|
鳴島
「まあ、マスターはアレですよねぇ?」 |
|
光一
「何だね、アレって?」 |
|
鳴島
「女性の後ろを歩くだけで、
『相手に変質者と思われてるんじゃ』
とか思ったりするのもアレですけど、
『アナタの後ろにいるだけで、ゾクゾクします!』
なんて、普通相手に言う必要あるんですかぁ?」 |
|
光一
「しょうがないだろ!!
言わないと不安で仕方なかったんだよ」 |
|
清香
「何が何で、そんな不安になるんですか?」 |
|
光一
「なんというか、女性の後ろを付いていくと……
女性側が私に対して
『この人、私を……襲うつもりじゃないの?』
とかの疑念を抱きそうじゃないか。
だから、私が心で思った事を、
相手に言うことで、相手を安心させるというか、
自分自身を安心させようというか…………」 |
|
鳴島
「それは…………」 |
|
清香
「自意識過剰と言うか、
単に思い込みが激しいだけかと思います」 |
|
光一
「自意識過剰!?」 |
|
鳴島
「まあ、夜道で男性に後ろから近付かれるのは
どことなく怖いのも事実ですけどねぇ」 |
|
清香
「それこそ一種の『不安障害』じゃないですか?」 |
|
光一
「むぅ……まあ確かにね、
『不安障害』などの精神疾患について、
以前話をしたけどね、
『他者と自分の境界が無くなる』って……
『解離』の話だけどね。
自分が思っている事、恥ずかしいと思ったことが、
相手に伝わっているんじゃってやつね」 |
|
清香
「互いの心の中なんて分からないのに、
『不安障害』などが進行すると、
自分の思っている事が他人に伝わっているとか、
そういう風に思い込んでしまうんでしたっけ?」 |
|
光一
「そう。例えば…………
『あの娘さんの胸、大きいな』って思った時、
その娘さんにその心の声が聞こえたと思い込んで、
ものすごい罪悪感に囚われるんだ。
『なんて恥ずかしい事を自分は思ったんだ』とか、
『きっと相手にも、この心の声が聞こえている、恥ずかしい』
なんて、そんな妄想まで至ってしまうんだね。
絶対に相手に伝わる訳は無いんだけどね」 |
|
鳴島
「ちょっ!!
なんで私の胸をじーっと見てるんですかぁ!」 |
|
光一
「こんな風に、伝わってしまうんだ。
そう、思ってしまうわけだね。
ちなみに、私はさっき、
『綾香君、超巨乳だなあ』って思ってた」 |
|
鳴島
「マスターの心の中で思ってた事は、
言われるまでは、全然分かりませんでしたよぉ!!
そんな凝視するから言っただけですぅ」 |
|
清香
「まあ、心の中で思ってる事なんて、
相手に伝わる訳ないですよね、普通」 |
|
鳴島
「と、そういうわけで今回の話は何ですかぁ?」 |
|
光一
「今回は『不安障害』2回目の話をしよう。
1回目については、前の記事を参照して欲しいが、
前に話をした時には、大きく【4分類】したよね。
また、『悩む事が好きな人達』とも話したと思う」 |
|
清香
「そうですね。
で、今回はどういう切り口で話をするんですか?」 |
|
光一
「『不安障害』の分類と、
その内容については以前書いたつもりなので、
今回はその対処法、治療について書こうと思う」 |
|
鳴島
「なるほど」 |
|
光一
「『不安障害』は『パニック障害』などに代表されるけど、
『広場恐怖』……他者と接触せざるを得ない空間。
言い直すと、他者から逃げられない空間で、
強烈なストレスを感じてしまう」 |
|
清香
「それが発作なり、逃げたい衝動なりを生む。
そういう症状が積み重なってしまうと、
仕事が出来なくなる。出社出来なくなる。
家の外に出られなくなる……
等々の深刻な問題を生み出してしまう。
そういうのが『不安障害』の代表的なもの、
というような話をしていましたね」 |
|
鳴島
「それは前回の話の大まかな症状についてですよね」 |
|
光一
「そう。で、前回……治療法についても、
述べたと言えば、述べてはいたんだ」 |
|
清香
「『認知行動療法』と『薬物療法』ですね」 |
|
光一
「で、前回の話をある程度否定するようだけど……
不安の治療に関して最大のものは……
結局、薬物ではないんだよね」 |
|
鳴島
「あれ!?」 |
|
光一
「今日の話としては、以下の点を述べていこう。
1.『認知行動療法』による、経験の獲得。
2.ストレスゼロの社会で生きる事は出来るか」 |
|
鳴島
「ストレスゼロ……ストレスの無い社会って事ですよね?
そういう社会の方が良いんじゃないですか?」 |
|
清香
「そういう社会になれば、
『不安障害』などの精神疾患にもならないし、
そういう患者さんも減っていくんじゃないですか?
良い事のように聞こえますけど…………」 |
|
光一
「そうではないと考えられるね。
と、君たちが食いついた部分は、
今日の論点の2本目なので、
まずは1本目から話をしていく事にしよう」 |
|
鳴島
「はい」 |
|
光一
「まず、最初の…………
1.『認知行動療法』による、経験の獲得。
前回までの『栄養療法』の中で、
うつ病の基本的な治療は『投薬治療』だ……
と、書いたわけだよね。
まあ、それだけではダメなので、
『栄養療法』の重要性を説いたんだけどね」 |
|
清香
「『セロトニン』の話を何度もされていましたよね。
脳内神経伝達物質『セロトニン』の減少が、
うつ病の一要因で、その現象を抑制する、
『SSRI』の服用が治療の一つだと」 |
|
光一
「で、『SSRI』と『セロトニン』の話を書いたけど、
『セロトニン』がうつ病の一要因である…………
というのは、病因としてはブラックボックスなんだ」 |
|
鳴島
「ブラックボックスって何ですかぁ?」 |
|
清香
「内部構造について、
よく分かっていないものの事だよ」 |
|
光一
「そういう事だね。
実は、科学的だと言いながら、
『セロトニン』がどうの……というのは、
完全にそれが要因か…………
とは判明しきっていないわけだ。
つまり、精神疾患の原因について、
科学的に100%分かっているわけではない」 |
|
鳴島
「以前の話を、半ば否定している気がぁ……」 |
|
光一
「まあ、風邪だってなんだって、
病気の全てが解明されているわけじゃない。
今後判明するかもしれないけどね」 |
|
清香
「まあ、それはそうですよね」 |
|
光一
「よって、こういう言い方が出来なくもない訳だ。
うつ病の原因は『セロトニンの減少である』
とは、科学の名を借りた、非科学的発想だと」 |
|
鳴島
「それだと、今までの精神疾患シリーズ……
その多くを否定する事になりませんかぁ?」 |
|
清香
「ちなみに今まで話されてきた、シリーズは
うつ病:『(その1、その2、その3)』
依存症:『(その1)』、
強迫性障害:『(その1)』、
不安障害:『(その1)』、
栄養療法:『(その1)(その2)』でした」 |
|
光一
「否定してはいないよ。
つまり、精神疾患は基本的には、
社会的要因・外的要因・内的要因・生育環境
職場・学校環境などなど…………
人と人との関係性や、そこでの考え方の構築、
ストレス過重などによって、引き起こされる」 |
|
清香
「競争社会化で将来が見えない今では、
失敗する事の恐怖・不安は増してますしね。
何につけ成功しろだの…………
良い成績を取れだと言われますしね」 |
|
鳴島
「まあ、そうですよねぇ。
その人がどう育ってきたのか、
社会的にどういうストレスにさらされたのか、
それが精神疾患の要因ですよねぇ」 |
|
光一
「うん。環境は内的外的問わず、重要なんだ。
で、脳内神経伝達物質については、
確かに要因の説明にはなるけれども、
それを制御する薬の開発・服用によってだけ、
病気が治る訳ではないという事さ」 |
|
鳴島
「では、どうしろと?」 |
|
光一
「前にも『認知行動療法』について述べたけど、
これが重要性を持っている」 |
|
清香
「思考の在り方と、行動様式を変えて、
不安に感じる対象を、経験で克服する事ですよね」 |
|
光一
「うん。
生き方全体を変える発想が無いと、
なかなか治療には結びつかないんだ。
例えば不安を感じる事…………
子供の時に、真っ暗な夜中だ。
トイレに行くのが怖かった…………
という人は少なからずいるだろ?」 |
|
鳴島
「そうですねぇ、私はそうでしたぁ」 |
|
光一
「今は?」 |
|
鳴島
「別に何とも思いませんがぁ」 |
|
光一
「つまりこれは、
夜中トイレに行っても怖くは無い。
……という経験を積み重ねた結果なんだ。
つまり、認知による経験を積むと、
恐怖・不安は無くなる訳だよ」 |
|
清香
「逆に、そこで怖い思いをすると別の話ですよね?」 |
|
光一
「その通り。今の例で言えば、
夜中にトイレへ行く際に、
毎回毎回怖い思いをさせられた、
例えば…………
『夜中にお前がトイレなんか行くせいで、
私達が何度も起こされるじゃない!』
と、親に理不尽にも怒られ続けた場合、
これがトラウマとして残る事になる」 |
|
鳴島
「そうすると……どうなりますかぁ?」 |
|
光一
「一種の『不安障害』として、刷り込まれる。
つまり、以下の経過をたどる可能性がある。
『夜中にトイレに行くと、激しく怒られる』
『夜中トイレに行く事は悪い事』
『夜中トイレに行くのが怖い』
『水を飲むと、トイレに行きたくなる』
『水を飲むことが怖い。水は怖いものだ』」 |
|
清香
「つまり、日常生活に欠かせない飲料が、
うまく摂取できなくなると」 |
|
光一
「これも『不安障害』の一種だよね。
でも、普通そういう過程さえ無ければ、
夜中にトイレへ行く事は怖くなくなるわけだ」 |
|
鳴島
「まぁ、そうですよねぇ」 |
|
光一
「つまりね、
経験というインプット(入力)を重ねる。
そのアウトプット(出力)で不安が減少する。
この方が、100%の解明が出来ていない
『セロトニン』うんぬんなどの『投薬治療』よりも、
むしろ科学的なんだよ」 |
|
清香
「でも、薬を飲む事も大事ですよね?
病気には違いないわけですから。
そう、前に言われていますよねぇ?」 |
|
光一
「しかしだね、薬を服用しました。
後は布団の中でずっと寝ています。
これで果たして精神疾患は治るかね?
『不安障害』は治るものかね?」 |
|
鳴島
「う……確かに言われてみれば……」 |
|
光一
「つまり、『不安障害』は結局のところ、
自分が不安に思っている対象を、
経験によって克服する以外には、
最終的な完治は目指せない訳だよ。
薬は減薬し、いずれ無くさなくてはいけない。
そうでないと、何度でも再発してしまう」 |
|
清香
「うーん…………」 |
|
光一
「例えば、前にも『不安障害その1』の分類で言ったように、
『パニック障害』は『広場恐怖』が起因している」 |
|
清香
「電車に乗る時、パニック発作が起きたらどうしよう。
会議中に発作が起きたら、買い物中に起きたら……
というものでしたよね?」 |
|
光一
「そう。 これは薬だけでは治せないよ。
つまり…………
『電車に乗れた』『会議に参加できた』『買い物出来た』
こういう成功の経験を重ねて行くしかないんだ」 |
|
鳴島
「でも、そういう不安を強く抱えている人に、
『じゃあ、電車乗りなさい』って言っても
そんな事は出来ない…………
って言ってきたのはマスター本人ですよぉ」 |
|
光一
「その通りだよ」 |
|
鳴島
「んぅ??」 |
|
光一
「自分ではどうにもならない事を、
経験しようとしても無理な話だよ」 |
|
清香
「それだと、『パニック障害』などで、
例えば、電車に乗れない人は…………
電車に乗れないんですから、経験しようにも、
不安の克服経験が出来なくないですか?」 |
|
光一
「清香君って、自転車……最初から乗れた?」 |
|
清香
「いえ…………乗れませんでした。
最初は補助輪付きでしたね」 |
|
光一
「どうやって普通に乗れるようになったの?」 |
|
清香
「補助輪を外した時は…………
親に自転車の後ろを支えてもらって。少しずつ……
あ、乗れる……って、いつの間にか」 |
|
光一
「そういうものだよね?
初めてする事には誰しも不安がある。
それを克服するのには、
やはり誰かの補助・支援があるわけだ」 |
|
鳴島
「ですよねぇ。
最初から出来ないものを、
独りでやれ……っていうのも無理ですよねぇ」 |
|
光一
「『不安障害』の治療について、
1.『認知行動療法』による、経験の獲得。
……とはそういう事さ」 |
|
清香
「周囲の助けを借りる……と?」 |
|
光一
「不安のハードルを下げてもらうのさ。
自分が飛べるハードルにまで下げてもらう。
そうして飛ぶことで成功の経験をするのさ。
それが『不安障害』の治療の根幹さ」 |
|
鳴島
「具体的にどうしますかぁ?」 |
|
光一
「それこそ、『投薬治療』も重要になる」 |
|
清香
「『投薬治療』を今まで肯定してきて、今回で否定して、
また肯定しましたよね?」 |
|
光一
「『投薬治療』だけでは治らないと言っただけだ。
薬によって状態を改善して、
外にすら出られなかった自分を、
玄関の外に出られる位にサポートしてもらう。
そうして少しずつ『広場』に出て行くようにするのさ。
薬というのは完治させるためのものではなく、
完治に向かうための補助輪なんだよ。
補助輪はいずれ、外すものさ」 |
|
鳴島
「あ、なるほどぉ」 |
|
光一
「同時に、周囲の人々のサポートが重要。
回りのサポートで、ハードルを下げてもらう。
仕事なら難易度の低いものからやってもらうとか、量を減らす。
買い物に一緒に付き添ってあげるとか、
そうした小さな事からで良いわけだ」 |
|
清香
「つまり、自転車の補助輪のように
薬・周囲のサポートを受けるべき……と」 |
|
光一
「そう。そうして不安を克服できた経験を積む。
少しずつハードルを上げて行く。
10センチだった高さを、10.1センチに。
1ヶ月後には10.8センチにと…………
それを繰り返す内に、
普通の人と同じ事が出来るようになる」 |
|
鳴島
「なるほど」 |
|
光一
「『飛び箱』を例にするならば、
みんなが8段目を飛んでいる時に、
自分は1段目しか飛べないとしよう。
だから1段に下げてもらう。
でも、ずっとそれでは8段目まで進めない。
だから、先生や友達に背中を支えてもらう。
それで支援ありで、ようやく2段目が飛べたとする。
繰り返すと自信がついて、不安が消えて来る。
その内、補助なしで2段目が飛べるようになる。
そうしたら3段目でまた、補助をもらう…………
こうして少しずつ克服するのだね」 |
|
鳴島
「なるほど、それは分かる気がします」 |
|
光一
「ただし、一気にハードルを上げない事。
患者自身が焦ってハードルを上げたり、
周囲の人が、問題なさそうだと思って、
いきなり通常の業務に戻すと…………
大体はそこまで出来るよう回復してないからね。
そこで失敗の経験を積んだ時に、
また不安が強まってしまい…………
以前より『不安障害』の度合いが強まってしまう」 |
|
清香
「そうですよね。
不安対象を克服出来なかった時は、
そのショックは大きいですもんね」 |
|
光一
「人間は成功体験による喜びと、
失敗体験による不安・恐怖…………
これを天秤にかけてしまうと、
後者の不安・恐怖が勝ってしまうんだ。
『不安障害』の克服過程なら、なおさら。
その点には注意しなくてはいけない」 |
|
鳴島
「治そうと気ばかり焦ってもダメって事ですね。
以前も言ってましたよねぇ?
『〜しなくてはいけない』ではなくてぇ、
『〜したい』で行動する事。ハードルを上げすぎない事」 |
|
光一
「そう言うことだね。
というわけで、『不安障害』の治療には、
【『認知行動療法』による、経験の獲得】
これが重要だという結論に至る訳だ」 |
|
清香
「では、次の観点ですね」 |
|
光一
「2.ストレスゼロの社会で生きる事は出来るか?
という観点の話だね」 |
|
鳴島
「先ほども疑問を感じましたけどぉ……
ストレスの無い社会の方が良いに決まってますよね?」 |
|
清香
「社会からストレスが無くなれば、
精神疾患で苦しむ人だっていなくなるのでは?」 |
|
光一
「まず、そもそも論になってしまうが……
『ストレスゼロの環境は作れるのか?』」 |
|
鳴島
「う…………それはぁ……」 |
|
清香
「無理ですねぇ」 |
|
光一
「確かに現代社会は……特に日本は、
信じられない位のストレス社会だ。
自由競争を政治家・企業家が礼賛し、
常に成功する事が大事だと喧伝されている」 |
|
鳴島
「そうですよねぇ…………
大学生なんて就職だけでも大変ですしぃ」 |
|
清香
「就職できないだけで、
人生もう終わり……みたいな風潮ですよね。
何のために就職するのかが抜けていますよね」 |
|
鳴島
「企業だって、若者を育てるというよりも、
最初から使える即戦力を求めていて、
人を大事にするって観点が無いですよね、もう」 |
|
光一
「そんな環境で育った子供たちが、
健全に育ってくるはずがない。
互いに助け合うのではなく、
競争を……と植え込まれているから。
また、大人たちも健全な心と考えを
到底持てる社会であるとは思えない」 |
|
鳴島
「そうですよねぇ…………
だからこそ、うつ病とかの疾患が毎年増えて」 |
|
光一
「小泉政権以降、『自己責任論』が急速に強まった。
これは自由主義・競争社会・グローバル化
それを強力に進める中で、強弁されるようになった」 |
|
清香
「当然ながら競争社会だと、
人間関係もギスギスしますし、
勝ち組負け組なんて言われ方も出ますよね」 |
|
光一
「だからこそ政治家・企業家はこぞって、
『アナタの失敗は、アナタのせいだ』
『就職できないのも、低収入も、アナタのせい』
と、強調して、それが正しいように主張したのだね。
そうでなければ、自由主義・競争社会に移行した後、
競争の中で振り落とされる人達からの
当然沸き起こるだろう批判をかわせないから」 |
|
鳴島
「うーん…………つまり、批判対象の原因から目をそむけさせ、
責任を別の所へ転換させたかったと。
批判の矛先をかわすために」 |
|
光一
「先の見えなくなった将来に絶望する人々に、
『社会全体で互いを支え合おう』ではなく、
『落ちこぼれが出たら、そいつの責任だ』
……というのを押しつけるためには、
『自己責任論』というのを
どうしても刷り込みたかったんだろうね。
『自己責任論』と言うのは、悪辣な無責任論なんだ」 |
|
鳴島
「となると……社会環境は悪化するばかりで、
ストレスの強くなる社会になる一方な気が」 |
|
光一
「事実、そう進んでいる。
労働者を守る法律はほとんど適用されないし、
労働者が権利を訴えると、
何故か同じ労働者が非難に回るという……
おぞましい社会になっているからね。
『自己責任論』という価値観が、
競争社会にミックスした結果だろうね」 |
|
清香
「なんとも夢の無い社会ですよね」 |
|
鳴島
「夢の無くなった社会だから、
『自己責任論』を唱えることで、政治家・企業家が
知らんぷりを決め込んだとも言えるかも」 |
|
光一
「まあ、そういう事だ。
と、話を戻すと……ストレスゼロでやっていけるか?
答えは『否』と言うことだ。
と、日本社会のように過重なストレスは問題だが、
しかし、『ストレスの無い社会が良い社会か?』
という問題もあるよね?」 |
|
鳴島
「無い方が良いんじゃないですかぁ?
さっきも言いましたけどぉ」 |
|
光一
「いや、ストレスを全て解放する事が良いとは言えない。
というより、どのような環境でもストレスがある。
『不安障害』イコール『ストレス病』などと言われるが、
例えば、ストレスにはどのようなものがあるか?」 |
|
清香
「やっぱり、仕事とか学校とかですかね?」 |
|
鳴島
「対人関係とか?」 |
|
光一
「君たちの言うのは、精神的ストレスだね」 |
|
鳴島
「他にあるんですかぁ?」 |
|
光一
「ストレスは大きく分けて2タイプある。
『身体的ストレス』と『精神的ストレス』だ」 |
|
鳴島
「精神的……は分かるとして、
身体的ストレス?」 |
|
光一
「『身体的ストレス』とは、
不眠・風邪などの病気・疲労・生理的なものだね。
特に女性は生理のストレスが強い人もいるはずだ。
『生理休暇』というのも、形式上とは言え、ある位だ。
……ともあれ、いずれもストレスを感じるものだよね?」 |
|
清香
「言われれば、そうですね」 |
|
光一
「『精神的ストレス』とは、
対人関係しかり、他にも『原不安』がある」 |
|
鳴島
「何ですかぁ?
『原不安』って?」 |
|
光一
「20世紀初頭の心理学者、フロイトが1926年に書いた、
『制止・症状・不安』という論文に出ている
『Urangst』を『原不安』と言うのさ。
要するに、人間は生まれた瞬間から不安を抱えている。
これを『原不安』と言うのさ」 |
|
清香
「生まれた瞬間からストレスを感じている?」 |
|
光一
「難しい言い方になるので、深入りしないけど、
母体から離された瞬間(出産)から、
人間は母体よりの離別と言う危険、
……絶滅不安を抱えているという事」 |
|
鳴島
「うーん……っとぉ…………」 |
|
光一
「母親の母体にいる時、人間は不安を感じない。
ところが、この世に産声を上げた瞬間から、
まさに産声という方法によって、
この世の環境に対する不安を訴えている。
精神的には生まれた瞬間から
人間はストレスを抱えているという事さ」 |
|
鳴島
「なるほど……安全な空間からそうでない場所へ、
そうして最初のストレスが生まれると…………」 |
|
光一
「『不安障害』というのは、
根源としての『死の恐怖』という、避けられない事。
それが過重なストレス反応となっているわけだ。
『パニック障害』の『予期不安』はまさにそれだ。
もし、電車内で発作を起こして死んだら……ってね。
しかし、軽重あれ、
やがて訪れる死は、誰でも抱える問題だ」 |
|
鳴島
「そうですね……確かに死ぬ事を考えると、
怖いものはありますよねぇ」 |
|
光一
「人間は自分の心の平静を保ちたいが、
どうしても人との関係性で闘争状態が生じるわけだ」 |
|
鳴島
「うーんっと、それは…………
人となんらかの関係を持てば、
その人と緊張関係にあるという事ですかぁ?」 |
|
光一
「その通り。それには軽重あるけどね。
しかし、人間はストレスを感じるからといって、
目の前の相手を殴る訳にもいかない。
仕事・学校・家族関係・人づきあい……
いずれもそうだよね?」 |
|
清香
「それはそうです」 |
|
光一
「そうしたストレスが重なってしまうと、
自律神経が乱れる。
そうすると、睡眠不足や過労という形で、
身体の変調が出始めるわけだ」 |
|
鳴島
「それは理解できます」 |
|
光一
「そうすると、
それは危機的な状況だと……身体は認識する。
すなわち、人間が根源的に抱える恐怖『死』、
これが自分に起きるのではないかと?
そして『自分は死ぬのでは?』という『予期不安』が高まる。
パニック発作などの要因となり、
まさに『不安障害』そのものになるわけだ」 |
|
鳴島
「ストレスをどう対処するかが問題ですよね」 |
|
光一
「そう。さっき言った『原不安』から考えると、
人間は安全な空間から放り出されているわけ。
よって、常に恐怖・不安と闘わなくてはいけないのだけど、
過重な負担を加えられると、
身体の防衛本能から、『不安障害』になるのでね」 |
|
清香
「ところで、先ほどの私達の疑問だった
『ストレスゼロの社会の方が良いのでは?』
という疑問に、ちゃんと応えられていませんよね?」 |
|
光一
「その通りだね。では、応える事にしよう。
先ほどからストレスの多くについて、
『対人関係』を中心として、
仕事・学校・人づきあいなど挙げてきたのだが、
そういうのが無い空間を想定すると……どう?」 |
|
鳴島
「うーん……誰とも付き合わなくて済む場所……」 |
|
清香
「宇宙とか行ったらどうですかね?
誰とも付き合わなくて済みます。
もちろん、仮定の話ですけどね」 |
|
光一
「清香君が面白い事例を挙げてくれたので、
じゃあ、宇宙飛行士はストレスを抱えないのか?」 |
|
鳴島
「いや、抱えていますよね?
地球へ無事に帰れるのか……とか」 |
|
清香
「あ、人とはあまり会わなくても、
死と隣り合わせの恐怖は無くなりませんね」 |
|
光一
「宇宙飛行士ってかつてはさ、
空軍のエリートだったりしたんだ。
今でも身体的に頑強・精神的に強靭。
そういう人が選抜されてきているよね?」 |
|
鳴島
「そうですね。人並み外れた方ばかりですね」 |
|
光一
「人間が宇宙に飛び立った時、
帰って来た宇宙飛行士を見て、
人々は初めて発見した事があるんだ」 |
|
鳴島
「何をですかぁ?」 |
|
光一
「『人間は重力というストレスを受けている』
と言う事にさ」 |
|
鳴島
「えっ?」 |
|
光一
「頑強なはずの彼らの肉体が、
まるで老人かのように…………
まともに歩く事もかなわなくなっていたんだ」 |
|
清香
「そう言えば、宇宙ステーションから戻った人達、
みんなしばらくはリハビリを受けていますよね」 |
|
光一
「そう。人間の骨は重力に逆らうために、
常に鍛え続けられていたのだね。
その『重力というストレス』から解放された時、
人間はもろく・弱い存在になっていたんだ」 |
|
鳴島
「つまり、マスターは…………
ストレスはやはりあった方が良いと?」 |
|
光一
「地球にいる以上、必ずストレスは受けるもので、
それを全て解放するのが良いわけではないのさ」 |
|
清香
「でも、『不安障害』もそうですけど、
人間の最大のストレスって
対人関係じゃないですか?」 |
|
光一
「じゃあ、『不安障害』などを抱える人が、
無人島に行ったらどうなるのだろう?
確かに誰とも会わなくて済むよね?」 |
|
鳴島
「あー……私だったら耐えられません」 |
|
光一
「なんで?」 |
|
鳴島
「だって……誰も人がいないんですよ?」 |
|
光一
「と、君の言うようにだ…………
ストレスゼロの空間を求めて、
人間がいない場所にいったとしても、
『不安障害』を持つ人が、
その空間に耐えられるはずが無い。
人は孤独には耐えられない」 |
|
鳴島
「前に、『ストローク』について触れた時に言ってましたね。
人はプラスでもマイナス感情でも、
相手との相互作用を欲しがる。
孤独が最もツライことだって」 |
|
清香
「ではやはり…………
『不安障害』など精神疾患を持っているとしても、
あるいはまだ持っていない人達でも、
ストレスのある社会の方が良いと」 |
|
光一
「誤解を招かない範囲なら、その通り。
過重なストレス社会は改善されるべき。
ただし、適度なストレスはあるべきなんだ」 |
|
鳴島
「何でですかぁ?」 |
|
光一
「人間の活力を失わせるからだよ。
例えば、子育てのストレスから解放された親。
仕事のストレスから解放された退職者。
長期療養で病院のベッドに寝た切りの人。
いずれも何らかのストレスから解放されたが、
逆にその事で、燃え尽きたり…………
様々な形で活力を失ってしまう」 |
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清香
「確かにそれは言われれば」 |
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光一
「もっと言い方を適切に変えるならば、
『対人恐怖』などを抱えている人が、
全く人のいない空間に行ったらどうなるか?
人間として生きる活力を失ってしまうよ」 |
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鳴島
「じゃあ、『不安障害』の治療ということで……
2.ストレスゼロの社会で生きる事は出来るか
……の観点では、どう結論づけますかぁ?」 |
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光一
「大事なのは『コーピング』だね」 |
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清香
「なんですか?
『コーピング』って?」 |
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光一
「『ストレスコーピング』とも言うのだけど、
ストレスに対して適切に対処することね」 |
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鳴島
「具体的にどういう内容なんですかぁ?」 |
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光一
「『コーピング』は簡単に言うと以下のような感じ。
1.ストレスを引き起こす状況を問題視して、
その状況そのものを改善する……という方法。
2.ストレスによる不快感を軽減するため、
気晴らし、あるいは良い側面を見出そうとする方法。
と、こういうアプローチを指す言葉だね」 |
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清香
「例えば【1】で言えば、職場の配置転換とか、転職。
【2】ならば、運動とか思考方法の転換ですかね?」 |
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光一
「そう言うことだね。
そして、【2】は以前話をした
『〜しなくてはいけない』とか
『〜であるべき』という価値観を
『〜したい』という思考方法に変える事や、
『〜だ、けど〜』という『Yes,But思考』を
『〜だ』という『Yes思考』に切り替える事が
まさに当てはまるね」 |
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鳴島
「言われれば、そうですねぇ」 |
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光一
「それに【1】の観点は転職なんてしなくてもいい。
職場の上司に
『この仕事は負担が大きすぎます』と相談し、
仕事を他の人にも分けてもらうような、
周囲からの支援を貰えるように、
環境を変える……という建設的手法もあるよね」 |
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清香
「あ、そっか…………
全部自分で抱える……という環境を、
変えることだって出来ますよね?」 |
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光一
「こうして『コーピング』で適切にストレスを解消する。
この適切な処置を重ねることで、
人間として成長する事が出来る。
この自己成長が、まさに
『不安障害』を治療する上で、重要なんだ」 |
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清香
「今日、『不安障害』の治療で最初に述べた、
『認知行動療法』と重なる部分ですね」 |
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光一
「そうだね。
ただし、自分で出来ない目標を立てるのは、
何度も言うけどNG、ダメだからね。
自分の中で出来ない事は何か?
それを認知して、出来る事を伸ばすよう練習する。
これが治療のために大事な事だね」 |
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鳴島
「つまり、適度なストレスが生きる上で必要だ。
それにどう、アプローチするかが大切だ……
というのが、今日の結論ですね」 |
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光一
「そ、まさにそれが結論。
過重なストレスと、その継続は病気になってしまう。
けど、適度なストレスは生きるために必要なんだ。
それへの適切な対処……コーピングを出来れば、
人間としてより強く成長していくことが出来るんだね」 |
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清香
「でも、マスターが言いたいの…………
実はそれだけではないですよね?」 |
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光一
「うん。人によってストレスを過重に感じるか、
それとも大して感じないか…………
同じものに対しても程度が異なるんだ。
会社の上司が部下に接するにしても、
友達と接するにしても、
『あ、この人はここまでのストレスはOKだろう』
『あ、この人はこれ以上のストレスはNGだな』
と、それぞれの個性を認めて、
それぞれに接する事が、何より大事だね。
同時に、自分を大事にすること。
自分を大事に思えない人は、
他人を大事に思うことが出来ない。
自己肯定感を持つことが大事だよ」 |
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鳴島
「つまりは、相手を思いやって互いに行動する。
これが社会的には重要という事ですねぇ」 |
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光一
「うん。それでOK。
今日の『不安障害その2』はこれで締めくくろう。
コーピングとかについては、また触れる機会があれば」 |
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鳴島
「はーい♪」 |
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光一
「と、実は…………
今日、相互リンク申請と同時に
なんと綾香君のイラストを貰えるという、
嬉しい出来事に直面しました」 |
『鳴島綾香イラスト』
※縮小前は上記ページにあります
(くらみず様より)
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光一
「くらみずさん、ありがとうございました!」 |
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鳴島
「ホント、ありがとうございますぅ♪」 |
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清香
「今後も、当サイトを、よろしくおねがいします!」 |