|
光一
「…………というわけで、私が当店マスターの光一です」 |
|
鳴島
「私がウェイトレス歴9年になる鳴島綾香です」 |
|
清香
「天然な姉、綾香を持っています、
ウェイトレス(バイト)歴3年目の鳴島清香です」 |
|
鳴島
「今、余計な一言入ってたでしょ!?」 |
|
清香
「そういえば、自己紹介なんて初めてなんですけど、
どうされたんですか?」 |
|
鳴島
「無視された!?」 |
|
光一
「いや、なんとなく自己紹介しておかないと……
我々の立ち位置が忘れられてるんじゃないかと」 |
|
鳴島
「ああ、マスターが三十路を越えても、
20代の頃のように自分を好青年と言い張るあたりとか
その辺りの可哀相な部分とかですよねぇ」 |
|
光一
「君も一言どころか二言三言多いよね?」 |
|
清香
「にしても、今日のマスターの日記珍しいですよね」 |
|
光一
「というか、サイト運営を初めて9年5ヶ月ほど……
初めて少しだけ本音を出した日記を書いたわけだけど」 |
|
鳴島
「まあ……屋上階から飛び降りかけたとか、
警察にお世話になったとか…………
今年初め頃からの状況を少し書いていますよねぇ」 |
|
光一
「私の日記は基本的に笑える事を書きたいので、
今日みたいな日記は差し控えてたんだけど…………
というか、これでも笑えるように書いたつもり。
まあ、私が未だ治療途中である
『うつ病』について少し話をしたいなあと……」 |
|
清香
「なるほど」 |
|
光一
「うつ病と言っても、形態や症状は複雑・無数にあるので、
ここでは少しだけ話を絞って、
改善していくのに何が必要なのか…………
とか、そういった話に絞って行こうかと思ってるので、
全部が全部当てはまるわけではない事に、
一応留意しておいてもらいたいと思うよ」 |
|
鳴島
「はい、了解」 |
|
光一
「まず、うつ病を治すのには何が必要だろう?」 |
|
鳴島
「うーん……抗うつ薬とかですかぁ?」 |
|
清香
「カウンセリングとか?」 |
|
光一
「それぞれ正解だけど、
それだけだと不足していると言えるね」 |
|
清香
「というと?」 |
|
光一
「うつ病にも進行過程があるし、
発病形態にも様々あるのね。
私は『双極性障害』と呼ばれるものに近くて、
『不安障害』を抱えているんだけれども……
往々にして、いくつかの病状を抱えている事もある」 |
|
鳴島
「ふむふむ」 |
|
光一
「私のように、
アパートの屋上階から飛び降り自殺しようとした人間、
ここまで来ると抑え込むための薬は必要不可欠なわけだ」 |
|
鳴島
「でしょうねぇ」 |
|
光一
「症状が軽い内であれば、
必ずしも薬が必要なわけではなかったり、
少量の薬で済む場合もある。
治療過程で少しずつ薬も減らせるだろう」 |
|
清香
「ずっと延々に薬を飲んでいるわけにもいかないですしね」 |
|
光一
「必要な間は飲まないとダメだよ。
回復過程の中で、種類が変わったり、減量するものだね」 |
|
鳴島
「で、薬やカウンセリングだけでは不足だと?」 |
|
光一
「そう、他にも必要なものがある。
というより、それがないと治癒は難しい。
治っても再発する可能性だってある」 |
|
清香
「家族のサポートとか?」 |
|
光一
「そう。家族だけではないね…………
周囲のサポートが治療に重要な意味を持つ。
家族、職場、友人……周囲のサポート無しには難しい。
例えば、骨折して松葉杖無しに歩けない人に、
1キロ先まで杖無しで立って歩けなんて無理でしょ?
うつ病の人は現実社会から自分自身が離れてしまうので、
現実社会に戻っていくためには、
そういった人たちからのサポートが何よりも必要なんだ」 |
|
鳴島
「で、わざわざマスターがサポートを強調するのは
何でですかぁ?」 |
|
光一
「日本人は結構『精神論』が好きだよね。
根性があればどうたら……とか、典型例なら
『最近の若い人は根性が無い』とか」 |
|
鳴島
「あー、ありますねぇ」 |
|
光一
「気力・精神力なんて人それぞれ、異なるものだけど……
こういった理由から
『うつ病患者は気合が足りない』とか
『根性が無いサボリ癖のある人たち』だと
こう思われてしまう事が多い。
これは完全な誤解であり、建設的な方向性を持たない。
病状を悪化させこそすれ、良くする事は絶対に無い。
少し話が逸れるが、苦境にある相手を非難する事で、
それが良い方向に進む事は歴史的にもあり得ない。
そうなった背景を知る事・理解する事が重要なんだ。
何も問題の無い所から、問題は起きはしないんだよ」 |
|
清香
「あー、あり得ますね」 |
|
光一
「そうすると、周囲からのサポートどころか、
そういう病状になった事に対して
むしろ周囲が責め立てる雰囲気さえ生まれてしまう。
結果、こういう病気を抱えてしまった人は、
社会的に孤立したり…………
あるいは誰にも理解してもらえないまま、
治療が思うに進まず、長引くケースは珍しくない」 |
|
鳴島
「周囲の無理解が問題だと」 |
|
光一
「周囲が病気に無理解・知識が無いと
こういうケースには最悪な場合も起きえる。
職場に復帰がなかなか出来ない、
家庭生活が円満に出来なくなるなど……
支えが必要なのに受けられないから、
現実生活を直視できなくなり、
ますます現実社会に戻れなくなる」 |
|
清香
「例えば?」 |
|
光一
「典型的に言えば、
なかなか職場復帰できない……などの時、
『職場の人にさぼってるって思われてるんじゃ』
と、患者本人が思い始めて、
そこに対してそのアプローチがあれば、
患者はますます不安を強めて戻れなくなるよね」 |
|
鳴島
「確かに…………」 |
|
光一
「ちなみに、うつ病およびその前段階の人たちは
日本では年々増加傾向にあって、
そういった社会福祉費用や
彼らが働けない事による社会経済的損失だけでも
年間数兆円単位に膨らんできている。
これは単なる精神論で片付けられる問題ではなく、
社会全体で考え方を改める必要のある、
緊急的な課題の一つなんだよ」 |
|
清香
「実際どのくらいの患者さんがいるんですか?」 |
|
光一
「例えば1996年には43万人。
その後、年々増加…………
特に2000年代になってから急速に増加している。
なかなか就職できない、競争社会になったなど
事情は多々あるけれども…………
2008年段階では104万人にまで増えているよ」 |
|
鳴島
「そんなに…………!?」 |
|
光一
「まだ年々増え続けているよ。
というわけで、これは非常に身近で、
しっかり考えるべき問題なわけだ」 |
|
清香
「なるほど」 |
|
光一
「で、うつ病の治療における話に戻すと、
さらに経過における問題もある」 |
|
鳴島
「というと?」 |
|
光一
「少し休む間に、症状が良くなったように見える時期が出たり、
外出してご飯を食べるとか、楽しい事が出来るようになってくる」 |
|
清香
「まあ、気分が上向いてくるのは良い事ですよね」 |
|
光一
「ところがこの段階では、まだ治ってはいないわけだ。
例えば状況的に、交通事故に遭った人が、
松葉杖で外出が出来るようになった程度の事だったりする」 |
|
鳴島
「あー、松葉杖大変なんですよねえ」 |
|
光一
「だろ。あれで遠出をするのは大変なんだ。
ところがそれを理解しない人が、
『じゃあ、松葉杖を取って全力疾走して』
と言ったならば、それは現状不可能だし、
実施したなら完治はより遠い時期になるだけだ」 |
|
清香
「そういう点でも、周囲の理解が必要だと」 |
|
光一
「まあ、そういう事になる。
が、周囲がサポートしてくれるのは必要だが、
そのサポートが過保護になってもいけない」 |
|
鳴島
「過保護ですかぁ?」 |
|
光一
「基本的に、うつ病やそれに関わる病気の場合、
その人は『現実世界』から離れた所にいる。
社会復帰のためには、その人の行動・思考が
『現実世界』のそこに戻らなくてはいけないんだけど、
まあ……そのために周囲のサポートは必要なんだが」 |
|
鳴島
「サポートの仕方に何か?」 |
|
光一
「過保護なサポートになってしまうと、マズイ。
不安へのフォローは必要だけど、
過度すぎると、その人が現実生活に戻れない。
さっきまでの話の例なら、
松葉杖でならどうにか外出できる人に、
『一切外出をしなくていいから、
全部私達が買ってきてあげるから……』
これではリハビリすら出来ない。
動ける範囲でのサポートをしてあげるべきなんだ」 |
|
鳴島
「でも、どうしてそこまで心が病んじゃうんですかねぇ?」 |
|
光一
「個々人の例は無数あって一概に言えないね」 |
|
鳴島
「でも、何か言える事はないですか?」 |
|
光一
「ストレスに対して、過敏な反応を起こしている
とは言えるね」 |
|
清香
「と言いますと?」 |
|
光一
「天秤さ。
心のバランスが不安などで崩れると、
不安のある現実を見るのが辛い。
だから現実を直視しないようにして
心のバランスを取ろうとする」 |
|
鳴島
「あー、なんとなく分かるような」 |
|
光一
「これは人間の防衛本能のようなものさ。
人間、それなりにバランスを取りながら生きているが、
これが不安の方向で過剰になったり、
そもそもバランスを取る事が難しい人だと陥りやすい。
結果、それが進行すると妄想や幻覚が入り込み、
解離が始まって、現実生活から離れてしまう」 |
|
鳴島
「解離?」 |
|
清香
「何かが何かから離れるって事ですか?」 |
|
光一
「例を挙げよう。
君たち2人は、今、目の前にいる私が、
何を心の中で考えているか分かる?」 |
|
鳴島
「女の人の裸ばっかり考えてますよねぇ♪」 |
|
光一
「それは私の嗜好だろ!
じゃなくて、今私が……ではなくてもいいや。
そこらへんですれ違った人、
彼らが心の中で何を考えているか、分かる?」 |
|
鳴島
「さすがにそんなのはぁ……」 |
|
清香
「分かりませんね。赤の他人ならなおさら。
知っている人でも、心の中まで正確には分かりません」 |
|
光一
「それが『普通の人』の考え方だ。
でも、解離が進むと異なってくる」 |
|
鳴島
「あ、解離に戻りましたね」 |
|
光一
「そう。で、現実世界の自分と、自分の心…………
このバランスが取れなくなってしまうと、例えば、
『相手は私を嫌いだと思ってる』
『みんな、私の悪口を言ってる』
と、周囲の人の心は全てそうなっている
と考えるし、聞こえてしまうんだ。全ての言葉が。
言葉を出さなくても、そう聞こえてしまうんだ」 |
|
鳴島
「単なるすれ違った人でも?
あるいは職場の同僚が視線を送っただけでも?」 |
|
光一
「そう、世の中全ての人々が、
自分へマイナス評価を送っていると思う。
私は、少しその傾向を持っていた。
本来、私の心は光一自身のものだし、
鳴島綾香の心は君自身のものだ。
鳴島清香の心の中は、君しか知らない」 |
|
鳴島
「それはそうですね」 |
|
清香
「誰でも自分と他者……
それぞれの境界を持っていますね」 |
|
光一
「ところが、辛い……ストレスを外に出せない。
不安だらけでどうしようもない……
こうした事が重なっていくと、
ストレスとバランスを取ろうとする中で
自分自身が現実から離れる解離になる。
そして周囲の人間と自分自身の境界線も無くなり、
周囲全てが悪意を放っているように感じる。
そうなると、解離性自我障害となってしまう」 |
|
鳴島
「それ……どうしたら良いんでしょうね?」 |
|
光一
「大事なのは『言語化』する事。
不安、辛いと思っている事を言葉にする事。
言葉にすれば、相手は何らかの反応を返してくれる。
大抵の場合は大きな問題ではなく、
その場で解決できて『大丈夫だった』と思えるんだ。
その経験を多く積めると、不安が解消されていき、
段々と現実世界に足がついてくるようになる」 |
|
清香
「それ……言葉に出された時に、
受け止める側の対応にも問題がありますよね?」 |
|
光一
「そう。受け止める側も、相手の言葉に対して
プラスの言葉をかけられることが大事。
プラスとプラスの言葉が行き交うようになると、
状況は改善していく。
その意味で周囲のサポート…………
環境も大事だね」 |
|
鳴島
「不安・辛い事を言いだしやすい環境……ですか?」 |
|
光一
「そういう事。
後、『言語化』と言ったけど、
言語化がうまい人は、現実世界で色んな人と交流して
エネルギッシュに活動出来ている場合が多い。
これが苦手な人の場合、
不安ばかり増幅・蓄積されていき
心のバランスが取りにくくなってしまう」 |
|
清香
「確かにどこに行っても元気で、
悩みのなさそうな人もいますよね」 |
|
光一
「実際には誰にでも悩みはあるんだけど。
それを言語化などの手段でうまく消化できる人は、
現実、うつ病などから縁遠くなれるわけだ。
ともあれ、病気になった側としては、
どう言葉にするかの訓練も重要。
また、周囲もそういう人が抱える不安に対して
そっと支えてあげる事が必要というわけ」 |
|
鳴島
「そうですねぇ」 |
|
光一
「こういう人に強い口調で
『はっきり言いなさい!』と言っても、
萎縮するだけになる。結果として、
ますます現実世界から目をそむけてしまう。
これは特に社会の現場がそうだけど、
これからの社会では上の人ほど
そういう点で留意するべきだと思うね。
現在の日本は、競争社会でギスギスしてきて、
辛さ・不安などを語る事が難しくなっている。
人と人との距離もどんどん離れていってるしね」 |
|
清香
「確かに…………」 |
|
光一
「まあ、周囲のサポートはとても重要なんだけど。
私のように、うつ病になった側も
留意しなくてはいけない点がある」 |
|
鳴島
「それはどんな?」 |
|
光一
「『コントロール欲求』に対して
留意しなくてはいけない」 |
|
鳴島
「コントロール?」 |
|
清香
「何をコントロールするんですか?」 |
|
光一
「うつ病になると、周囲のサポートが必要なんだけど……
自分は不安でどうしようもない、何も出来ないという事で、
逆説的に自分の家族などを
自分の欲求のままに振りまわしてしまう。
これを『コントロール欲求』と言う。
全部自分に合わせろ……という欲求だ」 |
|
清香
「あー……私もお姉ちゃんに
『私の買い物に付きあって』って
毎度毎度振りまわされ
結構大変な思いをしていますよー」 |
|
鳴島
「ちょっと、どういう意味!?」 |
|
光一
「なるほど。綾香君は嫌がる清香君を振りまわす
年長者らしからぬ悪い大人の例というわけだね」 |
|
清香
「はい、そうですね。我が姉ながら、困ったものです」 |
|
鳴島
「ちょっとぉ!!」 |
|
光一
「まあ、その話は置いておいてだ…………
こうした欲求で関係を築いてしまうと、
家族自体が疲れ果ててしまって、
健全なサポートが受けられなくなってしまう」 |
|
清香
「振りまわされる側はエネルギーを使いますもんね」 |
|
鳴島
「何で私を見てるのよ?」 |
|
光一
「コントロール欲求は病気に対して
『他力本願』となってしまう。
要するに、全て自分基準に合わせろ。
私の病気を治してくれ…………と、
病気は最終的には
自分自身の力で克服するしかないんだ」 |
|
清香
「まあ確かに……助ける事は出来ても、
治すことまでは出来ないですよね」 |
|
光一
「そうだね。よって、私のような患者側としても、
少しずつ行動し、必要なサポートを周囲に求めて、
周囲がそれに応えられると良い。
この行動に必要なのが、
適切な医療機関での治療であり、薬の服用も必要。
他に様々なプログラムで現実へ足を少しずつ向ける事」 |
|
鳴島
「出来るだけ早く治したいですもんね♪」 |
|
光一
「実はそこにもワナがある。
うつ病が早急に治せる……と考えると、
一気にワナにかかる可能性がある」 |
|
鳴島
「ワナ?」 |
|
光一
「そう。社会で生きていると時間はすぐ流れていく。
よって病気になると基本的にみんなこう思うだろ?
風邪にかかった時とかどうだい?
『早く治したい!! 治さなくちゃ!』
って思わないかい?」 |
|
鳴島
「私は堂々と休めるので、全然思いません♪」 |
|
光一
「…………これから君が病気で休む日は、
しっかりチェックさせてもらう事にするよ」 |
|
清香
「まあ普通は、早く治して学校行きたいとか、
仕事に戻りたいって思いますね」 |
|
光一
「そう。普通の病気ではそう思う。
で、うつ病でそれをやってしまうと、
かえって治療が長期化する可能性がある」 |
|
鳴島
「何でですかぁ?
早く治そうとする意志がある方が、
治るのが早くなるんじゃ?」 |
|
光一
「意志は非常に大事だが…………
『病気を早く治したい』という気持ちが先行すると、
現状出来ない目標を立ててしまいがちなんだ。
風邪は寝ていれば良いだろ?
でも、うつ病はそういう性質の病気じゃない。
何故なら、
『気持ち(心)』、『行動』、『考え』
この3つがかみ合っていないんだから」 |
|
鳴島
「…………あ」 |
|
光一
「現実世界から離れた場所にいて、
基本的にはまともに動けないんだ。
1日まともに動けても、翌日はずっと布団の中……とか。
今の私もそうだよ。
24時間ぶっ通して行動したくなる異常な日と、
24時間布団から出られない日……普通に存在している。
ようやく最近、ご飯を食べる以外の行動が、
少しずつ出来るようになった位の事だ。
さて…………こんなアンバランスな状態でだ、
早く治すという気持ちを先行させるとどうなるかね?」 |
|
鳴島
「マスターの例で言ってみてくださいよぉ」 |
|
光一
「…………私は今年の1月末に、
夢遊病患者のように夜外にフラフラと出て、
アパートの屋上から飛び降りようとして、
そうして警察に制止されて生きている。
まず、そこが私の出発点。
『気持ち(心)』、『行動』、『考え』
この3つのバランスは完全に崩壊している。
そもそも命すら失いかねなかった。
真冬の夜中、パジャマ1枚、素足で外をさまようあたり、
もう常軌を逸しているよね?」 |
|
鳴島
「普通の人には出来ませんね…………」 |
|
清香
「真冬に素足・パジャマ1枚で歩くのも無理ですが」 |
|
光一
「そういう人間が、
『じゃあ元に戻りたい!』ってなる。
その時、
『よし、1日12時間はウォーキングや
社会活動など色々やって、
仕事をしていた時と同じスタイルで行くぞ!
これならすぐに社会復帰できるはず!』
という目標を立てたらどうだろ?」 |
|
鳴島
「悪くは無いんじゃないですかぁ?
仕事をしていた時と同じようなライフワークを送れば、
すぐに職場復帰できるように
症状が改善するのでは?」 |
|
光一
「この目標を立てた時点でダメ!」 |
|
鳴島
「えっ!!」 |
|
光一
「だって、実現不可能だもの。
うつ病にどうしてなったか分かってる?
『気持ち(心)』、『行動』、『考え』
これらのバランスが崩れてるんだろ?
そうなった時と同じライフスタイルを採ったら、
すぐに失敗するに決まっている」 |
|
清香
「それはそうですね」 |
|
光一
「結果としてはね、『自分は何も出来ない』
と……マイナスの評価を自分自身に下すんだ。
病状はかえって悪化してしまう。
私は2〜4月頃、実現不可能な目標ばかり立てて、
まともな生活も送れずに……長期化したわけだ」 |
|
鳴島
「そうすると……どうすると良いんですかね?」 |
|
光一
「大事な事は……目標を
『病気よりも人生、今の生活、今日1日が大切』
というように考えを改める事。
今日1日を大切にしようと言う事。
病気を中心にして生活を考えない事」 |
|
清香
「病気を中心にして考えない?」 |
|
光一
「病気を中心にすると
『早く治さないと!』
という、病気を治す事が全目標になってしまう。
これだと、実際の行動などが追い付かないので、
マイナスの評価を自分に下し続ける結果になる。
だから、うつ病が悪化していく事になるんだ」 |
|
鳴島
「あ……そっか。
じゃあ、どうしますかぁ?」 |
|
光一
「私のような患者の場合、自分の心の中で
『〜出来なかった』とか
『〜したい……けどムリだ』
って気持ちを強く持っている事が多いんだ。
これを少しずつ変えること、時間はかかるけど……」 |
|
清香
「マイナスの評価をしないように
あらゆる方向性を持っていくという事ですね」 |
|
光一
「そう。自分の行動様式・考え方を変えていくんだ。
『〜したい』で切っていくことが大切な事。
人間、『〜したい』事にはプラスな気持ちで行けるものだ。
『〜しなくてはいけない』は非常に疲れる。
まして、うつ病の人間に『病気を治さなくてはいけない』
ってこれで思考様式を決定させてしまうと、
実際の行動がうまく行かなかった時に、
どんどん悪化させてしまう。
自分のやりたい事を一生涯の中に発見する。
これが最大の治療法であり、
自分の生涯を充足させる事になるわけだ」 |
|
鳴島
「そうして、色々な事をやってみると」 |
|
光一
「その過程の中で自分が不安だと思う事。
例えば私達、うつ病患者は
『あの橋を渡るのが怖い。落ちるかもしれない』
と、普通の人が感じない恐怖も感じているんだ。
そうした不安をすこしずつ克服する事。
例えば…………」 |
|
清香
「例えば?」 |
|
光一
「『あの橋の向こうの子供用品店に行けば、
子供の喜ぶ顔が見れるから、行きたい。
少し不安だけど、あの橋を渡ってみよう』など
思考様式を改めていく」 |
|
鳴島
「あ、ここでも『〜したい』を使いましたねぇ」 |
|
光一
「そう。それが最大の原動力となる。
そうして橋を渡れたなら、
不安対象を克服出来た事になる。
これが自信となって経験値になる」 |
|
清香
「普通の人にとって大した事が無くても、
それが経験値になるんですね」 |
|
光一
「そうだよ。でも普通の人だって、
色々な形で経験値を積んで不安を消しているんだ。
ま、こうした経験を積む事で不安を克服し、
非現実の世界に逃げ込んでいた自分を、
少しずつだけどね
現実世界で生きていた自分へと取り戻せていける。
……と、このためにもますます周囲の理解が必要だけど」 |
|
鳴島
「だけど?」 |
|
光一
「うつ病については未だに無理解な人が多くて、
軽く済む、あるいは長期化せずに済む患者さんなんかが、
病気を重篤化させたり、長期化させるケースが非常に多い。
まあ、私はどちらかと言えば
周囲のサポートに恵まれた方だと思うけれども……
毎日不安は付きまとっているよ」 |
|
鳴島
「例えば?」 |
|
光一
「『職場に復帰できるか?』
『職場の人に単なるサボリと思われてるんじゃ?』
という、社会復帰と社会上での不安は毎日。
『昨日は動けたのに、今日は動けない……ダメかも』
『今日の昼までは動けたのに、
そこから布団の中にこもって動けない……ダメかも』
っていう日常生活での不安も、毎週だね。
心の中での不安と、
実際の行動がなかなか前進しない不安の中で、
この半年の休職期間が経過しているのが事実」 |
|
鳴島
「あー……なるほど」 |
|
光一
「例えば私が休んでいるこの間にね、
自分の好きな事ばかり出来たのだとすればさ、
このサイトは週3回も4回も更新されているんじゃない?」 |
|
清香
「それは言えてますね。
仕事している時は、1週間1回の更新でしたから」 |
|
光一
「それが今どうだろ?
週1回の更新を保つのがギリギリで、
2〜7月まで見ていると、2週間近く更新無し。
そんな事も結構あったよ」 |
|
鳴島
「そうでしたねぇ…………」 |
|
光一
「そんなわけで、
仕事を休んでいる分、時間が出来ても、
それを全て行動に使えるわけではないんだ。
少しずつ、なんとか行動できるようになってきただけで、
これがいつ、『普通の人間』になるかは分からない」 |
|
鳴島
「あー……なるほど……」 |
|
光一
「それだけにこの病気は、
周囲からのサポート・理解が必要な事。
自分自身が考え方を変えて、行動したくなる事。
そのために、適切な医療機関に定期的に通い、
必要ならば薬も処方してもらう事。
人によって時間に差はあるし、再発もあるが、
社会的立場や時間は考えずに、
自分がどうありたいのか見つめるのが、
大事な事になってくるわけだ」 |
|
鳴島
「なるほど、今日話した分は理解できましたぁ」 |
|
清香
「前の簡単歴史講話よりは、
お姉ちゃんも理解できたようです」 |
|
鳴島
「何でそこで、
私の理解度に疑問を投げかけるの?」 |
|
光一
「それは綾香君だからしょうがない」 |
|
清香
「そうそう、お姉ちゃんだから仕方が無い」 |
|
鳴島
「ちょっとぉ!!
今、私がこの場で一番サポート必要としてますよぉ!」 |