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光一
「というわけで、最近恒例になってきたんだけど……
今回も「うつ病」に関わる話をしていきたいと思います。
近々、うつ病にまつわるコンテンツを立ち上げたいとも思ってるので」 |
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清香
「今回が3回目で、過去は以下のような内容でした。
1回目は周囲の支援・理解と、患者自身について
『うつ病……周囲に理解してもらえるか、微速でも進めるか?』
2回目は患者の行動の重要性について
『うつ病その2……『行動療法』ついてその1』」 |
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鳴島
「いずれの内容も……えっとぉ……」 |
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清香
「患者自身があせらない事
周囲が患者を非難する事なく、理解して支える事
『〜したい』という意欲のわく欲求に基づく行動をする事
それらが主な柱になっていました。
環境、患者を支える人間・職場、患者自身
それぞれに重要な側面があるという事です」 |
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鳴島
「ということでしたぁ!」 |
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光一
「綾香君はやっぱりよく理解してないだろ?」 |
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鳴島
「り、理解していますよぉ!!」 |
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清香
「…………というお姉ちゃんは置いておいて、
で、今回はどういう話をするんですか?」 |
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光一
「話の根幹として重要な事は、
前回までの2回でしているので、今回は
1.『言葉の栄養』
2.『思考する勇気』
この2点について話をしようと思う」 |
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鳴島
「なるほど分かりましたぁ♪」 |
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清香
「最初に論点を上げないと、
お姉ちゃんは理解できないもんね」 |
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鳴島
「どういう意味よぉ!?」 |
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光一
「まあ、綾香君は置いておいて…………
というか、少しは理解してもらいたいけど……
念のために1回目の時にも述べたけど、
うつ病患者というのは、年々増え続けている。
今や10人に1人はうつ病を抱えていると言われる。
実際に認定されるのは、症状が重くなったりして、
通院している人数…………100万人弱だがね。
それに類する予備軍、うつ病なのに通院しない人も含めて、
社会の1割がそうだと言われている。
100人いたら、うつ病・その予備軍は10人はいる。
予備軍は悪化すれば、容易に患者側だ」 |
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鳴島
「すごい数ですよねぇ」 |
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光一
「そう。なので、うつ病は遠い世界の話ではなく、
『いつ自分が発症するか分からない』
『いつ自分の身内が発症するか分からない』
『いつ自分の同僚が発症するか分からない』
非常に身近な病気になっていると考えて良い。
うつ病での年間自殺者は、交通事故での死者を上回っている」 |
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清香
「ですね」 |
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光一
「現在日本では年間自殺者が3万人を超えるが、
その内、3割程……1万人程度が
うつ病を直接原因とする自殺と言われている」 |
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鳴島
「すごい数…………」 |
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光一
「私だって叔父を自殺で亡くしているからね。
ちなみに、社会的損失……金額換算では、
年間2兆7千億円とも言われている」 |
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清香
「そんなに!?」 |
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光一
「日本が財政的に苦しいとか色々言われるけど、
うつ病を発症する事が日常化する社会は、
その点だけでも社会的経済ダメージは大きい。
つまり、彼らが本来なら生産する経済利益が縮小され、
逆に彼らに必要とされる医療福祉の負担、
休業中の企業側の負担その他は、
その位の金額になると言われている」 |
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鳴島
「確かに……働き盛りの人たちが、
社会から退いちゃうんですもんねぇ」 |
|
光一
「なにも休職に限らない。
うつが原因で退職したり、退職に追い込まれる事もある。
あるいは、うつ病を自覚しながらも隠して働いていたり……
この場合は、発覚して退職を迫られる事を恐れるからだね。
あるいは…………
『うつ病なんて甘え、気の持ちようだ』って考えの人
これが自分自身だったり、周囲に多いと、
病院に行く事もなく、治療もしないので悪化していく。
結果として作業効率がどんどん落ちていく……などね」 |
|
清香
「そっか……自分がうつ病だって認めたくない。
そういう人も沢山いるでしょうしね」 |
|
光一
「前々から言っているけど、日本人は『精神論』が好きだ。
うつ病を精神論扱いする人は非常に多い。
ところが、社会経済的には大きな損失になっていて、
合理性の面からみても、
精神論で片付けられない問題なのは確かなんだ。
大体、精神論扱いできるなら、
投薬治療も入院も、カウンセリングも必要ない事になる。
重ねるけど、これは立派な病気で
治療を受ける事を恥ずかしいと思う必要はない。
風邪を恥ずかしがって隠す必要が無いように、
うつ病である事も隠す必要が無い。
むしろ、隠さずに周囲のサポートを受けるべきなんだ」 |
|
鳴島
「そこが欧州との差だって前回言ってましたねぇ」 |
|
光一
「特にバブル崩壊以降、この数値は急増している。
前にも言ったけど、今の日本社会には希望が無い。
まず確実に言えるが、バブル期までのようには、
日本社会で、この先、給与水準が上がる事はない。
むしろ給与水準が下がり、社会サービスが低下し
老後の保障も大きく低下する。
これはもう自明として見えている。
つまり、誰も先の見えない社会なわけだ。
この12年で日本人の平均所得は2割も低下した。
いくら会社に貢献しても、バブル期のようには報われない」 |
|
清香
「そうですね……というか、バブル期なんて、
私が生まれる前。マスターも中学生位ですもんね」 |
|
光一
「昔の日本社会っていうのは、
懐古主義に陥るわけではないが、
働けばその分報われる。
努力した人が周囲から称賛される。
とまあ……そういう時代だった。
ところが今は全く違う社会になっている」 |
|
鳴島
「というと?」 |
|
光一
「今の日本社会はグローバル化の下で競争社会になった。
企業側の論理はこうだ。
『効率第一・株主配当第一・海外との競争・合理化』
社員の論理はこうだ。これは昔からね。
『働きがい。生きがい』
こうして、景気低迷下と社会構造の変化で、
企業の求めるものと、社員の求めるものが離れた。
ギャップに耐えかねて、ストレスが増す社会となった」 |
|
清香
「つまり、それ以前の社会よりも
うつ病が発症しやすい社会になってしまったと」 |
|
光一
「報酬の点で言えば、バブル期までは
能力がある人は昇進して裕福になれたし、
能力が無くても懸命に働けば、
周囲の人たちが『誠実な人』として信頼して、
報酬は十分に上がったし、生活も保障された。
それ以上に、その人の人格自体が称賛されたんだ。
今は最早そうではなくなってしまった」 |
|
清香
「一部の能力ある人だけが裕福になって、
能力がない大部分の人は、
努力しても報われず、燃え尽きる様な社会になったと」 |
|
光一
「そう言う事。
非正規労働の増加なんて、若者に絶望を強いるよね?
それに加えて互いを誉めたり、称賛するといった、
人間的な関係はどんどん遠くなっている。
競争社会と言うのは、強力な社会格差を生み出すものだ。
同時に、人同士で差別しあって、称賛しない社会でもある。
まあ、その前提を今回も強調したうえで、
今回しようとしている話に行くとするかね?」 |
|
鳴島
「今回も本題に入るまでに、
随分話が迂回しましたよね」 |
|
光一
「だって未だに『うつ病』を
単なる気持ちの持ちようって考える
硬直思考の極みの人が多いんだもん。
強調せざるを得ないでしょ」 |
|
清香
「まあ、確かに…………」 |
|
光一
「で、今日第一の話。
『言葉の栄養』について話をしていこう」 |
|
鳴島
「言葉の栄養? って何ですかぁ?」 |
|
光一
「心療内科的な言葉では『ストローク』って言うんだ」 |
|
清香
「ストローク?」 |
|
光一
「心理学的な用語で言うと、
他者に対する自分の行為全般」 |
|
鳴島
「それがどう栄養になるんですかぁ?
…………太るんですか?」 |
|
光一
「太るわけない、ない。
言葉、こーとーばー。
ドーユーアンダスタン?」 |
|
鳴島
「なんか、ことさらバカにされた気がするんですけど」 |
|
光一
「と、人間は何かを食べて栄養を摂取しないと
当然ながら死んでしまうわけだ」 |
|
鳴島
「知ってますか?
女の子の身体の半分は生クリームなんですよぉ?」 |
|
光一
「綾香君、ことさら意識して自分の年齢を下げようとしない。
それが許されるのは、JKか女子大生までね。
ちなみに私は女子高生モノも女子大生モノも好きだから。
それと君の論法を本気で信じる人がいたらどうする」 |
|
清香
「そうそう。お姉ちゃんの脳みその半分は
綿で出来てるんだから」 |
|
鳴島
「それこそウソじゃない!! ちゃんと詰まってる!
後、マスター、さり気にとんでもない事言ってますよね!?」 |
|
光一
「と、こうした言葉の掛け合い自体そうだけど……
『話しかける』『接触する』『誉める』『怒る』など
相手との相互作用をおよぼす行為をストロークと言う」 |
|
鳴島
「で、それがどう栄養なんですかぁ?」 |
|
光一
「ストロークにはプラスとマイナスのそれが存在するんだ。
プラスのストロークと例えば…………
綾香君は今日も可愛いね♪」 |
|
鳴島
「えっ、そんなホントの事を言わなくたって〜♪」 |
|
光一
「こう、相手がプラスの気持ちになる行為を指すんだ」 |
|
清香
「いっつも何も考えてない頭の持ち主なのにね〜。
顔と胸だけは無駄に良いよね、お姉ちゃんは」 |
|
鳴島
「どういう意味よ!?」 |
|
光一
「と、このように……相手をけなす等の行為は、
マイナスのストロークと言われる事になるんだ」 |
|
鳴島
「わざわざ私で実践する必要性はありましたかぁ?」 |
|
光一
「さて質問だ。綾香君としては…………
私がかけた言葉と、清香君がかけた言葉、
どちらの方が良かったかい?」 |
|
鳴島
「それはマスターの言葉ですよぉ。
私の事、可愛いって言ってくれましたしぃ。
清香は私の事、バカにしていましたしぃ」 |
|
光一
「これこそが『言葉の栄養』、『ストローク』というものだ」 |
|
清香
「じゃあ、プラスのストロークを得る事が、大切ですねぇ」 |
|
光一
「当然、プラスにこした事はないが、
さて……あえて栄養と言ったのは、
ストロークは得られないと
人間として耐えられなくなってしまう」 |
|
鳴島
「というと?」 |
|
光一
「極端に言ってしまうと、
人間はプラスでもマイナスでも良いから
ストロークを得たいんだよ」 |
|
鳴島
「何でですかぁ?
マイナスの言葉や行為なんて貰っても嬉しくないですよぉ?」 |
|
光一
「人間にとって一番ツライ事は
『孤独』『集団内で無視される事』なんだよ。
集団的な生き物において、これ程むごく、ツライ事は無い。
だから、非常に逆説的なんだけど、
自分の事を他者が『けなす』『叱る』『バカにする』って
非常によくないマイナスのストロークだけどね、
栄養としては無いよりもマシなので、これを求めてしまう」 |
|
鳴島
「うーん……けなして欲しい?」 |
|
光一
「だから、『言葉の栄養』と言ったんだ。
もちろんプラスのストロークは重要だが、
人間はそれが得られないとマイナスのストロークを求める」 |
|
清香
「栄養と言う意味では…………
普段は美味しいご飯を食べたいけど、
雪山で遭難している時には、
普段口にしないような、劇的にマズイ非常食でも口にする……
こういう事ですかね?」 |
|
光一
「そう。常に栄養は得続ける必要があるので、
プラスが得られなければマイナスを得ようとするんだ」 |
|
鳴島
「例えばどういう事ですかぁ?」 |
|
光一
「好きな女性がいるけど、相手にしてもらえない。
その女性から『私もアナタを好き』とか言ってもらえない。
こうした、プラスのストロークを貰えない場合が典型例」 |
|
清香
「好きな女性に無視された場合とか、
欲しい言葉・行為が貰えない場合ですか……」 |
|
光一
「君たちならどうする?
好きな男性にアプローチしても、
プラスのストロークを期待できない……
プラスの言葉の栄養を貰えない場合は?」 |
|
鳴島
「……………………
既に式の予定を組みこんでしまったので、
私の求婚に応えてくれないなら、
もういっそ、誘拐してでも…………
婚姻届に無理やりにでも判を押させます♪」 |
|
光一
「君は色々必死になりすぎだろ!!
だから三十路手前はって言われるんだ!」 |
|
清香
「彼が好きな女性をつきとめて、
色々弱みを握ったり、ちょっと脅かしてみたり……
なんとか逆転劇を図ってみようかと」 |
|
光一
「事が陰謀家めいていて怖すぎるよ!!
君達姉妹、必死になりすぎだろ!!」 |
|
鳴島
「で、結局のところ、何が言いたいんですかぁ?」 |
|
光一
「まあ、君達の例にも現れているけど。
小学生なんかだと、好きな女子に意地悪をしてしまうのは典型例。
『好き』って言葉が欲しいんだけど、期待できない。
あるいは周囲にその関係を知られるのが恥ずかしいので、
『アンタなんて嫌い』って感情行為を欲しがってしまうんだね。
これが大人になると……たちが悪い。
ストーカーに走ってしまうケースがある」 |
|
鳴島
「あー、今でも問題になりますよねぇ……」 |
|
清香
「交際を申し込んで断った女性とか、
縁を切られた女性に対して
男性がストーカーするってありますね」 |
|
光一
「あれは『言葉の栄養』に関して、
プラスのストロークが得られなかった場合だね。
よって、生きるためには栄養が必要…………
なので、マイナスのストローク、
つまりはマイナス方向の負の栄養でも手に入れたい、
そういう事なんだよ」 |
|
清香
「つまり、『好きになってもらいたい』のに、
現実そうなってくれないので、
『自分を嫌ってもらいたい』という行為にいきつくと」 |
|
光一
「結果として相手の女性が
『イヤ、もう付きまとわないで!』
『アナタは嫌いだから別れたの!』
と、マイナスの言葉を投げかけてくれれば、
このマイナスのストロークを欲しがっている、
ストーカーしている男性自身はね、
負の側面とは言え、栄養を貰い続ける事が出来る。
構ってもらう事が出来たんだ。
よって、ストーカーがより苛烈に続いてしまうわけだ」 |
|
鳴島
「なるほど、その点は分かりましたぁ♪
なるほど、だからそう言う事ですかぁ!
それで、マスターも夜な夜なストーカーしてるんですね♪」 |
|
光一
「大きな声で何を言ってるの、アナタ!?」 |
|
清香
「マスター……犯罪行為にまで……」 |
|
光一
「完全な誤解です!!
と、話が少し逸れたけど…………
これが『言葉の栄養』、『ストローク』と呼ばれるものだ。
人間は生きる上では、相互作用が重要だと言う事だね。
人間は生きる上で『ストロークを得る』事が目的でもある」 |
|
清香
「出来る限り、プラスの方向に行きたいですね。
前回もプラス評価なんて話をしていましたけど」 |
|
光一
「そうだね。相手に喜ばれる。
あるいは相手を気遣えると言う事が、非常に重要。
うつ病の人に接するだけに関わらず、
常日頃の人間関係でも心がけたい事だね。
マイナスのアプローチは結局マイナスなんだ。
相手を非難して不快な思いにさせても、
そこから建設的な方向性は見えないものなんだ。
かえって相手の感情を屈折させて、
歪んだ人間を創ってしまう可能性があるね」 |
|
鳴島
「で、『言葉の栄養』の話はそこまでとして…………
もう一つの話題は『思考する勇気』でしたよねぇ?」 |
|
光一
「これについては、うつ病とも関係…………
『視線恐怖』とか『不安障害』『念慮』なんかに関わってくるね」 |
|
清香
「というと?」 |
|
光一
「うつ病には発症に至るまで、様々な要因がある。
外因的なものだったり、内因的なものだったり……
ここで詳細は長くなるので今回は省こう。
人格形成過程において、子供から大人になっていく中、
基本的な人格・思考の形成がされるのは分かるよね」 |
|
鳴島
「ですねぇ」 |
|
光一
「初回で話をしたと思うのだけど、
『気持ち(心)』、『行動』、『考え』
この3つのバランスが保てる事が重要だと言ったね」 |
|
清香
「そうでしたね。
うつ病の場合、このバランスが崩れているので、
はやる気持ちや考えを抑えて、
行動は『〜したい』を中心にすべきと」 |
|
光一
「今日はこの3つの内、
行動について重点を置いて後半の話としよう」 |
|
鳴島
「というと……タイトルが『思考する勇気』でしたよねぇ?」 |
|
光一
「まず、人間として行動原理が『〜べき』という義務感
これ一色に染まってしまっている人間は、
非常にその動機として危ういとしなくてはいけない」 |
|
清香
「義務感だけでの行動はエネルギーを消耗する
その点を言ってましたよね」 |
|
光一
「それだけではなくて、これは個性を大事にしない。
『自我』あるいは『自分自身の考え』に犠牲を強いるんだ」 |
|
鳴島
「なんでですかぁ?」 |
|
光一
「これは前回話をした事だけど、
うつ病の人、あるいはなる可能性のある人。
この人たちにかなりの部分で、
『〜べき』…………
つまり、周囲の評価を第一として、
自分の心の在り方を脇に置いてしまう人が多いんだ」 |
|
鳴島
「あ、そう言えばそうでした」 |
|
光一
「うつ病は精神論が好きな人には
『甘え病』と言われる事が多い」 |
|
清香
「そうですね」 |
|
光一
「しかし、臨床例では、うつ病患者の多くは、
そうした『甘え・不真面目』とは真逆の
『責任感が強く生真面目』で『優等生タイプ』の人に多い」 |
|
鳴島
「マスターが生真面目!?」 |
|
光一
「…………今、釈然としないものを感じたが、
基本的に多いのが真面目すぎる、優等生すぎる人達なので、
『仕事で燃え尽きて、うつになる』
『不満などを言う事がためらわれる』
『出来るだけ自分で全てを行おうとする』
『他者の援助を求めるのを、恥ずかしいと思う』
などのような傾向が強く出ている。
つまり、基本的な行動原理が『〜べき』なんだ」 |
|
清香
「『我慢するべき』とかそういう事ですか?」 |
|
鳴島
「かえって毎日を一生懸命に頑張って、
何でも真面目に取り組んで、人に気を遣う人の方が
うつ病になりやすいって事ですか?」 |
|
光一
「はっきり言うと、自分を抑えて他人を優先する人だね。
過渡なプレッシャーを受けやすいんだ。
『決められた時間内に全てやるべき』とか、
『成果を絶対にあげるべき』とか、
『他人とは争わないべき』とか、
『理想の家族像を作るべき』とか、
『みんなの期待に応えるべき』とか
『自分は置いておいて、他人を優先すべきとか』」 |
|
清香
「自分の心や考えは置き去りにするから、
時間と共にストレスばかり増大すると。
少しずつでも日々蓄積されたストレスで
いつの間にか取り返しのつかないトコまで行きつくと」 |
|
光一
「そうだね。
あるいは自分に与えられた仕事が
自分の裁量を越える範囲だったとしてもこれを断れない。
『やるべき』って考えてしまう。
というか、この『〜べき』っていう考えは、
幼少から植え込まれて、育てられた可能性が高い」 |
|
鳴島
「というとなんですかぁ?」 |
|
光一
「大人が『〜べき』という態度で子供を育てる。
つまり、『皆が勉強しているから、お前もすべき』とか。
まあ、何でも良いけど……基本的には
『子供に何かをさせたい時の、命令系』だね」 |
|
鳴島
「でも、それって多くの親がそうじゃないですかぁ?」 |
|
光一
「うん。ここで問題になるのは、その親子関係のあり方だね。
往々にして大人自身も、子供の理想となるような行動は
必ずしも出来ていないものなんだ。
大人が出来ていない・出来なかったものを、
あたかもそれは正しい事に思えるので、
子供に対して『〜するべき』事として教育するわけだ」 |
|
清香
「つまり、大人の考えが子供に押しつけられると」 |
|
光一
「この時、親子関係が良好なものならいいけど、
養育の中に『恐怖』を伴う関係だと、
子供の思考構造は、大人になるにつれて
『〜したい』という欲求ではなく、
周囲に合わせる『〜べき』を行動原理にしていってしまう」 |
|
鳴島
「何でですかぁ?
人間だれでも、したい事を原理で行動するんじゃ?」 |
|
光一
「さっき、『恐怖』と言ったね。
悪い親子関係では
親が思い描く理想通りに子供が動かないと、
『罰』を前面に打ち出してくるんだ。
酷い場合にはご飯を抜いたりとか」 |
|
清香
「そうすると繊細な子供の心としては、
『罰』を受ける『恐怖』に萎縮してしまって、
自分のしたい事を抑え込むタイプになってしまうと?」 |
|
光一
「そういう事だね。
なおかつ、こういうケースで養育側の親もね、
親自体が『周囲の評価を第一』
『子供の個性・人格を認めない』
ってケースが多い。
親が『周囲の人に合わせるべき』で行動しているから、
しかもそれが自分自身の考え方だと思ってるので、
押しつけられた子供も『自分の個性・考え方』
これを失ってしまいがちなんだ。
欧州なんかだと大人達は、子供だって子供なりの
人格・個性を持っている同じ人間だって考えるんだけど、
日本は子供を『未熟で人格・個性は持っていない』
って考えてしまう大人達が多い」 |
|
鳴島
「子供の個性を認めないって事ですかぁ……
というか、親自体も『〜べき』で子供に当たってしまって、
実際には自分の考えを持っていないケースが
多いってことなんですねぇ」 |
|
光一
「そういう事。その場合その子供たちがね、
大人になって社会人として苛烈なストレスにさらされると、
自分の抱える不満は全て抑え込んで、
しかもプライベートで『〜したい』事も発見できず、
最終的に破たんすると、うつ病になってしまう場合がある。
『〜したい』っていう自分自身の欲求を抑え込まれたから、
自分がしたい事が無い人間になってしまう事が多い。
人生を豊かにする趣味が無い。無趣味な人間ね」 |
|
鳴島
「あ〜…………」 |
|
光一
「重要な帰結点を述べるとね、
1.成長した時に『考える』心を持たない人間になる
2.自分が『自立』した時、『考える』心が無いので、
自分にそれまで接してきた大人達の考え方を、
自分自身の考え方だと錯覚してしまうんだ」 |
|
清香
「自分が子供の頃から『〜しなくてはいけない』
って押しつけてきた大人達の考え方が、
完全にすりこまれてしまって、
本当は自分の考えじゃないのに、
それが自分の考えだと思い込んでしまうって事ですね」 |
|
光一
「そう。こういう風に育った人間の行きつく先としてはね、
『皆がやっている事は、自分もしないと
社会的制裁を受けるんじゃないか?
『怖いから』『罰せられない』ように行動しよう』
という、健全でない思考様式を持つ人間になってしまう」 |
|
鳴島
「何に関しても周囲の評判が一番。
自分自身の考えは持つべきではない……と」 |
|
光一
「こうした人間になってしまうと、なった当人は、
非常にツライと思わないかい? 生きにくい」 |
|
清香
「確かに…………」 |
|
光一
「何故非常に楽しくない人生になるかと言うと、
これは『個々人を大事にする(認める)』事の無い
そういう生き方になっているからだね」 |
|
鳴島
「個々人を大事にしない? 認めない?」 |
|
光一
「思考構造が『周囲への恐れ』だけで構成されているから。
これは、個々人の個性が生き生きとした社会を認めない。
嫌々ながらでも、周囲にあわせて生きるべき。
周囲の考え方が自分の考え方だ……となっちゃうから」 |
|
清香
「そういう思考様式が進むとどうなるんですか?」 |
|
光一
「例えば症例として…………
『視線恐怖』なんてのも出てくる」 |
|
鳴島
「今日更衣室で着替えていたら、
マスターの視線を感じて恐怖を覚えたんですがぁ、
これは視線恐怖ですかぁ?」 |
|
光一
「あ、それは実際に君の巨乳を拝見しようと
ついついのぞいていたので、実態があるから
『視線恐怖』ではないね。
『視線恐怖』には実は実態が無いんだよ」 |
|
清香
「け、警察へ通報を……110と……」 |
|
光一
「まった、待って! 出来心なんです!!」 |
|
鳴島
「で、マスターへの社会的制裁は先延ばしして、
話を続けてください」 |
|
光一
「『視線恐怖』というのは、すれ違う全ての人の視線が、
自分に注がれていて、それが敵意を持っているように感じたり
そういう恐怖を感じる症状だね」 |
|
鳴島
「あー、実際にない事をあると思い込むってやつですねぇ」 |
|
光一
「自分の価値観を『周囲への恐れ』のみで規定して
それで育ってしまったため、
『周囲への恐れ』が転じて、
「自分は悪い事をしたんじゃないか?」
「周囲の人は私を責めてるんじゃ?」
こういう考えがつきまとうようになり、
ありもしない恐怖が実感のものとなってしまうんだね」 |
|
清香
「一種の妄想なんですね」 |
|
光一
「そうだね。この時、自分の考え方が持てなくて、
『もし』私が悪いんだとした『なら』
『もし』周囲が私を責めてる『なら』
という恐れが事実だと思い込んでしまうと、
これは『念慮』などになってしまう。
症状が進めば『被害妄想』なども生じ得る」 |
|
鳴島
「結局どうするのが良いんですかぁ?」 |
|
光一
「まず、『妄想』という形は自分の考え方を伏せてしまい、
『周囲への恐れ』によって発展形として表れる。
妄想は肯定するんじゃなく、
実際の事実関係を大事にする治療が重要なんだ」 |
|
鳴島
「なるほど」 |
|
光一
「結局、『人間の中心は考える事』というわけ。
行動の動機を『〜したい』に据えて、
何が正しい、正しくないという基本的態度を作る。
周囲に惑わされない。
一番肝要なところ。結論としては……
『考える勇気を持つ』という事だね。
周囲への『恐怖』で思考する構造を改める事だ」 |
|
鳴島
「なるほど、分かりましたぁ♪
『プラスの言葉の栄養』に
『考える勇気を持つ』という結論ですね。
ところで、社会的な制裁は別の話だと思うのでぇ、
マスターが更衣室をのぞいていた件に関しましては」 |
|
清香
「時給のアップなりなんなり、
私達に特別の便宜が図られないのであれば」 |
|
鳴島
「110番への通報はやむを得ないかと♪」 |
|
光一
「き、君達!!
人を恐怖でコントロールするのはよろしくない!
話せば分かる。話せば分かる!!」 |