  | 
      鳴島 
       
      「……………………」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「なんだね、綾香君。 
       
      その視線は?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「マスター、もうとっくに30代ですよねぇ?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「とっくにとは何だ! とっくにとは! 
       
      私は32歳で、30代前半であり、 
       
      限りなく20代に近い30代だ!!」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「……………………」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「その冷やかな視線はなんだね!?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「いや、いい年した大人がですよぉ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「いい年したってのが気になるが、なんだね?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「会社の忘年会で………… 
       
      先輩社員に食事を取りわけてもらうばかりか、 
       
      サラダとか色々な物に手を付ける前に、最初に 
       
      『デザート食べたい! 食べたい!』 
       
      っておねだりするのってどうなんですかぁ?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「しょうがないだろ、食べたかったんだもの!」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「子供の理屈ですかぁ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「食べたい時に食べたい物を食べるの。 
       
      誰がサラダを最初に食べて、 
       
      次に魚を食べてご飯を食べて、 
       
      デザートは最後……なんて決めたのかね?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「だからって、先輩の女性社員に、 
       
      『バランス良く食べなさい!』 
       
      って言われるのって……どうですかぁ?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「うぐっ…………」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「サラダ・魚・ご飯・デザート………… 
       
      って順番は、フランス料理とかの宮廷料理で 
       
      コース料理が完成される中で出来た流れでしたっけ?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「うわっ、清香、何時の間に背後に!?」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「人を幽霊みたいに言わないでよ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「そうそう。 
       
      元々デザートなんて、庶民の食卓に無かったしね。 
       
      宮廷料理が庶民文化に降りてきた段階で、 
       
      そういう順序で出されるようになったから、 
       
      自然とそういう順序で………… 
       
      デザートは最後に食べるようになったんだろうね」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「じゃあ、マスターも従ったら良いじゃないですかぁ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「昨日までの常識が、明日の常識とは限らんだろ。 
       
      何で私が、他人の作ったルールで食べなきゃならん。 
       
      私の好きな順序で食べて、誰か損でもするのかね?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「いや、それはしませんけどねぇ」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「まあ、一般的に………… 
       
      忘年会でもなんでもいいですけど、 
       
      デザートって締めで食べるんじゃないですか?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「だから、それにこだわる必要が無いだろうと」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「でも、バランス良く食べるのは、 
       
      栄養学上大事ですよねえ?」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「ましてや先輩社員に食事を取ってもらったり、 
       
      バランス良く食べろって注意を受けたり………… 
       
      これは社会人としてどうかと?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「ぐっ…………」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「幼稚園児じゃないんですから、 
       
      ちゃんと考えなきゃダメじゃないですかぁ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「なんで私が綾香君に諭されてるのかね?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「それは決まってますよぉ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「なんだね?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「マスターが"大きな子供"だからですねぇ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「誰が子供か!?」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「子供っぽいじゃないですかぁ! 
       
      どこの大人が……30代の男が、 
       
      『デザート食べたい食べたい〜!』 
       
      なんて、先輩に懇願するんですかぁ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「ここにいるじゃないかね」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「だーかーらー、マスターは特殊例でしょうよぉ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「誰が特殊かね!? 
       
      食べる順序が、 
       
      デザートに始まって、他のヤツ……でもいいではないか」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「じゃあ、マスター。 
       
      1つ聞いていいですか?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「なにかね?」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「最初にケーキとかを食べて………… 
       
      その後に他の物を食べますか?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「…………………… 
       
      えー、私、ケーキとか食べた口で、 
       
      鍋とか食べたくないよ」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「……………………」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「……………………」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「ほーら、やっぱり!! 
       
      バランス良く食べないじゃないですかぁ。 
       
      順序大事ですよねえ? 
       
      最初にデザート食べちゃったら、 
       
      他の食べる気無くなりますよねぇ?」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「う、うるさいな!! 
       
      しょうがないだろ」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「だからマスターは、 
       
      何時になっても、何歳になっても、 
       
      子供のままなんですよぉ」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「私は大人だ!!」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「精神年齢の問題ですよぉ!」 | 
    
    
        | 
      光一 
       
      「き、き、君にだけは言われたくなかった!! 
       
      仕事中に『店の品物を盗み食いする君』には!」 | 
    
    
        | 
      鳴島 
       
      「私は子供じゃないもん!! 
       
      十分大人のレディーだもん!!」 | 
    
    
        | 
      清香 
       
      「どっちもどっちというか…………」 |