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鳴島
「やっぱり冬はお風呂が天国だよねぇ〜♪」 |
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清香
「朝、布団から出るのもイヤだけどね」 |
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鳴島
「ホント、寒い朝なんて布団から出たくないよねぇ。
私もそれで何度、お店を病欠にした事か」 |
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清香
「前半賛同したけど、後半は同意できないから」 |
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鳴島
「えーっ、清香だって寒い冬の朝は、
布団から出たくない。だから学校・バイトサボる!!
って考えた事無いの?」 |
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清香
「私は無い」 |
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鳴島
「ウソだ〜。
誰だって考えた事くらいはあるはずだよぉ」 |
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清香
「私は無いから。
少なくとも、サボった事は無い」 |
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鳴島
「え〜っ…………」 |
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光一
「何の話をしているのかね?」 |
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鳴島
「あ、マスター」 |
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清香
「ウチの姉は、寒い冬の朝、
布団から出たくなくて、
店を病欠した事があるそうです」 |
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鳴島
「何でそれを言うの!?」 |
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清香
「お姉ちゃんの社会人としての成長を期待して?」 |
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鳴島
「もうこれ以上成長の必要ないから!!」 |
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光一
「今、清香君から…………
非ッッッ常に不穏当な発言があったのだが?」 |
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鳴島
「気のせいで事実無根と言いますかぁ、
一切の証拠も無く、推定無罪です!」 |
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清香
「これから朝寒い日は、気を付けるべきかと。
お姉ちゃんからどんな連絡が来るのかとか」 |
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光一
「それは覚えておく必要がありそうだね」 |
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鳴島
「何でそんな事言うのぉ!!」 |
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光一
「君が慌てる必要も、
声を荒げる必要もあるまい。
だって、無罪なんだろ?」 |
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鳴島
「ぐっ…………」 |
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光一
「で、何の話をしていたの?」 |
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清香
「あー、冬場の天国はどこかという話を」 |
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鳴島
「温かいお風呂は極楽のようですしぃ、
温かい布団は天国そのものですよねぇ♪」 |
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光一
「お風呂が天国…………とは限らない」 |
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鳴島
「はぁ?
どうしてですかぁ?」 |
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清香
「マスター、お風呂嫌いですか?」 |
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光一
「入るのが正直面倒くさいと思いはするが、
嫌いではない」 |
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鳴島
「じゃあ、あのリラックス感とか分かりますよねぇ」 |
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光一
「分かるが、それでも天国とは限らない」 |
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鳴島
「何でですかぁ?」 |
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光一
「嫁の実家のお風呂なんだけどさ…………」 |
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清香
「奥さんの?」 |
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光一
「うん」 |
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鳴島
「何かあったんですかぁ?」 |
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光一
「向こうの方言が分からない私にとって、
風呂場は一人きりになれる…………
その意味では天国に違いないんだが」 |
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鳴島
「コミュニケーションの迷子ですかぁ」 |
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光一
「嫁の実家は雪国なんだ」 |
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清香
「東北地方ですもんね」 |
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光一
「一夜で車が雪に埋まっていたりするんだけど」 |
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鳴島
「マスターの住んでる関東地方だったら、
大騒ぎになりますねぇ、それ」 |
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光一
「その身を切るような外気温…………
脱衣所ですら、吐く息が白くなるし……
風呂場に入ると…………
そこはブリザードの吹き荒れる地獄だった」 |
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清香
「露天風呂なんですか?」 |
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光一
「いや、例え話だ。
それぐらい風呂場が寒くて…………
身体を震わせながら身体を洗い、
身体を震わせながら風呂を出るのだ」 |
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鳴島
「それ……心筋梗塞とか発作を起こしそうですねぇ」 |
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光一
「それとも東北地方では、
風呂場の身を切るような寒さは……
デフォルトなのか……とか、つい思ってしまう」 |
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鳴島
「奥さんは何て言ってるんですかぁ」 |
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光一
「『寒い。ストーブでもあればいいのに』
って言ってる。東北人でも寒い事は寒いらしい。
なら、何故あんな地獄のような状況……
放置しておく理由が私には分からん」 |
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鳴島
「コミュニケーションで地獄を見て、
風呂場でも地獄ですかぁ…………
それだと布団が恋しくなりそうですねぇ」 |
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光一
「寝室も寒くて地獄そのものだがな」 |