|
光一
「というわけで、私もね、
高校生の時はモテ期だったのだよ」 |
|
清香
「なんというか…………」 |
|
鳴島
「マスターに恋愛話というか、
色恋沙汰を相談するなんて……」 |
|
清香
「とても不安すぎて、私には無理です。
まずもって、ありえない気がします」 |
|
光一
「10数年前の私を全否定!?」 |
|
鳴島
「マスターに女子の同級生が
次々に相談に訪れてきていたなんて」 |
|
清香
「よっぽど当時、可哀相な位に、
人材がいなかったんでしょうね」 |
|
光一
「ひどい言われようだな!?」 |
|
清香
「だって、どう考えたって」 |
|
鳴島
「恋愛経験が人並み以下のマスターに
恋愛相談を持ちかけるなんて、
不安というか恐怖そのものですよねぇ」 |
|
光一
「そこまでか!?」 |
|
清香
「さて、そんなマスターの
捏造にすら思える過去話はどうでもいいとし」 |
|
光一
「捏造じゃないよ!!
ホントの過去話だって!!」 |
|
鳴島
「今日は何の話をされますかねぇ?」 |
|
光一
「君達と一緒に会話していると、
過去の自身の記憶にすら
あれ? 記憶違いだっけなんていう
不安を感じるんだが……
私、本当にリア充した高校生だったか?」 |
|
鳴島
「じゃあ、マスターはぁ、
根源的に不安を抱えているようなのでぇ、
今日も『不安障害』の話をされますかぁ?」 |
|
光一
「明らかに不安にさせたのは、
君達の言動によってだよね!?」 |
|
清香
「『不安障害』についての話は、これで3回目です。
1回目は『不安障害の分類』が主な話で、
2回目は『不安障害の治療・克服』でした」 |
|
光一
「君達、完全に私を無視して話を進めてるよね?」 |
|
鳴島
「なお、精神疾患シリーズは今日が10回目。
以前は…………
うつ病:『(その1、その2、その3)』
依存症:『(その1)』、
強迫性障害:『(その1)』、
不安障害:『(その1)(その2)』、
栄養療法:『(その1)(その2)』
というような話を進めてきましたぁ」 |
|
光一
「まあ、いいや。
私が無視されるのは、いつもの気もするし……」 |
|
鳴島
「いい歳した大人が、いじけてるー♪」 |
|
光一
「い、いじけてなんかないやい!
と、まあ……では話を始めよう」 |
|
鳴島
「で、どういう話を始めますかぁ?」 |
|
光一
「今日は『不安障害における二次的障害』
これについて話をする事にしよう。
『不安障害』の人が留意すべき点の喚起。
あと、どうしてそうなってしまったか?」 |
|
清香
「具体的にはどういう話ですか?」 |
|
光一
「以前話に何度か出たが、
1.『コントロール欲求』について。
2.『何故コントロール欲求の強い人間になったか』
という、この2点について話をしよう」 |
|
鳴島
「『コントロール欲求』って言うと、以前……
『うつ病』の話でされていましたよねぇ?」 |
|
清香
「『コントロール欲求』は簡単に言うと、
『自分は病気なんだ!
だから、周囲の人間・環境は、
私に合わせろ! 私が中心だ!』
と、周りを振り回してしまう事ですよね?」 |
|
光一
「そう。『うつ病』『不安障害』などの精神疾患に、
付随して現れる欲求の1つなんだ。
周囲を『自分の思い通りに動かしたい』欲求ね」 |
|
鳴島
「最初は周囲の人間も
『あ、この人は病気なんだから』と、
その人に合わせてくれるんですよね?」 |
|
光一
「だが、この欲求は周囲の人間を疲れさせる。
それは容易に想像がつくよね?
『常に自分に合わせてくれ!』
『何で自分の思った通りに動いてくれないの!』
って言うのだから。
そうすると、友人・家族が患者から離れていく。
振り回されて疲れるのはイヤだ……とね」 |
|
清香
「対人関係を悪化させる要因ですよね」 |
|
光一
「そう。病気が長引くと同時に、
『コントロール欲求』が長く続くと、周囲は疲弊し、
家族・友人との絶縁、離婚などが起きてしまう」 |
|
鳴島
「でも、そうすると誰も支えてくれる人……
いなくなってしまいますよねぇ」 |
|
光一
「そう……だから精神疾患の患者が、
孤立してしまう要因となるんだ」 |
|
清香
「マスターは今まで何回も、前回もですが、
『周囲のサポートが重要』と言ってましたね。
普通の人のように行動できないから、
周囲の理解と支えで、成功経験を重ねて、
行動を出来るようにしていくと」 |
|
光一
「そうだよ。『うつ病』『不安障害』など、
精神疾患は基本的に周囲のサポートが大事。
これがあるか無いかで、
治療の難易度が変わってしまう」 |
|
鳴島
「それが受けられなくなると…………
治療困難や病気長期化の原因になりますよねぇ」 |
|
光一
「その通り」 |
|
鳴島
「まず、おさらいも含めてですがぁ、
『コントロール欲求』って
どうして発生するんですかねぇ?」 |
|
光一
「うーん、
根幹にあるのは『無力な自分』だね」 |
|
清香
「『無力な自分』?」 |
|
光一
「そう。『不安障害』などを抱える人は、
『自分は何も出来ない人間だ』
『将来が不安だ、自分は死ぬんじゃ?』
『周囲の視線が怖い、評価が怖い』
『自分は誰からも必要とされてないんじゃ』
といった…………
こうした漠然とした不安感を常に抱えている」 |
|
鳴島
「つまり、人と接していても、
仕事をしていても、日常生活を送っていても、
とにかく不安だという事ですよね?」 |
|
光一
「人間誰しも、不安と無縁の人はいないが、
基本的には一過性のものとして、
不安はすぐに消えるものなんだ」 |
|
清香
「まあ、24時間常に不安ばっかり……
って、普通の人ではないですよね?」 |
|
光一
「ところが『不安障害』の人というのは、
24時間常に不安なんだ。起床から就寝までね」 |
|
鳴島
「そんなにずっと…………」 |
|
光一
「起床すれば、
『今日は無事に生き延びられるか?』
と、ずーっと思い悩んでいる。
寝る時にすら、
『今日はちゃんと眠れるのか?』
『明日はどうなってしまうんだろう?』
と、ずーっと考えている…………」 |
|
清香
「睡眠障害などになりそうですね……
と、ずっとそれだけ不安でいたら、
気がおかしくなりそうです」 |
|
光一
「まあ、具体的に症例で言えば、
『パニック障害』は典型的だね。
『今日、外に出て発作が起きたらどうしよう』
『今日こそ、発作で死んでしまうんじゃないか』
『怖くて、外出できない、仕事に行けない』
と、ずーっと不安を抱えているわけだ」 |
|
鳴島
「つまり、不安が常に頭から離れないので、
日常生活に支障が出ているんですよね?」 |
|
光一
「そう。その根幹は『無力な自分』というわけだ。
『不安に対して、抗する事の出来ない自分』
そうすると、その症状の二次的な部分として、
『コントロール欲求』が現れるんだ」 |
|
清香
「なんでですか?」 |
|
光一
「つまり、『無力な自分』がいる。
『自分では不安を取り除けない』
よって、
『周囲の環境・人を、自分にとって
安心できるものにしたい!!』
この欲求が強まってしまうわけだ」 |
|
鳴島
「それが『コントロール欲求』というわけですねぇ」 |
|
光一
「そう。これが…………
1.『コントロール欲求』について。
の、まあ、回答というわけだ」 |
|
鳴島
「でも、それだとずっと…………
『ああ、今日もずっと不安だ』
って気持ちは晴れませんよね?」 |
|
清香
「周囲の理解・支えも必要なのに、
それすら失ってしまいますよね?
どうしたらいいんですか?」 |
|
光一
「それこそ、前回の話の通りだよ。
『自分の不安は自分で克服するしかない』
不安を克服できれば、
当然『コントロール欲求』も収まる」 |
|
鳴島
「あ、そっか……これって
『不安障害』の二次的障害ですもんね」 |
|
清香
「『不安障害』の治療・克服過程が、
そのまま『コントロール欲求』の克服過程ですね」 |
|
光一
「そういう事だね。そういうわけで、
克服するには『認知行動療法』が大事。
『投薬治療』もあるにはあるんだが……」 |
|
鳴島
「ん? 何か問題が?」 |
|
光一
「前回も言ったように、
『投薬治療』だけでは『不安障害』は完治しない。
服用を止めたら、また再発してしまうから」 |
|
清香
「そう言ってましたね」 |
|
光一
「結局のところ、
『コントロール欲求とは』何か?
『他人や薬への他力本願』なんだよ。
『〜によって、〜のおかげで不安じゃない』
という心理状態なわけだ」 |
|
鳴島
「あ、そっか…………
周囲の環境・人に自分の思うように
動いてもらいたい欲求ですもんね。
その意味では他力本願ですね」 |
|
光一
「そう。だから重ねて言うけど、
『不安障害』の完治、『コントロール欲求』の収束
これは『認知行動療法』による、
成功体験の積み重ねによって、
『多少の不安も怖くない』
と、認知していくようにするしかない」 |
|
鳴島
「なるほど。
でも、薬も必要ですよね?
前回の話では、『薬は補助輪だ』と」 |
|
光一
「その通り。薬はやっぱり必要なんだ。
例えば『パニック障害』は以前話した通り、
『不安障害』の一類型なんだけど、
『パニック障害』が起きている最中に、
患者の努力のみで不安を克服できるか?」 |
|
清香
「無理に決まってますよね。
無理を重ねて、失敗体験をさらに積んだら、
症状はもっと悪化しますよね?
ますます不安が増大しますよね?」 |
|
光一
「そういう不安が強まる時こそ、かえって、
患者の『コントロール欲求』は強まってしまう。
その事も理解できるよね?」 |
|
鳴島
「そうですね。例えばこういう事ですよね?
電車に乗ると『パニック発作』が起きてしまう人は、
『電車に乗れない! 誰かなんとかしてくれ!
会社に行く時、私を車で迎えにきて!』
とか、そういう思いは強くなりますよね」 |
|
光一
「うん。でも、それで周囲を振り回すと、
本来助けてくれるはずの人が、
『自分も疲れるからイヤだ』
と、だんだん遠ざかってしまう」 |
|
清香
「推測できる事ですけど、そういう場合、
周囲の人にこう思われるんじゃないですか?
『コイツ、ただのワガママなんじゃ?』
『ただ、甘えたいだけなんじゃない?』
とか、誤解を受けかねませんよね」 |
|
光一
「そう。そういう誤解も受けてしまう。
結果として、サポートが得られなくなり、
症状は悪化し、病気が長期化するわけだ」 |
|
清香
「ですよねえ」 |
|
光一
「だから、当然こうした状況回避……
あるいは緩和のためには、
『投薬治療』は絶対に不可欠な要素になる。
自転車の補助輪としてね」 |
|
鳴島
「薬があることでの、安心感を得るわけですね」 |
|
光一
「そう。そして同時に大事な事は、
さっきまで指摘した
『周囲を振り回す欲求』……つまりは、
『コントロール欲求』を患者自身が自覚する事ね」 |
|
清香
「自覚すると、何が違うんですか?」 |
|
光一
「何かに不安を感じた際に、
『周囲を何が何でも自分に合わせさせる』
という感情が芽生えている…………と、
その事実に気が付けば、別の事にも気が付く。
『あ、これでは周囲の人は疲れてしまう』とね」 |
|
鳴島
「気付いたところで、不安は消えませんよ?」 |
|
光一
「不安は消えないけど、違う点があるだろ?
『実は、こういう不安が今あるんだ。
だから、ここまでしか出来ないんだ。
だから、手を貸してもらってもいい?』
と、周囲とのコミュニケーションを考えられるようになる」 |
|
清香
「つまり、感情的に周囲を振り回すのではなく、
理性的に『何が不安で、どうしてもらいたい』か、
これを相手と話し合う事になると」 |
|
光一
「これなら、相手と健全な関係を維持できるだろ?
『自分の欲求だけを感情的に出す』
そうじゃなくなるんだよね?
『自分の不安を言語化し、対話する』
こうなるわけだから」 |
|
鳴島
「あ、そっか…………」 |
|
光一
「と、ここで重要なキーワードが出たんだ。
『不安障害』の人は、
『何に対して不安なのか不鮮明』
という事が往々にしてあるんだ」 |
|
清香
「はい」 |
|
鳴島
「そのせいで、周囲の人からすれば、
『この人、何に不安がってるんだろ?』
『何を考えてるのか、分からない』
と、そうなってしまうわけですね」 |
|
光一
「だから『言語化』が大事なんだ。
『自分は何が不安なのか?』
『何が出来て、何が出来ないのか?』
これを自覚して、言葉にする練習をする」 |
|
鳴島
「そうすれば、感情的にならずに、
周りの人に理解してもらえるように、
動く事が出来るわけですね」 |
|
光一
「そうすれば『コントロール欲求』を抑制出来る。
周囲との関係が良好なまま保てれば、
サポートも受けやすくなるため、
『不安障害』の治療もスムーズになりやすい」 |
|
清香
「じゃあ、次の観点に行きましょう。
2.『何故コントロール欲求の強い人間になったか』
という事ですね。
何で、そういう人になってしまうんですかね?」 |
|
光一
「『不安障害』などの精神疾患は、
生育環境も大きく関係しているんだ」 |
|
鳴島
「育ってきた過程で、
そういう風になりやすい気質になってしまった、
そういう事ですかぁ?」 |
|
光一
「そう。前々から述べてきたよね?
『うつ病』などになりやすい人の価値観。
『〜だ、でも〜』という『Yes,But思考』
こういう思考様式は、
最初から持って生まれてはいないよね?
赤ん坊の時は誰でも同じでしょ?」 |
|
清香
「そうですよね。
その人の性格・価値観って、
生まれた時にはまだ白紙ですよね」 |
|
光一
「『〜したい』という欲求で行動できる、
健全な性格の人がいる一方で、
『〜しなければいけない』という義務感のみの、
不健全な性格の人もいるわけだね。
これは先天性ではなく、後天性だ」 |
|
鳴島
「つまりマスターはぁ、
『不安障害』の二次的障害である、
『コントロール欲求』が強くなりやすい人は、
育ってきた過程に問題があると言うんですねぇ?」 |
|
光一
「そうだよ。精神疾患の人は、
自分の子供時代からの事を、
よーっく思い出してみて、
自分の思考様式がどうしてそうなっているのか、
振り返って、気付く作業も大事なんだ」 |
|
清香
「その事で、『自覚』をして、『認知』して、
思考・行動様式を転換するんですね」 |
|
光一
「そう。『性格』は作られたものである以上、
変える事が可能なものだからだね」 |
|
清香
「それで、『コントロール欲求』が強くなりやすい人は、
どういう生育環境に起因すると考えられるんですか?」 |
|
光一
「まあ、これは同時に…………
『不安障害』になった人の生育環境、
どうしてそうなったか、という事でもあるがね」 |
|
鳴島
「『コントロール欲求』が
『不安障害』の二次的障害ですからね。
根っことしての生育環境は重なりますよねぇ」 |
|
光一
「まず、『コントロール欲求』は、
『愛情欲求』そのものなんだ」 |
|
清香
「『愛情欲求』ですか?」 |
|
光一
「つまりね、先ほども言ったように
『コントロール欲求』は、
『無力な自分』に対して
『周囲の力がある人に守ってもらって
自分の中に安心感を得たい』
…………という構図があるんだ」 |
|
鳴島
「それは先ほどまでの観点の話であって、今の観点は、
それがどうして生育過程で生まれたのかですよねぇ?」 |
|
光一
「まず、重要な観点は
『子供時代に、周囲の力ある人(大人)が、
しっかり支えてくれていたか否か』」 |
|
清香
「それが重要な観点なんですか?」 |
|
光一
「そう。子供時代というのは、
何に対しても経験不足だ。
その時に、何をするにしても、
周囲の大人たちが適切に接していたか?」 |
|
鳴島
「それによって将来、
『不安障害』になる可能性が異なると?」 |
|
光一
「子供時代に周囲の大人がしっかり支えてくれた人は、
『怖いものは無い! みんな助けてくれる!』
と、どんどん自分への自信が高まっていくんだ。
結果、大人になった時にどうなるか?
『無力な自分ではない自分』になるんだよ」 |
|
清香
「子供時代に大人がしっかり支えてくれる……
周囲の大人がしっかりしていれば、
不安を抱かないで済む大人になれると?」 |
|
光一
「生育過程としては、そういう事」 |
|
鳴島
「じゃあ、『不安障害』になりやすい。
『コントロール欲求』が強い人って、
どういう生育環境が考えられるんですかぁ?」 |
|
光一
「先ほどと逆の事だよね」 |
|
鳴島
「逆?」 |
|
光一
「子供時代に周囲の大人がしっかり支えてくれなかった。
例えば、周囲の大人自体に力が無かった……
子供の目から見ても危なっかしい親だったり、
親が忙しすぎて、子供をしっかり見てなかったり、
こういう場合、子供が放置されがちになる」 |
|
清香
「そういう意味では、今の子供達に多そうですね」 |
|
鳴島
「今だけじゃなくて、バブル期前後に生まれた人は、
親が共働きになって忙しかった世代ですから、
子供を支えてくれる人がいなかったかもですねぇ」 |
|
光一
「そうすると、子供は『経験不足で無力な自分』を
ずーっと抱え込んだままで、自信を持てないよね?」 |
|
鳴島
「確かに…………」 |
|
光一
「そうすると、どうすると思う?」 |
|
清香
「不安で仕方が無いので、
……うーん、子供ですからね。
周囲からの評価を得たがるんじゃないですか?」 |
|
光一
「何で?」 |
|
清香
「子供にとって、学校のテストや成績表って、
一種の自己実現みたいじゃないですか。
点数が高ければ、みんな誉めてくれますよね?
それで、『無力な自分』に対する不安を
なんとか払拭しようとするというか」 |
|
鳴島
「以前にも、うつ病などになりやすい人は、
周囲からの評価が第一だと言ってましたねぇ」 |
|
光一
「うん、見事な明察だと思う。その通りだね。
子供は敏感に感じ取るんだ。
『周囲の大人は自分を支えてくれない』
だから、
『どんどん勉強しよう、いい点数を取ろう!』
『少しでも周囲の評価を良くしよう』
と、こうなって、周囲の目には
『あの子、よく勉強も出来て、真面目な子ね』
と、映るような子供になるんだ」 |
|
鳴島
「つまり、勤勉で真面目な子供になると?
大人になれば、そのまま…………
繊細で勤勉・真面目な人になると」 |
|
清香
「そういえば、マスター。以前言ってましたね。
『うつ病』は真面目な人ほどかかると」 |
|
光一
「うん、そういう風に人格形成されたのだね。
でも、勉強して知れば知るほど、
言い方が悪いけど、頭でっかちになってしまう」 |
|
鳴島
「勉強を続けてばかりで、成績とかの、
周囲の評価ばっかり気にしてますよねぇ?」 |
|
光一
「そう。前も言ったね?
『うつ病』などになりやすい人は、
『周囲の評価が第一』で、
『自分の事(自我)は横に置く』と」 |
|
鳴島
「言ってましたねぇ」 |
|
光一
「しかし、世の中の事を知れば知るほど、
不合理で先の見えない社会だと知るんだよね。
そうすると、不安感はますます増大する」 |
|
清香
「勤勉さと真面目さが強調される性格になったので、
かえって世の中への不安が増すんですね」 |
|
光一
「同時に、それに対して『無力な自分』がいる。
これにも根源的に気が付いてしまうんだね」 |
|
鳴島
「なるほど…………
子供時代に、大人からの適切な支えを受けてないと、
結果として『無力な自分』『不安な自分』
そういう根幹部分を持った大人になってしまうと」 |
|
光一
「まだ、子供の頃は社会的ストレスも少ないし、
それが仮に弱かったとしても、
一応親の保護下にあるよね」 |
|
清香
「そうですね」 |
|
光一
「ところが成人すると、
常に潜在的に抱えていた不安……これを、
支えてくれた保護者は側にはいなくなるよね」 |
|
鳴島
「そうですね。
社会的に自立しなくてはですし、
一人暮らしになったり、会社勤めになったり、
場合によっては家族を持ったり…………」 |
|
光一
「綾香君は、一人暮らしどうだい?」 |
|
鳴島
「私は不安も何もないですよぉ♪」 |
|
清香
「むしろ、お姉ちゃんは、
毎日好き勝手に生きてるもんね」 |
|
鳴島
「好き勝手!?」 |
|
光一
「まあ、自分の『〜したい』で生きている綾香君は、
むしろ健全な人間なわけだよ。
きっと小さい頃に、しっかり支えてもらってたので、
不安に対する耐性が出来ているのだね」 |
|
清香
「せいぜいお姉ちゃんの不安と言えば、
29歳なのに、未だ独身…………
どころか、彼氏いない歴29年な事ですかね?」 |
|
鳴島
「不安じゃないもん!!
私に似合う男が寄ってこないだけだもん!」 |
|
光一
「三十路手前の焦燥感は見て取れるね」 |
|
鳴島
「ぐ……が……が……」 |
|
光一
「と、成人すると、
それまで一応支えになっていた周囲の大人は、
全員身を引いてしまうわけだね。
『大人なんだから、自分でやりなさい』と」 |
|
清香
「まあ、そうですよね」 |
|
光一
「先ほどまで述べた生育過程で、
健全に育てた人……つまり、
『無力な自分ではない自分』
になれた人は大きな問題はない」 |
|
鳴島
「そうですね♪」 |
|
光一
「ところが、先ほどまで述べた生育過程で
『無力な自分』として育ってしまうと、
潜在的な不安が強いので、
自分を支えてくれる人を、強く欲するんだ。
『安心感』を求める欲求が
人一倍強い人間になる」 |
|
鳴島
「常に不安で頭が一杯なので、
『誰か、私を安心させて!』って事ですかぁ」 |
|
光一
「うん。でもさ…………
本来『安心感』というものは、
子供時代に、親・周囲の大人から
与えられているべきものだよね?」 |
|
清香
「そうですね…………
そうすれば『無力な自分ではない自分』になれると。
周囲の大人たちの支えが子供時代に弱すぎると、
『無力な自分』として育ってしまい、
『安心感』が無いわけですね」 |
|
鳴島
「子供時代に『安心感』が与えられていれば、
多少の失敗にもめげないですよね。だって、
大人たちが支えてくれる『安心感』がありますから。
かえってそれで強くなって育ってくるわけですね。
なので、大人になった時には、
不安を自分で払いのけられる人になっていると」 |
|
光一
「つまりね、みんな、自分の生育過程を振り返った時、
『無条件の愛』が十分だったかを検証して欲しい」 |
|
鳴島
「『無条件の愛』?」 |
|
光一
「例えば親はさ、自分の子供を愛するにあたり、
何か見返りを要求するかい?
大人達は子供に接するにあたって、
報酬を求めてしまうのかい?」 |
|
清香
「普通は求めないですよね」 |
|
光一
「後は、社会システムの問題が根底にある。
『うつ病』などの精神疾患を持ちやすい人間、
そういう人格を育ててしまう生育環境。
これは社会システムの問題にも起因しているから」 |
|
鳴島
「というと、どういう事ですかぁ?」 |
|
光一
「さっき言ったよね?
子供時代に周囲の大人たちが、
その子供に『安心感』を与えられるように、
十分に支えて、接してこれたのかが大事だと」 |
|
清香
「言ってきましたね。重要な観点として」 |
|
光一
「つまり、重要な問題は、
大人が子供をしっかり支えられる社会なのか?」 |
|
清香
「今はとても、そうは思えませんね」 |
|
光一
「なんでだい?」 |
|
清香
「不況下で親自身、いつ失職するか分からないし、
将来の先行きも見えないですし…………
何より、仕事も忙しくて、
なかなか子供と接する事が出来ないですよね?」 |
|
鳴島
「それに昔ほど、人同士の絆もないですよね?
隣近所の人同士で助け合って、
子供を見守るとか……あまり無いですよね、今」 |
|
光一
「しかも今は、ギスギスした競争社会になってる。
互いに蹴落とす事は考えても、
助け合う精神は希薄になってきているね。
さらに、企業は人を育てる事よりも、
即戦力を求めて、人を大事にしない」 |
|
清香
「確かに…………」 |
|
光一
「今の時代は、
子供の事よりも、仕事に偏重する
不安定な親子関係になってきている。
子供達にとっても、大人たちにとっても、
『不安の時代』になっているわけだよ」 |
|
鳴島
「『不安の時代』?」 |
|
光一
「人間にとって、根底での『安心感』の無い社会」 |
|
清香
「それは確かにそうですね…………
学校でいい成績だった。いい大学へ行った。
だからって将来が保障されるわけでもない。
誰もが、いつ社会から振り落とされるか分からない」 |
|
光一
「例えば『パニック障害』の根底には、
『不安がこみあげてきた(パニック発作)際に、
支えが無いので不安で仕方ない』
という部分があるわけだ」 |
|
清香
「なるほど……だから、生育過程は大事だと。
振り返ってみて、自分が『安心感』を持って、
『無力な自分ではない自分』になれたか、
あるいは『無力な自分』として育ってしまったか、
それを気付いて『認知』する事が大事だと」 |
|
光一
「そういう事だね。
まあ、そうして不安が強まってしまうと、
『安心感』を求めて、
『コントロール欲求』が強まるんだ」 |
|
鳴島
「あ、だから生育環境で、子供時代に
『大人たちのしっかりした支え』が無かった場合、
『コントロール欲求』の強い人間になってしまうと」 |
|
清香
「『無力な自分』は常に不安を抱えているので、
『安心感』を求めて、
周囲の人を自分の思い通りに動かしたい、
そういう欲求が強まってしまうんですね」 |
|
光一
「そうだね。今日の第二の観点、
2.『何故コントロール欲求の強い人間になったか』
という事については、ここまで述べたように、
その人の生育過程が大きく影響している事がある」 |
|
清香
「なるほど…………」 |
|
光一
「また、こうした『コントロール欲求』は相手に対して、
『安心感』を求める『愛情欲求』なのだけど、
当然いつも『安心感』を周囲の人が与えてくれるとは、
まあ、限らないよね?」 |
|
鳴島
「そうですね。前の話に戻りますが、
『自分に合わせてくれ!』って言う欲求に、
周囲の人間が疲れ果ててしまったり、
『君の欲求ばかり聞いてられないよ』
って、突っぱねられる事も考えられますねぇ」 |
|
光一
「そうすると、『コントロール欲求』は、
自分の期待に周囲が応えてくれないと、
『怒り』の感情に転換してしまうんだ」 |
|
清香
「『何で、私の不安を分かってくれないの!』
『どうして、要求を認めてくれないの!』
『何で私を支えて、安心させてくれないの!』
と、こういう風に『怒り』に変わると」 |
|
光一
「そうそう。
何で『怒り』になるか、分かる?」 |
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鳴島
「清香が言った通りじゃないですかぁ?」 |
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光一
「もう少し突き詰めてみて」 |
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鳴島
「えっとぉ…………
『安心感』を得る事で、
『不安』とのバランスをとりたいんですよねぇ?
でないと、不安に押しつぶされそうだから」 |
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光一
「いい回答だね。
つまり、『自分の不安・満たされない安心感』
こればかりでは、人間の感情は
バランス崩壊してしまうよね?」 |
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清香
「そうですね。
なんせ、負の感情ですから」 |
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光一
「そうすると、人間は…………
『怒り』という発露によって、
『何も考えないようにする』んだよ」 |
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鳴島
「『怒り』は何も考えない?」 |
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光一
「少なくとも…………
『怒っている最中』は何も考えないで済む。
こうして、不安に潰されそうな自分との間で、
感情のバランスを取ろうとするんだよ」 |
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清香
「でもそれって…………
人間関係を根底的に悪くしませんか?」 |
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光一
「そうだよ。だから『コントロール欲求』は
人間関係を損ねてしまい、
結果としてさらに『安心感』を得る事が出来ず、
ますます不安感を増大させてしまう結果になる」 |
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鳴島
「その内に、誰からのサポートも
得られなくなりますもんねぇ」 |
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光一
「なので、最初の話に戻すけれども、
『不安障害』の克服と同様で、
不安を『言語化』する練習をして、
周囲と建設的な話し合いをする事。
そうして、成功の経験を重ねる事で、
不安の対象を克服するんだ」 |
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鳴島
「そうすれば『不安障害』も完治していき、
『コントロール欲求』も収束していく
そういうわけですねぇ」 |
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光一
「うん、そういうわけだ。
今日は、
1.『コントロール欲求』について。
2.『何故コントロール欲求の強い人間になったか』
の観点から話を進めたけど、
そういう風に克服すると良いのだね」 |
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清香
「そのためにも、自身の生育環境についても、
振り返って考えてみると良いわけですね」 |
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光一
「そう。そして自分の思考様式を変えていく、
その練習をしていくのだね」 |
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鳴島
「というわけでぇ、
今日の『不安障害その3』の話は、
まあ、ここまでという事ですね」 |
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光一
「うん、そうしよう♪」 |