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光一
「ホント……何で勝てなかったんだろ?」 |
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鳴島
「……………………」 |
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光一
「キックボクシングで鍛えているはずなのに、
どうして嫁に腕相撲で勝てなかったのか」 |
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鳴島
「……………………」 |
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光一
「しかも、右腕・左腕……両方で負けるなんて!」 |
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鳴島
「マスター」 |
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光一
「なんだね?」 |
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鳴島
「奥さんと腕相撲して負けて、
それがどうかしたんですかぁ?」 |
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光一
「『どうかした』どころじゃないだろ!?」 |
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鳴島
「ほぇ?」 |
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光一
「私がかねてから言っているように、
『亭主関白』になろうという身だよ、私は」 |
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鳴島
「はぁ……まだやってたんですかぁ?」 |
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光一
「まだやっていたとはなんだね!?」 |
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鳴島
「それで検定を受けたら…………
『関白度20パーセント
亭主関白は諦めましょう』
って、既に結論出てたじゃないですかぁ」 |
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光一
「あんな検定ごときに…………
私の価値が分かるはずが無い!」 |
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鳴島
「はぁ…………
で、腕相撲がどうしたんですかぁ?」 |
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光一
「嫁に負けたんだよ。
2回やって2回とも…………」 |
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鳴島
「はぁ?」 |
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光一
「『はぁ?』じゃないでしょ。
私の亭主関白度数を上げるために……
まずは嫁を実力で打倒しようとしたのに、
負けてしまったんだよ!!」 |
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鳴島
「奥さん倒してどこに行くんですか、アナタ」 |
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光一
「いや、亭主関白になろうというのだよ」 |
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鳴島
「いやそれは…………」 |
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清香
「『亭主関白』なるものは、
オーラじゃないですか。
なんというか、力でねじ伏せるとか、
論点がすり替わっているような」 |
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鳴島
「お、清香。
良い事言った!!」 |
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光一
「何、君達…………
その薄いオブラートに包んだ先に、
何か言わんとしている事がある?」 |
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鳴島
「だから〜。
そもそも奥さんとマスターの間に、
上下関係を付けてどうするんですかぁ?」 |
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光一
「そ、それは…………」 |
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清香
「それにマスター、亭主関白はあくまで、
オーラとしてにじみ出るもの…………
だと思うので、腕力で勝っても意味が無いかと」 |
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光一
「オブラートにくるむのを止めたね!?」 |
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鳴島
「どこの家庭に奥さんを…………
腕力でねじ伏せてみよう!
なんて亭主がいるんですかぁ」 |
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光一
「ここにいたよ」 |
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鳴島
「はぁ…………ん?
『ここにいたよ』ですかぁ、
過去形になってますねぇ」 |
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清香
「腕力でも勝てない事を悟ったと」 |
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光一
「腕力『でも』とはなんだね!?
私が嫁に勝っている要素が、
まるで何一つ無いようではないかね!」 |
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清香
「受け取り方はマスターの自由ですが」 |
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鳴島
「認めちゃった方が楽ですよー♪
さあさあ、認めちゃいましょう!!」 |
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光一
「イヤだ! 認めん!
私は亭主関白になるんだ!」 |
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鳴島
「そもそも意識してなるものじゃないでしょう」 |
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清香
「そうやって意識するあたりが、
コンプレックスというか…………
マスターの地位を下げそうですが」 |
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光一
「私の地位が下がるって話までなるの!?」 |
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鳴島
「ほら、度量の広い男は、
認める事から入るんですよぉ♪」 |
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清香
「だからマスターも早く、
家庭生活では奥さんの下にいる事を、
全身全霊で認めましょう」 |
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光一
「それって度量の広い男って言うのかね?
一歩間違うと私は、卑屈な男にならないかね?」 |
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鳴島
「それはマスター次第ですよぉ」 |
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光一
「ダメじゃないか!!
自分で言うのもなんだけど……
30円のジュース買っただけで、
『無駄遣いしてすいません!』
って全力で土下座する男だよ、私!」 |
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鳴島
「じゃあ、もうその位置で良いじゃないですかぁ」 |
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清香
「そうそう。そこを定位置にすれば、
争いごとも起きずに平和ですよ」 |
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光一
「何? 私の地位はそこまで…………
そこまで卑屈にならんといけないの?」 |
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鳴島
「マスターの度量がそこまでなんですからぁ、
そこで止まればいいじゃないですかぁ♪」 |
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光一
「君、今サラリと酷い事言ったよね、今!?」 |