしねぇ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「そうしたら1週間もしない内に、 
       
      元の状況に戻った…………」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「ぇ!?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「やっぱり人間の目と手では…… 
       
      除去に限界があったんだろうね。 
       
      多分、幼虫や卵が残ってて、 
       
      それがまた繁殖してたんだと思う」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「あー、つまりは………… 
       
      マスターは相当程度の確率で、 
       
      蛾の幼虫や卵を食べてたんでしょうね」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「徹底的な除去作業でも、元に戻ったんだから、 
       
      まあ、きっとそうだろうね…………」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「マスター、気持ち悪い!!」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「私が気持ち悪いみたいに言うな!」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「で、最終的にはどうしたんですか?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「米びつ内のお米、全部捨てました。 
       
      もう食べられないだろ…………」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「うぁぁ……気持ち悪い上に、もったいない」 |