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光一
「おはよう、君たち」 |
|
鳴島
「お、おはようございますぅ」 |
|
清香
「おはようございます」 |
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光一
「…………何で綾香君は、
引きつった表情になってるのかね?」 |
|
鳴島
「いや…………だって、マスター…………
女子トイレ盗撮していたんですよねぇ?」 |
|
清香
「まあ、いつもの事かと」 |
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光一
「いつもの事じゃない! いつもじゃない!!
そもそも盗撮したなんて事実自体がない!!」 |
|
鳴島
「だって…………女子トイレの画像、
日記にアップされていましたよねぇ?」 |
|
清香
「警察まで同行しましょうか?」 |
|
光一
「完全な誤解、誤解も誤解だって!
人が不安に耐えながらネタを撮影していたのに。
女子トイレのピクトグラム撮影しただけだろ」 |
|
鳴島
「十分トイレを利用する女性からすれば
マスターは不安と言うよりも、怖い存在ですねぇ」 |
|
光一
「ぐっ…………
と、今までいくつか精神疾患について話をしたけど……」 |
|
清香
「えっと……『うつ病(その1、その2、その3)』
それに『依存症(その1)』があって、
前回の『強迫性障害(その1)』ですね」 |
|
光一
「今回は『不安障害』について話をする事にしよう」 |
|
鳴島
「女子トイレ盗撮の件で、
いつ警察に逮捕されるか不安な
マスターの心理を見事に反映していますよねぇ」 |
|
光一
「盗撮してねえよ!!
人を犯罪者に仕立て上げるのはやめたまえ!」 |
|
清香
「マスター」 |
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光一
「清香君?」 |
|
清香
「三十路からでも更生はできますよ」 |
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光一
「違うー!!
なんで優しい目をしてるんだよ!?
と…………まず、『不安障害』が何かだね」 |
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鳴島
「不安て言っても、誰でも不安ってありますよねぇ?
私の場合、いつも月末にお財布が空になってしまうんで、
月末の生活費が不安なんですがぁ」 |
|
光一
「それはまた別の意味だから…………
基本的に『不安障害』は不安に端を発する精神疾患。
やはり治療が必要な病気か否かのラインとしては、
生活に支障をきたすかというとこだね」 |
|
清香
「前回の『強迫性障害』もそうでしたね」 |
|
光一
「実は、『強迫性障害』は『不安障害』の1類型なのだが……
今回、『不安障害』について触れるのは初めてなので、
詳細に立ち入るのは止めておこう。
不安障害に近い症状を見せる人は非常に多い。
問題は、治療必要段階まで至ってしまうか……
そこまでに至ってしまう人もいるわけだ」 |
|
鳴島
「誰でも不安って持ってますけどぉ、
それが病気になってしまうのは何ですかねぇ?」 |
|
光一
「まず、基本的には何かに対する『恐怖』を持ち、
それに対して対処できない事が前提。
そのため不安が非常に強くなり、
様々な行動に支障が出るわけだ」 |
|
清香
「具体的にどんな症状が出るんですか?」 |
|
光一
「これも様々で、症例によって沢山ある。
人前でその症状を表わさない、
あるいは表わさないよう本人が努める場合もあるね。
まあ、そうだね…………
強い不安を抱く。イライラが強まる。恐怖や緊張が高まる。
汗が止まらない、動悸がする、胸・頭・お腹が痛くなる。
そうした症状が往々にして表れる」 |
|
鳴島
「あー、分かる気がするんですけどぉ。
高校生だった時、文化祭の演芸で友達が直前に
お腹が痛いって何度もトイレに行ってましたぁ」 |
|
光一
「そうだね。そういう症状で表れる。
問題はそういう症状が頻繁に表れ、
かつ克服が出来ずに深刻化する場合なんだ」 |
|
清香
「誰でも緊張すれば汗をかいたり、色々ありますよね。
経験値を積むと大体克服できそうですが」 |
|
光一
「そう。経験値は大事だが……成功の経験値ならね。
あるいは失敗でも、周囲がフォローしてくれて、
『助かった、良かった♪』って思えた経験が多ければいいが……
こういう場合、失敗にまつわる経験値が多く、
『また失敗するんじゃ?』とかそういう不安・『恐怖』が強くなって、
ある行動に関して強い抑制がかかってしまうわけだ」 |
|
鳴島
「確かに失敗が続いたら……躊躇しますよねぇ」 |
|
光一
「失敗しても、「大したことないや」と思う事が出来たり、
先ほども言ったが周囲がサポートしてくれて、
「あ、大したことないんだ」「みんな、ありがとう♪」
って思える出来事が多ければ……良いんだけどね。
何度も言うが、精神疾患については周囲の環境が重要なんだ。
精神疾患はそこまでの環境と体験が、そうした症状を作り上げているんだ。
それに、よく言うだろう。『失敗は成功の母』だと。
1つの失敗は人生上で、往々にして大した事ではないんだ」 |
|
清香
「でも、成功しないといけないって思いこむ事の方が多いですよね。
失敗した時の周囲の反応とかも……うーん。自分に肯定的になってくれるかは」 |
|
光一
「今の世の中は、『勝ち組・負け組』って愚かしい体系化を進めていて、
しかも『競争社会』だろ? 将来も見通せない事が多い。
『大学入学』『一流企業入社』が
何だか知らないけど自己目的化されているよね?
それが何かを保証するわけでもないのにね。
こういう社会ではどうもサポートは互いに難しくなってるね」 |
|
清香
「確かに……主体的に何かを決めている人生か否か。
最近そうではなくなっているかもですね。
以前の自我を犠牲にする考え方みたいですね」 |
|
光一
「ちょっと話を逸らしてしまったが、
人間には様々な『恐怖症』が存在していてね、
大体そういう恐怖症を抱えている人というのは、
日常の中で自分の持つ特定の『恐怖』を避ける行動をしている。
その『恐怖』に遭遇した時に、吐き気・動悸等々を発症するんだ。
でも、これは深刻でなければ、各自の持つ『弱点』であって
尊重されるべき個性ともいうものだ。
何にも恐怖を抱かずにいられる人間など存在しないからね。
この世には完全無欠の人など存在しないから」 |
|
鳴島
「確かにぃ〜、私は高い所が苦手ですねぇ。
東京タワーなんて上った時は、足が震えて
まともに外を見られませんでしたよぉ」 |
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光一
「……………………」 |
|
清香
「……………………」 |
|
鳴島
「な、なんですかぁ?」 |
|
光一
「バカと煙はなんとやらと言うものだが……」 |
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清香
「これは辞書の改訂が必要ですね。
バカでも高い場所が苦手な人はいます」 |
|
鳴島
「なんなのよぉ!?」 |
|
光一
「まあそれはいわゆる『高所恐怖症』と分かりやすいものだ。
『不安障害』は意外と単純ではなく、
いくつもの『恐怖』が複合し、問題を起こす。
こうした『高所恐怖症』などのように、
『恐怖』対象が単一の場合は比較的解決が容易だね」 |
|
鳴島
「具体的にどうしますかぁ?」 |
|
光一
「さっきも言ったが、経験値だね。
2F、3F、4Fと、少しずつ高いところへ、
そして少しずつ窓際の方へ……高さに慣れてしまう事だ。
『暗所恐怖』などもそうだが、その場所に長い時間いる事。
これで『あ、全然平気だ!』となれば問題が解決できる」 |
|
清香
「『不安障害』の全体としてはどうなんですか?」 |
|
光一
「そうだね、『不安障害』には沢山種類があるが、
主に以下のものを列挙することができる。
【1】『恐怖症』の中に類型できる、
『広場恐怖』『社交不安障害』『対人恐怖』
【2】他に、【1】の中から表れたり、別の要因で表れる
『パニック障害』『過敏性腸症候群』『全般性不安障害』
【3】前回も話をした『強迫性障害』もあるし、
【4】非常に重度なストレスへの反応・環境適応から、
PTSDと言われる『心的外傷後ストレス障害』、
PTSDに少し類似するが『急性ストレス障害』、
日常生活・仕事などでのストレスが原因で、
一般的な社会生活を営めなくなってしまう
『適応障害』などを挙げる事が出来るね」 |
|
清香
「大きく分けて4タイプ?」 |
|
光一
「いや、これは全部ではないから…………
まあ、でも、多くはこの4タイプの各々の問題に属している事が多いね」 |
|
鳴島
「色々ありすぎて、
一度に覚えられそうになりですよぉ」 |
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光一
「……………………それは」 |
|
清香
「お姉ちゃんだから、仕方が無いね」 |
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鳴島
「どういう意味よぉ!!」 |
|
光一
「まあ、今後何回かに分けて話をしよう。
今回はあくまで『不安障害シリーズ1』だから」 |
|
清香
「そうですね」 |
|
鳴島
「あ、でも私でもPTSDとか位は聞いた事ありますよぉ」 |
|
清香
「何らかの残虐な事件無いし、
天災の後に報道される事も多いですしね」 |
|
光一
「まあ、今回は触れるつもりが無いがね。
一応それらも『不安障害』に分類される病気だよ。
それらも長い話になるので、またの機会にしよう。
今回はあくまで『不安障害』の入口の話だけという事で」 |
|
清香
「はい。じゃあ、どの辺りの話をしますか?」 |
|
光一
「まず、内容や範囲については既に述べたものだね。
内容は【1】〜【4】で分類だけ述べたし、
範囲のようなものも『恐怖』から不安が強まり……
というような話を導入として行ったね」 |
|
鳴島
「じゃあ、具体的にいくつか取り上げてみては?」 |
|
光一
「では、【1】恐怖症から具体的症例を……………
『広場恐怖』と聞いて、どういうものを思うかね?」 |
|
鳴島
「広場……広いところが怖いって事ですかぁ?」 |
|
清香
「広い空間が怖くて外に出られないとか?」 |
|
光一
「うーん、違うかな。この『広場恐怖』というのは、
元々の語源が古代ギリシアなんだ。
英語にすると『agoraphobia(アゴラフォビア)』となる。
『アゴラ』というのは、さて……現役女子高生の清香君。
何を意味するかね? 世界史でやってないかい?」 |
|
清香
「『アゴラ』は広場を指しますが、
古代ギリシアの広場とは『集会場』ですね。
市民で集まって物事を決める場所です」 |
|
光一
「そう。『広場恐怖』の『広場』というのは、
非プライベート空間を指すんだ。
つまりね…………
『他者が存在し、逃げる事の出来ない空間』
よって場所はどこでもあり得るんだ。
『職場』『会議室』『スーパー』『コンビニ』『電車』などなどね」 |
|
鳴島
「場所の広さ……ではないんですかぁ?」 |
|
光一
「そうだね。広さも人数も関係ない。
他者と接触せざるを得ない空間全体を指すんだ。
で、『広場恐怖』は症状としては、
『パニック障害』を併発する事がある」 |
|
清香
「『パニック障害』は、先ほど…………
不安障害【2】に含めてましたね」 |
|
鳴島
「具体的にどういうものですかぁ?」 |
|
光一
「『パニック障害』というのは、
突然生じる『パニック発作』で始まる」 |
|
鳴島
「『パニック発作』?」 |
|
光一
「『パニック発作』とは、緊張やストレスによって
動悸・ふるえ・息苦しい・発汗・胸部不快感などを生じることね。
これが、直前までなんともなかったのに、
突然生じる事を指すんだ。
酷い場合には、身動きすら出来なくなってしまう。
こうした『恐怖』から色々考えてしまう。
『自分は死ぬのでは?』とかそんな事までね」 |
|
鳴島
「うーん、大変ですねぇ。
でも、それが始まりなんですかぁ?」 |
|
光一
「ここに『予期不安』が1ヶ月以上続くと、
『パニック障害』と診断されるね」 |
|
清香
「『予期不安』ってなんですか?」 |
|
光一
「例えば電車に乗った時…………
先ほど言った『パニック発作』が起きたとしよう。
しかもその後、『パニック発作』が何度か繰り返されたとする。
そんな『恐怖』の経験を積んでしまうと、何でも無い時でも
『パニック発作が、また起きたら……どうしよう!』
と心配になってくるよね。
起きていない発作について、心配が常につきまとう。
これを『予期不安』という」 |
|
鳴島
「なるほど……発作が起きた事で、いつも不安一杯だと。
電車に乗った時、また発作が起きたら……
仕事に行った時、また発作になったら……
スーパーに行った時、また吐き気がしたら……
そういう『恐怖』が常につきまとうんですね」 |
|
光一
「そう。この『予期不安』が続いてしまうと、
当然ながら、その症状を回避したくなるよね?
ほら、さっき『不安障害』の話の導入で、私が言ったよね?」 |
|
清香
「『不安障害』を持つ人は、
日常の中で、自分の持つ特定の『恐怖』を避ける行動をしている……
って、言っていましたね」 |
|
光一
「そう。そういう場所というのはまさに『広場』なんだ。
つまり、『パニック発作』が起きないように回避する。
そのため、『もし人がいる場所で何か起きたら』という
外の空間……職場でも電車でもスーパーでもいい、
そういう『広場』に出られなくなる。
こうして『広場恐怖』という症状が表れるわけだ」 |
|
鳴島
「つまりこういう事ですかぁ?
『電車に乗れなくなる』『車を運転できなくなる』とか、
『学校に行けなくなる』『職場に行けなくなる』とかぁ、
『職場には行けるけど、会議室には行けなくなる』
そういう事ですよねぇ?」 |
|
光一
「うん。自分が『恐怖』を感じ、
『予期不安』のある場所に行けなくなる。
そうした行動が出来なくなるんだ」 |
|
清香
「それって酷いケースになると…………
『引きこもり』とかになってしまいません?
だって、『広場恐怖』って事は…………」 |
|
光一
「そうだよ。症状が重くなってしまうと、
外に出る事すら困難になってしまうからね」 |
|
鳴島
「うーん…………なんとも厄介ですねぇ…………」 |
|
光一
「今、『不安障害』の件で、
『パニック障害』『広場恐怖』を取り上げたけど、
まだまだ色々あるよね。
先ほどの【1】恐怖症に含まれる『社交不安障害』などもね」 |
|
鳴島
「それはどういうものですかぁ?」 |
|
光一
「『社交不安障害』とは…………
人と接する機会に、不安が強まるケースだね。
人から注目を集める場面……色々あるよね?
何かを発表しなくてはいけないなどなど……
多くの人を前にする時に極度のストレス・不安が生じる事を言う。
具体的に、汗が止まらない。息切れが激しい、嘔吐感があるなどね」 |
|
清香
「いわゆる『あがりやすい』人と違うんですか?」 |
|
光一
「ふむ……誰でも人前に出るのは緊張するものだ。
それが強い人は『あがり症』とか『シャイ』『恥ずかしがり屋』と呼ばれるね。
ただ問題は、それが原因で日常生活に支障をもたらすかだね。
『不安障害』に最初触れた時に言ったよね?
様々な不安・恐怖によって日常生活に問題が出るか否か、なんだ。
支障が出れば、これは病気であり、治療が必要なんだ」 |
|
鳴島
「うーん…………」 |
|
光一
「こうした『社交不安障害』についても、
症状が重くなってしまうと、
先ほどの『パニック障害』を併発したりする事もある。
また、人と接触する事自体が難しくなってしまう」 |
|
清香
「汗が止まらない。息切れが激しい、嘔吐感……いわゆる発作ですもんね」 |
|
鳴島
「スピーチでまた発作になったらとか…………
会議室でのプレゼンで発作になったら…………
って考える内に『予期不安』になって、『パニック障害』になる……
で、それらの行為が出来なくなるってわけですねぇ」 |
|
光一
「そう。そしてそれらが進行してしまうと、
『うつ病』をさらに併発する事もあるんだ。
『不安障害』というと一般の人は
『単なる緊張だ』とか『誰でも不安な事ぐらいあるだろ?』
って思うかもしれないが……深刻化するとこういう問題になるんだ」 |
|
清香
「どうしたら良いんですかね?」 |
|
光一
「基本的に治療法としてはやはり…………
先ほどまでも出ている経験値は重要だ。
『あ、大丈夫じゃないか』と思える成功の経験値。
あるいは失敗した場合でも『大丈夫』って思える経験値。
こうした場合には、周囲の支えも大事だね。
『失敗しても大丈夫、みんなで支えるよ』という雰囲気などね。
『絶対成功しろ』って雰囲気ほど、危険で残酷なものはないね。
と言う意味で……認知行動療法は重要性を持つ」 |
|
清香
「『社交不安障害』についてだったら、
家族・友人の前で予行演習をするとか、
そういう練習を重ねて自信をつけるのもありですかね」 |
|
光一
「そうだね。自分が大丈夫だと思える……
そういう経験値が沢山あることが大事だね。
また、『パニック障害』についてもそうだが、
結局のところ、そういう『予期不安』になってしまうもの、
それについて『慣れていく』事が大事になる。
そのために、軽めのシチュエーションからアプローチする。
あるいは、電車についても満員の時間ではなく、
空いているような時間を利用してみる。
車の運転もいきなり100キロも走ったりしないで、
2〜3分で行けるコンビニに車を動かす事から始める……
とにかく、軽いレベルのものから慣れて、
経験値を積んでいくことが大事になるね」 |
|
鳴島
「なるほどぉ」 |
|
光一
「また薬物療法も重要だね。
脳内伝達物質の在り方に問題が生じて、
行動が阻害されているケースがあるからだ。
自律神経にも問題が生じている場合が多いしね。
前回の『強迫性障害』で話をしたけど、
『選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)』もある。
というか、『強迫性障害』も『不安障害』に分類されるからね」 |
|
清香
「ですよねぇ。
やっぱり人間、行動を制御しているのは脳ですもんね」 |
|
光一
「薬で症状を軽くしたり、行動の補助にするわけだ。
そうして先ほどの行動で、少しずつ解決していく事だね」 |
|
鳴島
「患者側として、
薬物療法と認知行動療法が必要なのは分かりましたけどぉ、
他にどういう考えを持った方が良いですかね?」 |
|
光一
「まあ、『不安障害』を持つ人に往々にしてある事は、
もちろん私を含めてだがね…………
『瞑想』をもっぱらにしてしまう事だね」 |
|
清香
「『瞑想』?」 |
|
光一
「そう。つまりね……………………
内面的な事ばかりに重きを置いてしまうんだ。
とにかくこういう症状の人は
好む好まないを別にして『悩む事が好き』なんだよ」 |
|
鳴島
「『悩む事が好き』?」 |
|
光一
「うん。悩みすぎる事で、内面・外面のバランスを崩しているね。
つまりは、『瞑想』なんだよ。
自分一人の中で、しかも外には出さないで、
心の中でひたすらに向き合って悩み続けているんだ」 |
|
清香
「ああ、それで『瞑想』って言う事ですか」 |
|
光一
「そういう事。
実際には内面的な事で不安を感じているのだから、
その意識を他に向ければ不安は無くなるはずなんだ」 |
|
鳴島
「つまり、前に言われた認知行動療法……ですか?」 |
|
光一
「そういう結論に至る訳だね」 |
|
清香
「うーん…………」 |
|
光一
「後、こういう人達は……まあ、私もなんだが……
『悩みスポット』を持っているんだね」 |
|
鳴島
「なんです、それ?」 |
|
光一
「例えば『布団の中』『机の前』『部屋の隅』などなど、
そこにいれば何時間でも、同じ事を悩み続けられる場所。
そこから動くと、悩みがあっという間に吹っ切れるんだが、
どうしても悩み続けて行動出来なくなる場所」 |
|
清香
「あ、なるほど。
悩んでそこから動けなくなるんですね」 |
|
光一
「一度、『不安障害』その他の精神疾患を持っている人は、
自分の部屋の中などに、
いつもよく使っている『悩みスポット』があるかを探してみるといい。
で、その場所に気がつけたら…………
自分が『瞑想』に入った時…………悩み状態に入ったら、
そこからとにかく『移動する』事が大事」 |
|
鳴島
「『悩みスポット』から移動する?」 |
|
光一
「そう。目の前の風景が変わっただけで、
人間の意識は変わるもので、
意外と行動が出来るようになるものだ。
何時間でも悩み続けられる布団の中から、
隣の部屋のテレビの前に移動する……これだけで違う」 |
|
清香
「そういうものなんですか?」 |
|
光一
「そう。それと『悩む人』というのは基本的には
『自分で決められない人』という事も多いね。
よって、『自分で決める事を練習する』のが重要になる」 |
|
鳴島
「自分で決められない?」 |
|
光一
「以前に「Yes、But思考」について話をしたね?
これは『依存症』の人が…………
『依存症は止めるべき、でも無理』という思考構造。
それに限らず、うつ病の人にも多いと言ったね?
『周囲の評価が第一』『周囲の人の意見を行動原理にする』と」 |
|
鳴島
「自分の意見をいつも押し殺しているって人ですよねぇ?」 |
|
清香
「そうして周囲の価値観を基準や行動原理にする内に、
自分の意見や考え方が無くなってしまう……でしたね?
学校で勉強が出来る優等生タイプ……な人でしたっけ?
生真面目な人などに多いと言っていましたよね」 |
|
光一
「そう。健全な人間は基本的な思考構造が『Yes思考』なんだ。
つまり……『自分はこう思う』という原理で行動できるんだ。
そしてそれによって『良かった、悪かった』を評価できる」 |
|
鳴島
「私はいつも、自分の思った事で行動してますよぉ♪」 |
|
清香
「じゃないと、お店の食べ物…………
つまみ食いして平気でなんていられないよね?」 |
|
光一
「それは社会的ルールに反しているんだけどね……」 |
|
鳴島
「あれ!? 責められてる!?」 |
|
光一
「ともあれ、『Yes、But思考』の持ち主だとね、
周囲の価値観・考え方を第一に持ってきてしまうので、
自分の考え方を根本的には持っていない事になる。
つまりは自我が無い事で、
『自分自身に自信が持てない』訳だ。
だって『〜だ、けど〜』……と常に否定的に物事をとらえるし、
『〜さんは、私を評価してくれるかな?』と周囲ばかり気になる。
自分の考えで『行動』し『評価』する事が出来ないんだ」 |
|
清香
「なるほど……というか、『Yes、But思考』の転換は、
ずっと言われていますね」 |
|
光一
「うん。だってそこに気がつく事が治療の始まりだから。
『自分の考え方・価値基準を持ってないのでは?』
『自分に対して正直か?』
『自分らしく生きているか?』
この事を自覚しないとダメなんだ。
そうでないと…………
『自分は生きている価値が無いのでは?』
となってしまうからだね」 |
|
清香
「自分を肯定できる価値観が無いと、
生きていくのが辛くて、悩んでしまう……と?」 |
|
光一
「そういう事だね。
だから治療には薬物治療も必要だし、
同時に考え方を変えていく、
認知行動療法がどうしても必要になる訳だ」 |
|
鳴島
「なるほど…………」 |
|
光一
「自分の思考構造が『Yes思考』であれば、
『〜さんにはこう言われた。でも、自分はこう思ったから良い』
と、物事に対する不安を感じる事が少なくなる。
やはり不安が深刻化するのは、
周囲の人達が自分をどう判断してくれるか?
そこに依存してしまっているからなんだね」 |
|
清香
「なるほど」 |
|
鳴島
「と言う事でぇ、
今回は女子トイレを撮影して不安になっていたマスターが、
その不安から記事を書き起こしていましたぁ♪」 |
|
光一
「だから、話をそこに戻すな!!
『不安障害』についての話をしていたのに、
私が一転して犯罪者になる話で帰結しちゃうだろ!?」 |
|
鳴島
「マスター…………」 |
|
清香
「警察になら一緒に行ってあげますから」 |
|
光一
「おい、君たち!!
どういう話の終わらせ方をするつもりだよ!?」 |